ソーシャルワークから見た「標本調査」

12社会調査の基礎
今回のポイント
・全数調査と標本調査の違いを知る
・標本調査における無作為調査の種類を知る

問題86 標本調査に関する次の記述のうち、最も適切なものを1つ選びなさい。
1 非標本誤差は、回答者の誤答や記入漏れ、調査者の入力や集計のミスなどで生じる。
2 無作為抽出法による標本調査には、道で偶然に出会った見知らぬ人々を調査対象者として選ぶ方法も含む。
3 系統的抽出法は、母集団を性別や年齢別などの比率で分けて標本を得る無作為抽出の方法である。
4 有意抽出法は、確率抽出法の一方法である。
5 無作為抽出法による標本調査では、サンプルサイズの大小は、母集団を推計する信頼度に関係しない。

社会福祉士国家試験 第33回(2021年)より解説

社会調査には量的調査と質的調査があります。

社会調査の種類
(1)量的調査 調査結果を数値化することを目的に実施される調査
(2)質的調査 量的調査以外の調査
いろんな定義がありますが、社会福祉士国家試験の「社会調査の基礎」レベルぐらいであれば、この定義で十分だと思います。大事なのは、両者の違いは調査のやり方ではなく、目的によるということ。
まず質的調査で現場に出向く。現場で、知りたいことを知ろうとする。そして、そこで知ったこと、わかったこと、それがどれぐらいみんなに当てはまるか、それを量的調査で確かめる。
つまり、量的調査で調査結果を数値化するのは、私たちが「わかった!」ってことがどれぐらい確からしいかを、何となく(=主観)ではなく、数字(=客観)で明らかにしたいから、ということになります。
そんな量的調査の特徴を知ったうえで。量的調査には2つあります。
量的調査の種類
(1)全数調査 全員に聞く
(2)標本調査 一部の人に聞いて、そこから全員を推定する
わかったことが全員にどれだけ当てはまるか知りたいのですから、全員に聞けばいいのです。例えば、質的調査で「社会福祉士になりたい人が増えてんだな」と思って、それはどれぐらい確からしいのか知りたいから、日本の全員に聞いてみるわけです。
ところが、日本の全員になんて聞いてたら、途方もなく時間がかかるだけじゃなく、お金もかかる。しかも、20年ぐらいかけて一人一人に聞いて全国行脚してるうちに、社会福祉士なる資格がなくなるかもしれない。(まぁ、この資格がなくならないことを祈りましょうか。)
そこで、一部の人に聞いて、そこから全体がわかるなんて方法があったらいいな、というところから出てくるのが標本調査であり、一部から全体を予測することを「推定」というのです。そして、「推定」においては、一部の傾向が全体とほぼ同じだってことが95%ぐらいいえれば、まあ、全体のこととして扱ってもいいだろう、というのが社会調査のルールです。
すると、その95%正しいっていうことは計算で出さなければなりません。計算で出すためには、適当に一部の人に聞くのではだめで、無作為抽出(=ランダムサンプリング)という方法で、その一部の人を決めなければなりません。
ぐらいの知識を踏まえたうえで、さぁ、問題を解いてみましょうか。

選択肢1 〇

社会調査の「基礎」という名前がついている科目ですが、この選択肢1は、見た瞬間に〇をつけられる、それぐらい「基礎」的なことを聞いています。

標本調査では、一部から全体を「推定」するのでしたね。それを95%以上なら、まぁ全体と同じと見ようと。でも、5%はズレることもあるよってことですよね。どんなに精巧に標本調査をしても、一部の調査である以上、全体そのものと100%同じなんてことは理論上もあり得ません。全体と一部では、誤差が必ず生じるのです。それを「標本誤差」と言います。

標本誤差=標本調査において必ず生じるもの

じゃあ、選択肢1でいう「非標本誤差」とは?この選択肢にある「回答者の誤答」や「記入漏れ」「調査者の入力や集計のミス」がその典型です。一部から全体を推定する云々とは関係ない、調査上のミスによるものですね。このあたりは、全数調査より標本調査のほうがメリットになるところでもあります。全員に聞けば、誤答や記入漏れなどが増えるからです。

ということで、標本誤差の意味がわかっていれば、非標本誤差も推測がつくでしょうし、できれば覚えておきたいところです。

さて、選択肢1で基本事項を出したので、以下の選択肢は多少難しくなっていますかね。ただ、多少であって、社会調査の基礎でしっかり点を取りたければ、以下の4つの選択肢すべてに確実に×をつけられるようになりたいものです。見ていきましょう。

選択肢2 ×

「無作為抽出法による標本調査」については、上述した通りです。これによって全体(=母集団)の推定ができます。※ちなみに全体のことを、社会調査では母集団と言います。これも基礎的なことですから覚えておきましょう。

さて、「道で偶然に出会った見知らぬ人々」とは偶然出会った人ですね。「無作為抽出」の無作為は日常用語でいう偶然ではありません。例えば私が偶然会った人に「社会福祉士になりたいですか」「なりたいです!」と言ったところで、私は社会福祉の業界人であって、そうである限り、私が偶然会う人は社会福祉に興味関心がある人がそもそも多いのです。道で偶然会ったとしても、私が勤務する学校近辺で聞けば、そりゃ、うちの学校の学生に当たることも多くなります。「理論上の全き偶然」と「日常会話でいう偶然」は違うものであって、社会調査でいうところの「無作為」とは統計学における「理論上の全き偶然」のことなのです。

選択肢3 ×

ということで、無作為抽出が日常生活上の偶然じゃダメなので、無作為抽出のやり方は方法として整理されています。

ソーシャルワークという見方からすると、以下の5つぐらいを押さえれば十分でしょう。

無作為抽出の方法
(1)単純無作為抽出法 (2)系統抽出法 (3)層化抽出法 (4)多段抽出法

選択肢3の、「母集団を性別や年齢別などの比率で分けて標本を得る無作為抽出の方法」がどれに当てはまるかわかりますか?

まずこの文章が理解できることが大事です。

「標本を得る」とは、全員調べるのではなくて、標本(=サンプル)を全員から引っこ抜くということですから、この文章は、標本調査のことだと分かります。ただし、「標本を得る無作為抽出の方法」とありますが、標本を得る=無作為抽出ではありません。

標本調査の種類
①有意抽出=標本を適当に選ぶ
②無作為抽出=標本を無作為(すべての確率を同じにして)選ぶ
(1)単純無作為(2)系統(3)層化(4)多段

さて、選択肢3の主語である「系統的抽出法」は「標本調査」の「無作為抽出」の(2)にありますから、「標本を得る無作為抽出の方法」、ここは合っています。

問題は「母集団を性別や年齢別などの比率で分けて」のところですね。これは、層化抽出法の特徴になります。とてもわかりやすく表現してくれてますから、そのまま覚えましょうか。

ということで、上述の図を、国家試験で最低限必要な範囲で、説明を埋めてみましょう。

標本調査の種類
有意抽出=標本を適当に選ぶ ※非確率抽出
無作為抽出=標本を無作為に選ぶ ※確率抽出
(1)単純無作為抽出法=母集団から乱数表を用いて必要数だけサンプルを抽出する方法
(2)系統抽出法=最初の標本のみランダムに決定、残りの標本は等間隔に選んでいく方法
(3)層化抽出法=母集団を性別や年齢別などの比率で分けて標本を得る無作為抽出の方法
(4)多段抽出法=母集団をグループに分け、その中からランダムにグループを抽出する方法

選択肢4 ×

選択肢4の説明に入れましたが、有意抽出法と無作為抽出法の違いは、確率計算ができるか、その差です。確率計算をするためには、無作為じゃなきゃならないのです。だからといって、無作為抽出法のほうが「正しい」というわけではありません。あくまで確率の計算ができ、全体の推定ができるということです。一方で、無作為抽出法は時間やお金が有意抽出法よりもかかります。ですから、無作為抽出法をする前に、有意抽出法で試してみるなんてことはよくあることです。つまり、どの方法をとるかは何をしたいか、によるのです。

選択肢5 ×

上述したように、無作為抽出法による標本調査のメリットは、有意抽出法による標本調査と違って、確率計算ができることです。確率計算ができることによって、出た結果の確からしさを数値で示すことができます。

だからといって、サンプルサイズの大小が関係しないはずがありません。

ちょっと考えればわかります。

例 この両者の推定力は同じ?
〇母集団が1000人→10人を無作為で抽出
〇母集団が100000000人→10人を無作為で抽出

この10人の傾向でどちらも同じ推定ができるなんてことはありえないでしょう。もちろん、前者の10人の傾向のほうが全体の傾向を説明する推定力があることは明らかです。

正解 1

 

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