ソーシャルワークから見た「地域福祉の人材」

05地域福祉の理論と方法

問題40 地域福祉の人材に関する次の記述のうち、適切なものを2つ選びなさい。
1 権利擁護人材育成事業の養成者のうち、成年後見人等として選任されている市民後見人の数は、2017年度(平成29年度)末で3万人を超えている。
2 生活支援体制整備事業の生活支援コーディネーター(地域支え合い推進員)は、原則として民生委員・児童委員から選出される。
3 認知症サポーター養成事業は、認知症高齢者に対して有償で在宅福祉サービスの提供を行う人材の育成を目的としている。
4 地域自殺対策強化事業におけるゲートキーパー養成研修の対象には、民間企業等の管理職、かかりつけ医、民生委員・児童委員、地域住民等が含まれる。
5 日常生活自立支援事業における専門員は、支援計画の作成や契約の締結に関する業務を行うとされている。

社会福祉士国家試験 第33回(2021年)より解説

「地域福祉の理論と方法」の、10問中の9問目ですかね。ざっとここまでの流れを確認してみましょう。

第1問目(問題32)が事例問題という、一見するとトリッキーな感じに思えたのですが、「重度」「知的障害」などと社会に名指される方の地域移行という(かつての社会福祉ではありえなかったであろう)具体的な目標を掲げる際に、まず私たちは「地域福祉の理念・原則」を確認したわけです。これは、「重度」「知的」の地域移行を「絵に描いた餅」で終わらせない、そういう宣言なのです。

社会福祉では、具体的な法や制度上で、2000年に初めて「地域福祉」を語りだしました。そこから20年。「地域福祉」という概念で、具体的に何ができているのかいないのか、それを確認するために、問題33で地域福祉の歴史を整理しつつ、その上で、例えば、問題34では行政施策上の地域福祉の在り方、問題37の「地域生活課題」、問題38の「取組」などを、具体的に問うているわけです。

そのうえで、この問題40では、この20年で「地域福祉」が具体的課題となりつつあるなかで、どのような人材が必要なのか、改めて確認しているわけです。

選択肢1 ×に近い△

ここでは、「成年後見人等として選任されている市民後見人」の具体的な数値を聞いているように思えますが、そうではありません。もちろん、知っているに越したことはありませんが、そこまで知らなくても、「3万人を『超えている』」という表現で、×っぽいなと思ってほしいんです。

<日本の地域福祉の歴史的背景>
1950年代~60年代:社会運動期
米国:ロスやロスマンらによってコミュニティワークが理論化
↓影響
1970年代
日本:社会福祉協議会がコミュニティ概念を使い「地域福祉」を語りだす
(が、政策的には採用されず=日本はまだまだ中央集権的な社会福祉)

1990年代前半:バブル崩壊、急激な少子高齢化・第三次産業への移行

1990年代後半:社会福祉基礎構造改革

2000年:社会福祉法に初めて「地域福祉」の用語が入る
↓理念を具体化させていくための10数年
2015年:国が具体化へと動き出す
生活困窮者自立支援法施行(問題37の選択肢1=正解の選択肢
→具体的に地域福祉をやるための制度越境的な法
権利擁護人材育成事業
→必要な人材を育成するための事業

日本の「地域福祉」は、ここ5年ぐらいでようやく具体的に動き出した、そんな感じなんです。そこでのキーワードが「地域包括ケアシステム」や「我が事・丸ごと」だったりするわけで、これらの用語もここ5年ぐらいで語られるようになった理念であり、同時に、具体的なプロジェクトなんです。
(さらに言うと、こういう背景があるから、社会福祉士取得を希望する社会人がここ5年ほどで急激に増えているのです。)
ただ、志まだ半ばであり、具体的に始まったばかりゆえ、人材はまだまだ足りていません。これがソーシャルワークの現場の実感です。であれば、「超えている」なんて表現はしません。
「超えている」という表現は「足りている」というニュアンスを伝えたいときに使うからです。

選択肢2 ×

地域福祉の主体は誰ですか?「地域住民等」であることを問題36で確認しています。
すると、「地域支え合い推進員」という、名前だけ見ても雑多なことを幅広い視野でやっていくことが求められそうな、この役目を、民生委員や児童委員に限定させる意味がないじゃないですか。地域住民全てを巻き込んでいこうとするのです。そうしなければ、「地域福祉」は具体的には達成できないのです。

選択肢3 ×

有償サービスの人材育成であれば、なぜ「地域福祉」なる科目で、「地域福祉」を背景に問われるのですか。ここまでの流れを踏まえても、「認知症サポーター」が有償の人材(=ヘルパー資格)でないことは明らかでしょう。

選択肢4 〇に近い△

ここまでの流れ踏まえれば、地域住民等あらゆる人を巻き込もうとするこの人材育成の対象は、これまたどう考えても〇っぽいじゃないですか。それでいいんです。「地域自殺対策強化事業におけるゲートキーパー養成講座」なるものの詳細を、この問題は聞いているんじゃないのですから。じゃあ何を聞いているのでしょう?もちろん、この問題のタイトルに書いてありますよ。「地域福祉の人材」について聞いているのです。

選択肢5 〇に近い△

日常生活自立支援事業については、他科目でも出てくるので、しっかり押さえておきたいところですが、この流れ,この文脈でこの選択肢で聞かれていることからもわかるように、計画や契約を専門員がしっかりとっていう、そういうノリのみをやるわけないじゃないですか。それらにいたるための周辺的なこと、関係性を作りながら実態把握等々も行っていくわけです。

ということで、知識として選択肢4と5に〇をつけられないとしても、この二つ以外ありえないのです。国家試験がこの二つに円をつけさせようとしているのですから。そうやって、「地域福祉」を具体的に実践していく術を国家試験は教えてくれているのです。

正解 4と5

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