ソーシャルワークから見た「社会福祉士及び介護福祉士法に規定されている社会福祉士」

13相談援助の基盤と専門職
今回のポイント
・1987年に成立した「社会福祉士及び介護福祉士法」の、2007年改正の射程を知る
・個別の義務規定がなぜ義務とされているのか、その由縁を歴史から探る

問題91 社会福祉士及び介護福祉士法に規定されている社会福祉士に関する次の記述のうち、正しいものを1つ選びなさい。
1 社会福祉士は資格更新のため、7年ごとに所定の講習を受講しなければならない。
2 社会福祉士は相談業務を行う上で、クライエントの主治医の指示を受けなければならない。
3 社会福祉士の「信用失墜行為の禁止」は、2007年(平成19年)の法律改正によって加えられた。
4 社会福祉士の「秘密保持義務」は、社会福祉士の業務を離れた後においては適用されない。
5 社会福祉士はその業務を行うに当たって、福祉サービス関係者等との連携を保たなければならない。

社会福祉士国家試験 第33回(2021年)より解説

さて、ここからは「相談援助の基盤と専門職」(略称:基盤)です。この科目ならびに「相談援助の理論と方法」(略称:理論)、この二つを合わせて、私は「相談援助系科目」と呼んでいます。なぜ、そんな呼び方をしているかというと、この二つには共通性があり、同じ1科目と意識して取り組んだほうがよいと思っているからです。

<「基盤」と「理論」を同じ1つの科目ととらえる理由>
①全19科目の前提となる「ソーシャルワーク」の見方考え方を直接問うている
②合わせて28点と点数が高く、150点満点の2割弱を占める
③合わせて9割の得点をめざすような解き方を、(他科目とは分けて)意識したほうがよい

社会福祉士の国家試験では、試験センターが150点満点中90点を一応の基準点として公表しています。つまり6割の点を取る必要があるわけです。もちろん、このように公表されている以上、19科目全科目で6割をめざす、それが王道だろうと思います。
ただし、このページを見ている人の少なくない人が、社会人で仕事もしながら勉強しているのだろうと思います。だからこそ、暗記によるのではないロジカルに解く技法を求めて、こんなページを見ているのではないでしょうか。
だったら、「全科目で6割以上を目指す」なんて目標を立てるのはやめましょう。そうではなく、過去問を解いてみて、あなた自身が全体で6割をとるための具体的な戦略を練るべきです。そもそもにおいて、得意不得意が一人一人違うのですから、全員が一律に全科目で6割以上目指すなんて目標ほど無味乾燥なものはありません。まして、科目によって特徴も違うのですから、ますますもってそう言えます。
「全19科目の中で総得点を上げる」という目標から考えて、最も特徴があるといえば、相談援助系科目です。なぜなら、覚えることが少なく、それでいて総じて平易な問題ばかりだからです。その辺のことを知らずに、「相談援助系科目が得意!」という方が少なからずいますが、得意なのではなく、そもそもが易しいのです。
ですから、社会福祉士国家試験に勤労学生でも合格するそのための具体的な戦略として、まずは何といっても相談援助系科目で9割の得点を目指す、ここから始まります。すると他の科目は合わせて6割いかなくてもいいのです。5割ちょっとです。半分ちょっと。そう考えるとずいぶん楽になるでしょう。他科目には、制度の知識を問うものなど最低限の知識をしっかり覚えておく必要がある問題がそこそこ出てきます。
覚えることを減らして合格するためには?
覚えなければ解けない問題を解けるような、そんな魔法を身につけるのでもなく、変な語呂合わせをたくさん作るのでもありません。私はそう考えます。
では、どうしたらいのか?
ソーシャルワークの前提さえ知っていれば論理で解ける、そんな問題を確実に点にする技法を身につけ、覚えなければ解けない問題にかける負担(=暗記する負担)を軽くするのです。

であるならば、相談援助系科目の見方が変わってくるでしょう。相談援助系科目は易しい科目ではなく、確実に点を取らなければならない科目なのです!

さて、そんなことを踏まえ、「基盤」の最初の問題、いや、「相談援助系科目」の最初の問題を解いてみよう。

社会福祉士及び介護福祉士法関連の問題は、ここ数年連続して出ているし、今のカリキュラムになってからも2~3年に1回は確実に出題されている、頻出の問題だ。

<社会福祉士及び介護福祉士法>
1987年成立 まだ措置中心の制度のころ
↓※社会福祉の構造を変えていくために必要になる人材として準備
1990年代後半 社会福祉基礎構造改革
2000年を境に契約制度中心に移行
↓※契約制度中心になると民間中心に。そこで足りない部分を追加
2007年改正 契約制度を踏まえた改正
キーワード・連携・資質向上・誠実
社会福祉士という資格は契約制度中心へ移行する前にできた資格です。しかし、2000年前後を境に契約制度中心へと移行した社会福祉業界は、必要とされる知識も変わりますし、担うプレイヤーも行政や社協の職員が中核をなす仕組みから、民間組織に所属する者が中心になっていきます。
そこで、「連携」、「資質向上」、「誠実」がキーワードとして取り入れられるわけです。

「誠実」が入ってくる由縁がちょっとわかりにくいかもしれません。私なりに説明してみます。

民間が営利活動を行う「市場」という場においては、市民から誠実ではないとみなされる企業の商品は買われなくなることで、自然と淘汰されていきます。一方で、社会福祉は需要超過で供給不足ゆえ、ソーシャルワークという商品をその地域で1つの団体しか売っていなければ、そこから買うしかありません。ここには「市場」の論理から、自発的に「誠実さ」が生じる要素がありません。
行政職であれば、公僕なんて言葉もあるように、誠実さを公務員に法的に規制することがしやすいのですが、民間企業に「誠実さ」なるものを法的に強要するのは難しいのです。そこで、民間企業に対してではなく、そこに所属するソーシャルワーカーたる社会福祉士の規定に「誠実さ」なるワードを入れて方向づける。

なんてことですかねぇ。

「連携」も「資質向上」も「誠実」も義務(~しなければならない)や努力義務(~するように努めなければならない)と規定されていますが、罰則規定はありません
つまり、社会福祉士に対する方向づけであって、法的に規制するという性質のものではないことは理解しておくようにしましょう。

選択肢1 ×

「資格更新」の文字だけで×ですね。国家資格という性格上、資格更新の研修とかそんなのは現実的にやれません。
それゆえ、2007年改正に入れ込んだのが、先の「資質向上」の責務ってやつになります。
要は、「ソーシャルワーカーとして資質向上するように自分で日々勉強してね」っていうものです。こんな規定があるからこそ、都道府県社会福祉士会などでは、社会福祉士向けの様々な内部研修がなされているわけです。※とはいえ、会費高すぎやしないか・・・

選択肢2 ×

これは先にあげた知識だけじゃなく、別の知識が必要ですかね。

社会福祉士と精神保健福祉士の「連携」規定の違い
社会福祉士
→「連携」 罰則規定なし
精神保健福祉士
→連携「等」(※「等」=主治医の指示) 罰則規定あり
精神障害分野においては、主治医を連携相手として想定しない発想はあり得ません。それも単なる連携相手ではなく、「主治医の指示に従う」という指示なる用語まで入る義務規定になっています。
まぁ、ちょっと考えればわかるかと思います。
「ソーシャルワークの観点から、主治医の指示による服薬なんかしなくていい」とか、そんなこと言い出しては、下手すれば生死にもかかわります。
ですから、この規定は強い規定でなければなりません。ということで、罰則規定もあるのです。(30万円以下の罰金等)
つまり、この選択肢の内容は、精神保健福祉士の規定です。

選択肢3 ×(もしくは△でも可)

社会福祉士の「信用失墜行為の禁止」は、2007年改正でのキーワードとしてあげた「誠実」による「誠実義務」と、ごっちゃになっている人が少なくありません。それは「信用」と「誠実」が日常会話の言葉としては同じような意味として使われているからです。
ただし、社会福祉士の法的規定では、この二つを明確に使い分けています。
「信用失墜行為の禁止」と「誠実義務」の違い
〇「信用失墜行為の禁止」=罰則規定あり
1987年成立当初よりの規定
〇「誠実義務」=罰則規定なし
2007年改正で追加された規定

上述したように、「誠実」なる、なんかよくわからないけど、何となくわかる、そんなものを2007年改正で規定に入れたのは、社会福祉が具体的に契約制度中心になった中での、民間事業所に所属するソーシャルワーカーに対する方向付けだと私は思っています。
一方で、「信用失墜行為の禁止」とは社会福祉士という資格を市民に認めてもらうために、苦情を自ら処理するための罰則規定です。例えば、利用者からお金をだまし取ったとか、セクシャルな行為にいたったなどといったものは、もちろん刑法で罰することも可能ですが、この科目のタイトルにもある「専門職」として市民に認められるためには、警察や検察といった行政権力に頼るのではなく、自ら処理するという態度を示すことが、専門職として認められる条件になっています。そうですねぇ、グリーンウッドだのミラーソンといったあたりが専門職の条件などと言ったことを整理して提示して以後のだいたい1970年代以後ぐらいからですかね。
だから、当初より社会福祉分野の専門職資格として意識してつくられた「社会福祉士」の規定に、苦情処理システムとして「信用失墜行為の禁止」の規定があるのは必然なんです。

こんな説明でどうでしょうか?

選択肢4 ×

規定を知らなくても、こんなのは即×を感覚でつけられるでしょう。じゃあ「なぜ社会福祉業務を離れても秘密保持義務がある、なんて規定があるのですか?」なんて聞かれたらどう応えますか?

戦前であれば、科学者はじめ医者や弁護士などは、「専門職」などと呼ばれて、無条件に市民の信頼を勝ち取っていました。ところが、第二次世界大戦を経て状況が一変します。第二次世界大戦では、総力戦という背景によって、社会科学者のみならず自然科学者でさえも戦争に加担するようなことが、まぁ、いくらでもあったわけですね。例えば、原子爆弾は、原子力なる無限のパワーに見せられた世界中の物理学者が、戦費なる莫大なお金で研究をした成果なわけです。もちろん、日本も戦時中に原子爆弾の研究を秘密裏にしていました。そんな科学者たちも、一心不乱に研究していたわけではなく、戦費で研究をしていることの苦悩があったことなどが、戦後70年以上経てようやく見えてました。昨年ですか、そんな科学者の未公開書簡を踏まえて、科学者の「苦悩」に焦点化した特集を、NHKでやってましたね。見た人いるでしょうか。

横道にそれました。何がいいたいか。第二次世界大戦以後は、「科学者」だから「専門職」だ、などと無条件には言えない、そういう状況が生じたのです。専門職との専門性とは、市民がそれを「正しい」と信じることによって担保されます。戦前において、科学者の専門性が市民に信じられたのは、産業革命を起こした「科学」(=特に自然科学)が無条件に「正しい」と信じられたからです。だからこそ、後発の科学である社会科学は自然科学を真似ることで市民の信頼を得ようとしました。
ところが、第二次世界大戦を経て、戦後は「科学」をつかさどる「科学者」だから市民に無条件に信じられる、ということはなくなりました。だからこそ、戦争直後から、資本主義と共産主義という思想(イデオロギー)が流行るのです。

それに対し、「専門職の専門性とは市民に信頼されてこそ」と気づいた科学者や実践家たちは、専門職の条件を整理します。それらの条件に必ず入っているのが、社会的承認(市民からの信頼)を得ることであり、それらを1950年代から1960年代に整理したのが、グリーンウッドやミラーソン、ということになります。

話が長くなりました。
社会福祉士の「秘密保持義務」が、社会福祉士の業務を離れたぐらいでなくなるのであれば、市民からの信頼は得られません。本来その業務を外れたものをも専門職として縛るというのは、自由権という観点から問題があります。しかし、そうであっても、ソーシャルワーカーたる社会福祉士を専門職として市民に認めてもらうためにも、「秘密保持義務」は何がどうあれ、義務として、罰則規定も入れたうえで、自らの規定で守らせるのです。

選択肢5 〇

これ見たらすぐ〇をつけなければいけないぐらいの基本的な知識です。
2007年改正から入ったのが「連携」ですね。

じゃあ、ここでいう「福祉サービス関係者等」って誰ですか?条文では、「福祉サービスを提供する者又は医師その他の保健医療サービスを提供する者その他の関係者」とされています。

「福祉サービスを提供する者」というのは、契約制度以後は、上述したように、ほぼ民間を想定しているわけですね。それ以外に、医師その他保健医療サービスを提供する者も入ってます。
これを見て、「おまえは、先の選択肢2で、連携に『等』をつけて、主治医を含むのは精神保健福祉士だって説明したじゃないか」って思われた方。違いますよ。連携「等」の「等」は「主治医」じゃなく、「主治医の指示に従う」ってことですよ。もう一度、選択肢2の解説見てください。

要は、地域にあるあらゆる社会資源を使うってことです。その社会資源として、ソーシャルワークの対象になる人にとってのメインになるのが、「福祉サービスを提供する者」と「医師その他の保健医療サービスを提供する者」なので、法律上では、具体的に記述されてます。
でも、私にとって大事なのは「その他の関係者」ですよ。具体的に規定されたこの二つだけが社会資源じゃないんです。社会福祉士は、地域における社会福祉に「関係」する者を、社会資源としてどんどん発掘していかなければなりません。

条文の規定云々も大事ですが、これらの知識を踏まえ、「連携」によってどんな人でも地域で豊かに生きられるような、そんな地域を作っていくこと、それによって結果としていつのまにか、社会福祉士が市民からの信頼が得られる、そんなのが理想かな、と私は思ったりします。

正解 5

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