ソーシャルワークから見た「社会福祉法人」

15福祉サービスの組織と経営
今回のポイント
・社会福祉において、「社会福祉法人が潰れては困る」のはなぜか確認する。
・民主主義における秩序維持のための工夫=「三権分立」を再確認する

問題119 社会福祉法人に関する次の記述のうち、最も適切なものを1つ選びなさい。
1 理事長は、無報酬でなければならない。
2 経営安定化を図るため、収益事業を行う義務がある。
3 設立認可を行う所轄庁は、その主たる事務所の所在地を管轄する厚生労働省の地方厚生局である。
4 規模にかかわらず、決算書類を公表する義務がある。
5 評議員会の設置は任意である。

社会福祉士国家試験 第33回(2021年)より解説

問題119から7問は「福祉サービスの組織と経営」です。

「社会福祉士が何で経営について学ばないといけないの?!」とお思いの方、もうとっくに社会福祉は民間主導でやってるんですよ。
社会福祉基礎構造改革を経た2000年代以後は、社会福祉はほぼほぼ民間がやってます。例えば、私がふだんいる東京なんかだと23区の区立の社会福祉施設は、ほとんどが区立民営(=区の施設ではありつつも、民間が運営する)です。社会福祉士だから経営に関してはノータッチでいい、なんて発想はもう古すぎます。

ということで、現行のカリキュラムになった2010年度の国試から、この「福祉サービスの組織と経営」という科目ができ、2024年度の国試からの新カリキュラムでも「福祉サービスの組織と経営」は残りました。

「就労支援サービス」など現行カリキュラムからできたにもかかわらず、新カリキュラムで消えてなくなる科目もある中、この科目は残りました。なぜでしょう。今日の社会福祉士にとって「組織」「経営」という観点なしにはソーシャルワークはあり得ない、ということを社会福祉士カリキュラムを作る国家や研究者側も認めているということです。

それでは、社会福祉関連の「組織」であり、「経営」的な観点が必要な民間団体といったら何を思い浮かべますか。社会福祉関係者だったら、まず挙げるのが社会福祉法人ですよね。

ということで、この問題のタイトルは「社会福祉法人」、この科目の王道問題です。

選択肢4 〇

社会福祉法人について、最低限を押さえるならば。大前提として、社会福祉法人は潰れちゃ困るってことです。

今の法体系では、行政がつぶれるなんて発想はしません。(可能性はなくはないんですけどね。)
そのうえで、社会福祉の施設は潰れちゃ困るでしょ。だって、健康で文化的な最低生活の保障が社会福祉の施設で行われているわけですから。
だからこそ、措置中心の時代においては、社会福祉は行政自らが公立施設で行うのが大原則なわけです。

でも、そんな社会福祉を、措置中心の時代だって、民間である社会福祉法人にやらせてきたわけです。行政だけじゃできないから。だから、そんな社会福祉法人は、潰れちゃ困るんです。
すると、社会福祉法人は潰れないような、そんな制度設計にそもそもしておかなきゃダメなわけです。そこで、社会福祉法人は基本金、それもけっこうなお金がなきゃ作れないわけです。そのうえで、基本金は簡単に手を付けることができないように制限をかけるんです。そんな基本金を資本として施設が維持されるような、そんな仕組みが社会福祉法人の大前提。

するとどうですか?基本金には手を付けてないこと、もしくは手を付けたにしても、法に沿って手を付けているってことを明確に示すことを義務にしなければいけません。だって、社会福祉法人って、行政じゃなく民間ですから、いつなんどき基本金が勝手に崩されて、使われて、返せなくなって、社会福祉法人が潰れたら困るでしょう。

こんなふうに社会福祉法人の前提を考えるだけで、もう正解は選択肢4「規模にかかわらず、決算書類を公表する義務がある」しかありえないんですよ。

おしまい。

・・・。

なーんて解説だけでは、ざっくりしすぎていますし、せっかくですからこの問題を通して、社会福祉法人についてもう少し学びたいので、他の選択肢も追って考えてみましょうか。

選択肢4とセットで、それでは選択肢2について考えてみましょう。

選択肢2 ×

社会福祉における「収益事業」って何ですか?
社会福祉事業や公益事業の財源に充てるためだったら、社会福祉と関係ない事業やってもいいよーって、そういう事業です。

ただし、社会福祉と関係ない事業をやって、それが仇になって、社会福祉法人がつぶれるようなことがあってはあべこべじゃないですか。だから、社会福祉法人は収益事業をやってもいいけど、「義務」にするなんて発想はあるわけないんですよ。

次は選択肢1と5をセットで考えてみましょうか。

選択肢1 × 選択肢5 ×

組織を維持するためには、秩序がなきゃダメ。
秩序を維持するためには、すべての権力を一人に握らせてはならない。
そのような工夫として民主主義国家において採用されているのが三権分立なわけです。

国家において、三権分立は「立法/司法/行政」に当たることぐらいは常識として知っておかなきゃダメですよ。三権分立、中学でも学ぶ民主主義の大原則ですが、忘れちゃった人は、このあたりで復習しておきましょうか。

さて、この三権分立は国家の秩序の維持だけに当てはまるものじゃなく、いろんな組織において応用されていること、これもまた知っておかなければなりません。

もちろん、「社会福祉法人も」です。

社会福祉法人における三権分立
評議員会 ②理事会 ③監事

これらが三権分立だということは、絶対に「三つ全部なきゃダメ」だってことです。なぜなら、どれかがなくてもいいなら、権力がどこかに集中してしまうからです。それを避けるための三権分立なのですから。

もちろん、このような三権分立の説明に対して「そんなのは理想論で、社会福祉法人の実態は、この三つがなーなーでやってんだよ」と(現場の職員なんかから)反発されることぐらい、よーく存じ上げております。私も現場に今でもいますからね。だからこそ、このような「実態を知る者のほうが正しく、理想なんてのは実態を知らない子どもが語るものだ」というような語りもまた、私は受け入れたくもあります。そうでも言わない限り、現実を知らない理想論ばかり都合よくいう学者先生・政治家先生たちに、現場の者は抵抗できませんから。
ただ、私は現場にいる者が「実態を知っている者」として学者や政治家と対抗するのはもったいないと思っています。「現場にいる者=実態を知る者」だからこそ、学者や政治家という実態を知らず理想を語る者に、実態を知らせつつ、実態を踏まえつつ理想を語りあえる、そんなことを目指さなければいけないと思っています。だからこそ、現場にいる者には、理想を論理的に語る術をもつ、そんなソーシャルワーカーがもっともっと増えてほしい、そう思っています。

ということで。
三権分立を踏まえると、選択肢5のように、評議員会は任意でよい、なんて発想はそもそもありえないのです。

この流れで選択肢1も考えてみましょう。
選択肢1にある「理事長」とは社会福祉法人の「三権分立」の一つ、理事会の代表のことです。じゃあ、理事会って何でしょうか。それを知るには、評議員会、理事会、監事、それぞれが社会福祉法人でどのような役割をもって、それぞれが「三権分立」になっているのか、そこを最低限理解しておく必要があります。

皆さんは国家の三権分立は知ってる、また自分が所属する「(株式)会社」だとイメージしやすいでしょうから、これらと絡めて理解してみましょう。

社会福祉法人の「三権」の役割
①評議員会:国家における「国会」(=立法府)、株式会社での「株主総会」の位置づけ
→社会福祉法人全体の方向付けをし、そのルールを決める
※全体の方向付けに関わるようなルール案件は評議員会で決めなければならない
②理事会:国家における「内閣」(=行政府)、株式会社での「取締役会」の位置づけ
→ルールに従って、具体的な経営を行う
※そんな取締役会の代表が代表取締役、俗にいう社長
③監査:国家における「裁判所」(司法府)、株式会社での「監査役会」の位置づけ
ルールに従って運営されているかどうか監視する

理事会のトップは、国における内閣総理大臣、市における市長、株式会社における社長ですよ。そんな役割を、篤志家、つまりその地域のとてつもないお金持ちが(道徳的義務として)無報酬で兼務するような時代も大昔はありましたが、今はありえません。なぜなら、無報酬では誰もやれないからです。
ですから、社会福祉法人の大前提である「潰れちゃ困る」って話から、論理的に考えても、理事長が無報酬を義務にするなんて発想は、制度的にあり得ません。

選択肢3 ×

これは、即×にしたいですねぇ。問題45の選択肢5の解説でも書きましたが、法人や事業所の指定や認可って都道府県の役割なんです。もちろん、問題45の選択肢5の「地域密着型」のように、その原則を覆すような理由があれば、例外ってことだってありますけど。

さて、この問題のタイトル、何でした?「社会福祉法人」です。つまり、社会福祉法人全般の話ですよ。だったら、都道府県がやるのではない理由なんてみつかりません。

正解 4

【お勧め関連本】
ここまでの解説を読んでいただければわかるように、何か福祉サービスに特化して暗記したことを使って解いているわけじゃなく、高校、いや中学レベルぐらいの公民や政治経済といった科目の知識だけで、論理的に十分解けるように作られているんです。

もしこの問題を間違えて。
でも一方で、上述した私の説明にしっくり来たのなら。
もう一度、高校レベルの政治経済ぐらいの知識を整理してみると、よいかもしれません。国家試験がどうこうとか、そんな話だけじゃなく、今後の学びとして。
「え?社会福祉士って大卒資格ですよね」とか、そんなこと言わずに、必要に応じて、高校、いや中学の教科書にまで遡って学ぶことの意義のほうが大きいですよ。

ということで、お勧めの本を。
高校社会科科目の王道の教科書出版社である山川出版社の教科書。
社会人向けに出版されてて、そこそこ売れれるようです。

 

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