ソーシャルワークから見た「質問紙作成の留意点」

12社会調査の基礎
今回のポイント
質問紙を「アンケート用紙」と理解してはいけない、その理由を知る
・そのうえで、質問紙作成の留意点を、質問紙作成の目的とつなげて理解する

問題88 質問紙の作成に当たっての留意点に関する次の記述のうち、最も適切なものを1つ選びなさい。
1 一つの質問文で複数の事項を問うことは、複数の回答が同時に得られるので、質問紙の作成において望ましいと考えられている。
2 パーソナルな質問とは社会一般的な意見について尋ねる質問であり、インパーソナルな質問とは調査対象者自身の意識や行動について尋ねる質問である。
3 質問文を作成するときには、調査対象者に関心を持ってもらうために、一般的に固定的なイメージを持つステレオタイプな用語を使う必要がある。
4 社会的に望ましい結果を得るために、誘導的な質問をすることは質問紙の作成として適切である。
5 前の質問文の内容が次の質問文の回答に影響を与えないように、注意を払う必要がある。

社会福祉士国家試験 第33回(2021年)より解説

俗に「アンケート用紙」などと呼ばれているもの、それが質問紙です。
実は、「アンケート」という言い方そのものが俗語(=日常用語)です。ですから、日頃使っている言葉のイメージで「社会調査」を理解すると誤解が生じることがあります
誤解の例として。例えば、先の問題87の「横断調査と縦断調査」でやってみますか。アンケートによる調査を多くの人が横断調査と思ってしまいがちですが、そのアンケート用紙と同じもので5年後にも調査したならば、縦断調査になります。このあたりが日常用語からくる誤解だということが、社会福祉士としてわかっていますか?なんてことを国家試験問題作成者は社会福祉士になろうとしているあなた方に確認したいわけです。
ですから、基本的な用語はできる限り正確に覚えましょう。社会調査には、私たちがふだん何気なくアンケートを受ける目的(=動機付け)とは異なる目的があり、その目的によって用語が意味づけられているからです。

社会調査の目的から、質問紙を作る際に留意すべき事項で基本的なことはだいたい決まっています。今回の問題は、それらの基礎的なものばかりですので、しっかり押さえたいところですね。

選択肢1 ×

これは、ダブルバーレルを問う選択肢ですね。

ダブルバーレル=1つの質問文で複数の事柄を問うこと

ダブルバーレルは「質問紙の作成において望ましい」ものではありません。
なぜなら、「はい」「いいえ」で質問紙に返答をしてもらったとしても、どの事項についての「はい」「いいえ」なのかがわからないからです。

選択肢2 ×

これは、基礎的な英語の問題ですね。国家試験では時折このような基本的な英語が問われているような問題が出ます。

パーソナル(personal)= 一個人に関する、個人的な、私的な
イン=英語での否定の接頭辞
例 インクレディブル=イン(否定) + クレディブル(信じることができる)
参考 ミスターインクレディブル(ピクサー製作の映画)

どうですかね。これは、ソーシャルワークの知識というよりも、問題作成者がこれぐらいの基礎的な英語というか、言語の知識はもっておいてほしい、という最低ラインを指し占めているような気がします。
社会福祉士は、市民に対して表現してなんぼであり、その表現のために、市民の言葉を理解しようとするものであり、最低限の言葉の力は求められます。このあたりの考え方によって、この資格が大卒程度の能力を求めているのでしょうね。

選択肢3 ×

選択肢の文章がいうように、社会調査は調査対象者に「関心を持ってもらう」必要はあります。そうでなければ、調査に協力してもらえませんから。

調査では「謝礼を渡す」というやり方もなされることが少なくありません。ただ逆に言えば、謝礼を出す調査がそこまで多くはないのです。その理由は「お金がかかるから」というだけではなく、謝礼を渡すことはサンプル数を増やすことだけが目的になってしまいがちだからです。「関心を持って」いないのに、謝礼がもらえるからとテキトーに質問紙に応えられては、データの信頼性が疑われます。

では、関心を持ってもらうために、選択肢にあるように「質問文を作成するときには、一般的に固定的なイメージを持つステレオタイプな用語を使」ったとしたらどうなるでしょうか?
この問題の解説の冒頭で、日常用語の「アンケート」と社会調査での「質問紙」を分けることが重要と書きました。この二つにはズレがあるからです。

アンケートという用語は、選択肢にある「一般的に固定的なイメージを持つステレオタイプな用語」ですね。しかし、これらの用語はわかった気になるだけで、社会調査において聞きたいこととズレてしまうことがありえます。ですから、質問紙の言葉遣いには細心の注意が必要なのです。

選択肢4 ×

この選択肢の文章では、社会調査の目的が「社会的に望ましい結果を得る」ことになっています。このこと自体が誤りです。

ソーシャルワークは社会科学の1つですが、ソーシャルワークだろうが社会科学だろうが、「社会的に望ましい結果」を決める権限はありません。ソーシャルワーカーや社会科学者が「社会的に望ましい結果」なるものを決めて、そちらに誘導するようになる、そのようなことを全力で防がなければなりません。
特に、第二次世界大戦中において、社会科学者が科学の名の下に戦争を誘導するような発言をしたことが多々ありました。これらの反省から、社会科学においては、戦後にマックスウェーバーがよく読まれるようになりました。彼が解く「価値自由」、つまり「社会科学において認識の客観性を保つためには,一定の価値基準に従った判断を迫るような態度をとるべきでない」という立場へ、社会科学が戻ろうとしたからです。だから、「社会理論と社会システム」ではウェーバーがよく出題されるのです。

選択肢5 〇

この選択肢を見たら、他の選択肢など関係なく、即〇にしなければならない、それぐらい基本的な知識ですね。キャリーオーバー効果について問われています。そのまま覚えちゃいましょう。

キャリーオーバー効果とは?
→前の質問文の内容が次の質問文の回答に影響を与えること

例えば。人前では言わないもののワクチン接種は嫌だなと思っている人がいたとしましょう。そこに「いい/悪い」という価値を持ち込まないこと、これがあらゆる社会科学に求められる「価値自由」という立ち場です。
一方で、とある社会科学者が、一個人として「ワクチン接種は誰もがやるべきいいことだ」という価値意識をもっていたとしましょう。それ自体も「いい/悪い」ではありません。
ただし、一個人として価値意識を持つことと、社会科学者として「価値自由」という立場に立つこと、この二つは自覚的に分けなければなりません。

にもかかわらず、自覚的にその二つを分けないで、ワクチン接種の意識調査の質問紙を作るときに、「ワクチン接種によって、○○の発生がこれだけ減っていることが科学的に証明されていることを知っていますか」という質問の後に、「あなたはワクチン接種に賛成ですか、反対ですか」という質問をもってくるなんてことを何気なくしてしまったりします。極端な例ですが、このような聞き方をされると、「ワクチン接種に反対」とは言いにくいものです。

表面上は「賛成」と言いつつ、個人的には「嫌だな」と思っている人、そういう人の声をいかに社会の意見として「見える」ようにした(=可視化した)うえで、寄り添っていけるかどうか。
この観点はソーシャルワークの見方としてもとても大事な観点です。
だからこそ、ソーシャルワーカーたるもの、キャリーオーバー効果を意識した質問をしてほしい。ということで、国家試験問題作成者はこの選択肢に〇をつけさせようとしているのでしょうね。

なんて考えてみてはどうでしょうか。

正解 5

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