ソーシャルワークから見た「人と環境との関係に関するソーシャルワーク理論」

14相談援助の理論と方法
今回のポイント
人物をどこまで覚えるべきか、過去問から知る
過去問3年分をやる理由を、再度確認

問題98 次の記述のうち、人と環境との関係に関するソーシャルワーク理論として、最も適切なものを1つ選びなさい。
1 リッチモンド(Richmond, M.)は、「人」、「状況」、「人と状況の相互作用」の三重の相互関連性を説いた。
2 ピンカス(Pincus, A.)とミナハン(Minahan, A.)は、生態学的視座に立ち、人が環境の中で生活し、社会的にも機能していると説いた。
3 ホリス(Hollis, F.)は、パーソナリティの変容を目指し、人と環境との間を個別に意識的に調整すると説いた。
4 バートレット(Bartlett, H.)は、人々が試みる対処と環境からの要求との交換や均衡を、社会生活機能という概念で説いた。
5 ジャーメイン(Germain, C.)は、クライエントの環境は、アクション・システムなど、複数のシステムから構成されると説いた。

社会福祉士国家試験 第33回(2021年)より解説

問題94と同じ、人物の問題です。
ただし、違うところもあります。
問題94は、人物とその人がつくったセツルメントハウスだったので、暗記でもつぶしやすい問題でした。ですから、五肢択一も〇と×だけで勝負できることが多いです。

一方で。
この問題98は、理論の話なので、「ハルハウス」「トインビーホール」みたいに、固定した名前を覚えれば、それでおしまい、というわけにはいかないのです。
なぜなら、理論は、表現を変えて提示することができるからです。すると、〇と×だけでは勝負できません。
なので、私がやっているように〇と×以外に、△、それも、ノーマルな△、〇に近い△、×に近い△などを組み合わせながら、最後にどれを〇にするか判断する、という戦略が有効になります。

それらの判断をするにあたって、私は「その人の著作を読め」なんてことをいうつもりはありません。理論が問われているとしても、その人物の理論のキーワードを押さえるという点では、問題94で問われているような「Jアダムス=ハルハウス」って覚え方といっしょです。
ただ、理論の場合は、そのキーワードのニュアンスを適切に理解して、派生した文章表現について「この人が言ってそうだな」ぐらいの感覚がほしいところです。
逆にいうと、キーワードそのままでなくても、「この人が言ってそうだな」と思える程度に、そのキーワードのニュアンスをしっかり理解しないといけません。

そこで大事になってくるのが、「ソーシャルワークの歴史=流れ」です。

国家試験の五肢択一は、たとえばリッチモンド自身が出題するわけではありませんね。(そもそも100年ぐらい前に亡くなってますから、当たり前ですが。笑)
じゃあ、五肢択一の問題を出すのは誰がですか?社会福祉を研究している研究者です。主に大学教員ですが。それらの人は、この試験が大学入試ではなく、実践をする社会福祉士の試験であることを知っています。そのうえで人物問題を出すのです。
すると、無駄なことを聞こうとはしません。暗記なんかしてほしいとは思ってないんです。それよりも、ソーシャルワークで大事なところを知っているかどうかの確認として、人物問題を出題するんです。社会人だって受ける私見ですからね。
理論の人物問題で問われる大事なこととは、「ソーシャルワークの歴史=流れ」だってことです。

「ソーシャルワークの歴史=流れ」で、最低限、ほんと最低限として絶対に覚えておかなければならないのは、5人ですかね。(ただし、今の社会福祉士国家試験でいうところの「ソーシャルワーク」とはアメリカで作られたソーシャルワークが中心にあり、これら人物名もほぼアメリカ中心であることは、良い悪い含め、理解しておいてください。)

ソーシャルワークの歴史を踏まえた重要人物最低ライン
1910年代 基礎確立期
リッチモンド=個人と社会、パーソナリティの発達、治療モデル
1960年代 変革期
パールマン=問題解決アプローチ、ワーカビリティ
ホリス=心理社会的アプローチ、状況の中の人
バートレット=ソーシャルワークの共通基盤、価値・知識・介入方法
1980年代 統合期
ジャーメイン=生態学的アプローチ、生活モデル
これが大前提であり、ソーシャルワークの核となる部分です。
(そして、これら全員が女性であることも知っておきたいところ。日本の社会福祉理論家として学ぶ人のほとんどが男性であることとはえらい違いで。歴史としての社会福祉理論で出てくる日本の女性で有名どころは、一番ケ瀬ぐらいでしょうか。その理由等々含め、まぁ、機会があれば説明しましょう。)
まず、1910年代ごろにリッチモンドがソーシャルワークを社会科学として位置づけられるような理論化をしたんです。1917年『社会診断』や1923年『ソーシャルケースワークとは何か』なんて著作で。
彼女の理論のポイントは、医学を真似た治療モデルだってことです。
「治療モデル」とは?
「原因→結果」という図式(これを因果関係と言います)を前提に、悪い原因を取り去れば、良い結果になるんだ、という見方のことです。リッチモンドは、この見方を前提に、ソーシャルワークを社会科学として成り立たせようとしたんです。とはいえ、リッチモンドはソーシャルワークを「固有の」(=他とは違う)社会科学として、認めてほしいわけです。ほかの科学でも同じようなこと言ってるなら、ソーシャルワークは科学として認められません。だから、「医学とは違う」ってことも同時に言わなきゃなりません。では、医学における「治療モデル」ってどういう見方ですか?
「身体」中心主義で、原因をすべて「身体」に引きつけて説明する、そういう見方です。だから、医学では、病気の原因は「身体」の内側に限っちゃうんです。医者が身体をくまなく見て、「あ、今、身体の中に新型コロナウィルスがいるね」ってことで、体調不良の原因を確定し、それを取り除くことで、「健康」という結果にもどす、そういう考え方です。

一方で。

リッチモンドの考え方は、因果関係を前提とする「治療モデル」ではありますが、そこでの原因は「身体」にあるのではなく「個人と社会の間」にあるんのだ、というのです。だから、原因を特定するためには、個人と社会、その両方を見続けなければならない、っていうのです。

この「個人と社会、どちらも見続ける」という立場、これがッチモンド以来、一貫したソーシャルワークの固有の見方だと言っていいでしょうね。

さて、この問題のタイトルは何でした?
人と環境の関係」でしょ。
これって、要は「個人と社会」の言いかえなんです。このタイトルから、この問題は、ソーシャルワークがすごく大事にしてることを聞いてるってことに気づかなきゃダメなんです。つまり、ソーシャルワークがリッチモンド以来一貫している固有の見方について、歴代の理論家がどんなふうに言ってきたか、その変遷を聞いているんです。

だから、この問題は、リッチモンドが選択肢1でしょ。

つまり、この問題は、その選択肢の構成から「ソーシャルワークはリッチモンドから始まる」ってことを示しているんです。

ただし、もちろんですが、「リッチモンドの時代」と「今という時代」では、ソーシャルワークが異なるところもあります。

リッチモンドはソーシャルワークの目的を「パーソナリティの発達」なんて言っちゃうんですね。
これは、私から見るに、「治療モデル」からの論理的な帰結として、そうならざるを得ないんです。
「原因→結果」という図式で科学を成り立たせる、それも医学同様に、実践(=臨床)も含みこむ科学を成り立たせるためには、「悪い原因」を取り去れば「良い結果」になる、と言わざるを得ない。そして、その「良い結果」というのが、市民に「なるほどそうだ」と思ってもらえるものでなければ、科学として市民に信用されないわけです。

医学は、「健康」を前提に、「治療モデル」によって科学的な立ち位置を確立しました。当時は、工場労働ができる身体のことを「健康」といい、「健康であること=工場労働で働いてお金稼げていい生活ができること=よいこと」という図式を、市民の誰もが信じていましたから。

それを踏まえリッチモンドは、「パーソナリティ」を前提に「治療モデル」を確立します。当時としては、「正しいパーソナリティ」があるってみんなが思っていたし、それは「良いもの」だ、と市民みんなが思っていた、ということになります。だからこそ、リッチモンドの「治療モデル」を前提としたソーシャルワークは、社会科学として(当時の市民からは)認められたわけです。

ところが、戦後、この「正しいパーソナリティ」なるものが疑われ出すわけです。
その象徴として1960年代の全世界的な社会運動があります。
アメリカでは、白人に都合の良い生き方ができる特性や性格を「正しいパーソナリティ」と言っているだけではないのか、という大きな反発が、公民権運動へとつながっていきます。
そんな時代(=1960年代前後)にあらわれたのが、パールマン、ホリス、バートレットです。
ここで大事なのは、「個人と社会、両方を見続ける」という、この観点はソーシャルワーク固有のものだから、ここは変えてはならない、ということです。ただ、何を目指して、「個人と社会、両方を見続ける」のか、そこ変わってきます。
ざっくり強引に、私の観点でまとめると。
パールマンは、人生のゴール地点などなく、あらゆる人はその都度、問題解決を繰り返し繰り返し、生きていくんだと言います。
あらゆる人をそのように描くと、理論上は、あらゆる人が問題解決する力を大なり小なり持っていることになります。その力を彼女はワーカビリティと名付けます。
そんなワーカビリティは固定的で変わらないものではないと彼女は言います。人によって、時期によって、大きくなったり、小さくなったりと揺れ動くのです。ちょっと考えてみてください。失業したら、恋人と別れたら、そりゃあなただってワーカービリティは小さくなるでしょうよ。
ワーカビリティが小さくなってしまったそんな時期に、その人にその時期限定で寄り添い、個人と社会をともにまなざしながら、いっしょに問題解決していくのがソーシャルワークなんだ、と言います。そんな彼女のアプローチは、「問題解決アプローチ」と称されます。
ホリスは、パールマンのような「問題解決」という目標を定めるというよりも、個人と社会その両方をまなざす、そのまなざし方に注目します。そんな彼女のアプローチは、「心理」と「社会」をつなぐ、「心理社会的アプローチ」と呼ばれ、そこでの対象を「状況の中の人」と彼女が称するのは当然の帰結と言えるでしょう。

バートレットは、「正しいパーソナリティ」がソーシャルワークのゴールかのように語られてしまうのは、ソーシャルワークが専門分野ごどにどんどん分かれてしまった結果だと考えます。つまり、ソーシャルワークがあまりに狭く閉じてしまっているから。例えば、「学校のソーシャルワーク」などと限定すると、ついつい「学校に通うこと」をゴールとしてしまいがちですよね。
そこで、「個人と社会、どちらもまなざし続け」られるような、そんなソーシャルワークすべてに共通する理念を、共通基盤として確立しようとします。そこで彼女が考えた共通基盤、それが価値・知識・介入方法です。

パールマン、ホリス、バートレット以後、彼女らの影響を受け、様々なソーシャルワーカーが一気に語りだします。バートレットのようなソーシャルワークの共通基盤を語る人もいる一方で、パールマンやホリスの影響を受けて、1970年代以後に、様々な具体的アプローチ(例 課題中心アプローチ、ナラティブアプローチ、行動変容アプローチ、危機介入アプローチなどなど)が個別に分化していきます。

ただ、一方でアプローチが分かれればわかれるほど、ソーシャルワークの固有性が見えなくなります。そこで、すべてのアプローチを包み込むようなそんな発想をしっかり理論づけなければと考えます。

そんな三者の理論を、1980年代に、応用し発展させたのが、ジャーメインです。

ジャーメインは、リッチモンド以来続いていたソーシャルワークの「治療モデル」という見方は、実はパールマン、ホリス、バートレットら以後には、あらゆる人の「生」(=一人一人異なる、「私、生きてる!」って思えるあの在り様)を中心に据える生活モデル」に変わったんだ、と言います。さらに彼女は、他の近隣科学である生態学システム論を参考に、生活モデルによる広い意味でのソーシャルワークのアプローチをつくります。それを彼女は「生態学的アプローチ」と名付けました。
以上踏まえて、それでは選択肢を見ていきますか。

選択肢1 × 選択肢3 ×

選択肢1の「人」、「状況」、「人と状況の相互作用」なんてワードから、心理と社会を連続させ、対象を「状況の中の人」ととらえるホリスの説明だなと分かれば、それで十分。

選択肢3の「パーソナリティの変容を目指し」や「人と環境との間」なんてワードから、リッチモンドの説明だな、と分かれば、それで十分。

しかも、国家試験はこのように選択肢で入れ替えをすることがよくあるとわかっていれば、さらに確信をもってこの二つに×がつけられるでしょう。

選択肢2 × 選択肢5 ×に近い△

選択肢2は×がつけられると思います。

だって、選択肢2の主語である「ピンカスとミナハン」を知らなくても、「生態学的視座」で、ジャーメイン確定ですから。

ただ、ここで問題になるのが、選択肢5の処理の仕方です。
ジャーメインがこんなこと言ってるかどうか。上述した知識では私たちは全く知らないわけです。
とはいえ、彼女は「システム論の影響を受け」なんていうから、「こんなことも言ってんのかもなー」ぐらいに思って、なんとなくでこれを〇にするのを、私は全力で避けたいのです。
何となくではなく、論理的に検討して、問題作成者が〇させたいであろうところに近づく工夫をしたうえで、〇を選ぶべきなのです。
すると、選択肢5は△でとどめておくべきなんです。
さらに、過去問を三年分さえやれば(国家試験に合格したければ、過去問三年分は最低条件よ、とここに書きました)、選択肢の入れ替えが多いことはすぐわかるはずです。
つまり、選択肢2の説明がジャーメインであれば、選択肢5の説明は、選択肢2の主語である「ピンカスとミナハン」じゃないかな、となんとなくのあたりをつけられるはずなんです。
ですから、私なら、選択肢5は△でも、×に近い△にします。
ただし、実は、この選択肢5を即×にすることもできます。
その根拠もまた、過去問三年分です。
確かに「ピンカスとミナハン」は、国家試験上の最低限(必須)の知識とは言えないだろう、と私は思っています。
社会福祉士の過去問を20年分ぐらい遡っても、上述の5人(リッチモンド、パールマン、ホリス、バートレット)はしょっちゅう出題されていますが、「ピンカスとミナハン」はしょっちゅうとまでは言えません。じゃあ、「ピンカスとミナハン」は知らなくてもいいか?
第34回の受験生なら、知ってなきゃダメなんです。
なぜなら、国家試験を受けるつもりなら過去問は3年分やってるはずなんですから。
すると、第31回のこんな問題もやっているはずなんです。
第31回問題100 ピンカス(Pincus, A.)らによる「4つの基本的なシステム」の中の、ターゲット・システムとチェンジ・エージェント・システムに関する次の記述のうち、最も適切なものを1つ選びなさい。
1 ターゲット・システムは、役割を遂行するソーシャルワーカーを指す。
2 ターゲット・システムは、ソーシャルワーカーが所属している機関を指す。
③ ターゲット・システムは、変革努力の目標達成のためにソーシャルワーカーが影響を及ぼす必要のある人々を指す。
4 チェンジ・エージェント・システムは、契約の下、ソーシャルワーカーの努力によって利益を受ける人々を指す。
5 チェンジ・エージェント・システムは、目標達成のために、ソーシャルワーカーと協力していく人々を指す。

ピンカスとミナハンに焦点を当てた単独問題です。
これをちゃんとやってたならば、この問題の選択肢5は確実に×にできるはずなんです。

私は「社会福祉士国家試験は過去問3年分を解けば必ず合格」なんてそういう言い方はしません。
そういう「勉強はしたくないから、どこ出るかだけ教えて」的な質問には、ソーシャルワーカーとして応えたくもありません。
ただ、社会福祉士国家試験を作成する問題作成者は「過去問三年分はやっていることを前提にしている」ことは、丁寧に過去問を見ればすぐわかります。
「〇〇だけやれば合格する」とか、そんな参考書なり暗記本なんかを探す以前に、相手(=国家試験問題作成者)がコミュニケーションの前提として何を求めているのかを知るべきです。
そのうえで、相手とコミュニケーションを成立させたい(=国家試験に合格したい)のであれば、相手がやってきた過去のコミュニケーションの数々(=過去問)ぐらいは、しっかり見て、丁寧に分析して当然なんです。

改めて。
私は「過去問三年分やれば合格できるか」などという乱暴な質問には応えませんが、「過去問三年分程度を丁寧にやれば、ソーシャルワークの見方考え方がわかるようには社会福祉士国家試験作られている」という応え方はしています。

選択肢4 △

私は、バートレットの「人々が試みる対処と環境からの要求との交換や均衡を、社会生活機能という概念で説いた」なんてところまで、国家試験受験生が把握するのは厳しいと思っています。この手の表現が載っていない教科書もありますから。
ただ、だからといって、この問題98が難しいとか、不適切問題だとは全く思いません。むしろ、この問題98は良問だと思います。

丁寧に読み込めば、選択肢4以外はありえないのです。
そして、この選択肢を見たときに、「へー、バートレットもこういうシステム論みたいな話もしてるんだ。共通基盤みたいな理念的な話ばっかりしてるのかと思ったけど。ちょっと読んでみようかな」なんて思ってくれる人が1人でもいいから出てくれることを、国家試験問題作成者は願っているように思います。

正解 4

【お勧め関連本】
バートレットと言ったらこの本。とはいえ、ずいぶん古い翻訳ゆえ、2009年に再刊されたのですが、もうそこから10数年。古本でも随分高くなっているようで。できれば図書館等で借りてみてください。

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