ソーシャルワークから見た「課題中心アプローチに基づく応答」

14相談援助の理論と方法
今回のポイント
課題中心アプローチの特徴を他のアプローチと対比して押さえる。
何のための「面接での応答」なのか、その意味を理解する

問題103 事例を読んで、課題中心アプローチに基づくL指導員(社会福祉士)の応答として、適切なものを2つ選びなさい。
〔事例〕
W自立援助ホームのL指導員は、Mさん(18歳、男性)から将来についての相談を受けた。Mさんは就職をして一人暮らしをしたいと思っているが、求人募集に何度応募しても不採用が続いている。自信を失ったMさんは、「また駄目かもしれないと思うと、面接が怖いです」とうつむいた。
1 「就職活動をする上で、今、何が一番問題だとMさんは思われますか」と尋ねる。
2 「面接が奇跡的にうまくいったとしたら、どのように感じますか」と尋ねる。
3 「面接が怖いのであれば、採用試験に面接がない職場を探しましょう」と提案する。
4 「Mさんが次の面接の日までに取り組む具体的な目標を一緒に考えましょう」と提案する。
5 「大丈夫、Mさんなら自信を持って何でもできますよ」と励ます。

社会福祉士国家試験 第33回(2021年)より解説

問題は問題文を見ない人が本当に多いです。
その理由は、総じて事例問題は易しいからでしょうね。しかし、易しいからこそ要注意なのです。

相談援助系科目である「相談援助の基盤と専門職」(7問)と「相談援助の理論と方法」(21問)は、事例問題が多く出題されます。
そして、事例問題ではない問題(=ここではそれを知識問題と呼ぼう)も相談援助系科目では総じて易しいことはご存じでしょう。すると、相談援助系科目はちょっとコツをつかみ、頑張れば満点を狙うことも難しくはありません。
相談援助系科目で満点を取れれば、知識問題がメインとなる他17科目合計122問で62点取れれば合格基準点です。122問中66点ということは、51%の正答率でいいのです。

えっ?そうなの?と思われるかもしれませんが、こんなことは国家試験を作ってる国家試験のセンターや国家試験の問題作成委員のほうがよく知っています。
逆に考えてみましょう。国家試験の問題作成者は敢えてそういう問題構成にしているのです。つまり、相談援助系科目のように丁寧に文章を読みとれさえすれば論理的に正解を導けるような問題でしっかり確実に点をとってくれさえすれば、知識問題はそこそこでもいいと言ってるのです。そういうソーシャルワーカーを国家試験作成者(=日本での最先端のソーシャルワーカー研究者)は求めているのです。

だったら、「相談援助系科目」の問題は、丁寧に読まなければいけないのです。
事例だけを先に見るとか、見るにしてもなんとなしで事例を流し読みにして、なんとなしで1~5の選択肢のどれかに〇をつけて、7割ぐらいの正答率で喜んじゃダメなんです。相談援助系は常に満点を狙えるような、そんな解き方をはじめからしなければなりませんし、そういう解き方ができるような勉強の積み重ねをすればいいのです。

くどくど書いてしまいました。(癖なんです
前の問題でも同じようなこと書いてるかもしれませんね。すいません。

さて、この問題を確実に解くために大事なのは、事例以前に、問題文です。
単に「適切な応答にマルをせよ」と言っているのではなく、「課題中心アプローチに基づく」適切な応答にマルをせよと言っているのです。

では、課題中心アプローチの特徴って何ですか?
これもまた、特徴を漠然と覚えるのではいくらでも覚えることが増えます。他のアプローチと対比して、このアプローチ独自の見方考え方、それこそが皆さんが覚えるべき特徴なのです。

さて、アプローチですが。
これまたまぁいろいろあって、覚えるのが大変という人がいますが、それぞれの特徴を踏まえて、論理だてて自分なりに整理して覚えれば覚えることは減ります。

私は今日のソーシャルワークにおいてアプローチと呼ぶもの(=1970年代以後のアプローチ)について、①問題解決的な見方考え方を示すアプローチと②心理社会的な見方・考え方を示すアプローチとに分けて整理しています。その前に、アプローチと名の付くものについても歴史の流れで整理しておきましょうか。

Ⅰ 1920年代ごろ~ 使えるソーシャルワークの模索(←精神分析の影響)
診断主義アプローチ(フロイト流)vs機能主義アプローチ(ランク流)

Ⅱ 1960年代ごろ~ 個人に目が向き過ぎた反省(=見方・考え方)
問題解決アプローチ(BYパールマン)、心理社会的アプローチ(BYホリス)

Ⅲ 1970年代以後 今のソーシャルワーカーがいう「アプローチ」の登場
問題解決的なアプローチ
・課題中心アプローチ(計画的な短期性)※課題を具体的に意識させる!!
・行動変容アプローチ(ソーシャルワークに学習理論を導入)※行動を具体的に変える!!
・危機介入アプローチ(早期に介入)※具体的に危機を乗り越える!!
心理社会的なアプローチ
・ナラティブアプローチ(←社会構成主義)※「ドミナントストーリー」から「オルタナティブストーリー」へ
・実存主義アプローチ(←実存主義) ※「正しい社会」よりも「感じる私」へ
・フェミニストアプローチ(←ジェンダー) ※「性差のへ疑義」から「具体的な社会変革」へ
・エンパワーメントアプローチ(←ストレングスモデル) ※「抑圧」から「主体性」へ

(参)1980年代
・エコロジカルアプローチ※1960年代のアプローチ同様、見方・考え方のようなもの

ということで、では、事例問題の解き方でやっていきましょう。

<確実に正解に導ける事例問題の解き方>
大前提:〇はつけない。選択肢につけるのは×か△のみ。
まず、100%まちがいといえるものだけに×をつける。
1%でも可能性があれば残す!
残った△の選択肢から、優先順位1位の選択肢に〇をつける
(優先順位は問題文から読み取る:原則は「事例の後、早くやる順」)

①100%誤りといえるものだけに×をつける。※1%でも可能性があれば残す!

100%×は選択肢2と選択肢5

問題には、「L指導員(社会福祉士)の応答」というタイトルがついています。問題95でも確認した通り、指導員だけではなく、わざわざ社会福祉士とつけているのは、「社会科学としてのソーシャルワーク」の見方・考え方を踏まえていることを示しています。ということは、ソーシャルワーカーとしての行為には必ず根拠が必要とされるのです。応答する根拠が事例の中になければダメなのです。問題95で確認しましたが、事例に書いてあることから勝手な推論をしてはいけません。

選択肢2と5は、「課題中心アプローチ」か否か以前に、ソーシャルワークとしてアウトになります。

選択肢2の「面接が奇跡的にうまくいったとしたら」という前段は、仮説です。ただ、この仮説の立て方は、「面接は奇跡的でなければうまくいかない」という指導員の解釈を示しています。そんな解釈を、「自信を失ったMさん」に示せば、ますます不安になるのは当然です。明らかな不適ですね。

選択肢5の「大丈夫、Mさんなら自信を持って何でもできますよ」というのは、一見するとよさそうに思えてしまう人は多数いるでしょうね。でも、「社会科学としてのソーシャルワーク」を前提にする以上、根拠がない解釈を提示してはダメなのです。「大丈夫」「何でもできる」根拠は事例のどこに示されていますか?事例の中にそんな根拠は一切ありません。根拠がないある以上、たとえ自信を持たせるためであったとしてもダメなのです。

②残った△の選択肢から、優先順位1位の選択肢に〇 (優先順位の原則は「事例の後、早くやる順」)

さて、残ったのが選択肢1、3、4ですね。ここでの優先順位の付け方は、早くやる順ではなく、問題文にある「課題中心アプローチ」に適合しているかどうか、そこになります。

課題中心アプローチ(計画的な短期性)※課題を具体的に意識させる!!

なんて私は上述しましたね。

選択肢1の「就職活動をする上で、今、何が一番問題だとMさんは思われますか」と尋ねるのは、課題を具体的に意識させる工夫になります。
「今の課題を具体的に上げなさい」なんて言い方だと混乱してしまったり、不安になるので、「就職活動」という具体体な作業の中で、ここさえできればいいんだということを自分で意識し見出せる契機として、「何が一番が問題だと思う?」と日常用語で問いかけているわけです。

一方、選択肢4の「Mさんが次の面接の日までに取り組む具体的な目標を一緒に考えましょう」という提案は、計画的な短期性を示しています。
つまり、就職活動を乗り越える大きな目標設定をしては自信を失いかけているMさんには響かないどころか、やる気をなくす可能性があります。そこで、次の面接までと時間を区切って、そこまでで取り組めそうな具体的な課題をいっしょに設定していくこと、そして、実際にその課題をいっしょに解決させることで、自信を取り戻すのです。

選択肢1と4、いい感じですね。

それに対して、選択肢3の「面接が怖いのであれば、採用試験に面接がない職場を探しましょう」という提案は、「面接が怖い」という自信のないMさんには、ありえない選択肢ではないのですが、これは課題中心アプローチの特徴から全くズレたものです。

ということで、選択肢1と4が正解になります。

正解 1と4

【お勧めの関連入門本】
ソーシャルワークのアプローチに関して、入門的で、かつ整理されてまとまった本となると、この本一択かなと思います。

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