・何のために社会調査を行うのか、改めて確認する
・そのような社会調査を行うためには対象者とどのような関係が必要かを考える
問題85 社会調査の倫理に関する次の記述のうち、最も適切なものを1つ選びなさい。
1 社会福祉施設利用者に聞き取り調査をする際、聞き漏らしを防ぐための録音は、不安感を抱かせるので、調査対象者に告げずに行った。
2 介護施設で職員へのマネジメントに関する調査をする際、施設長に対する職員の評価を正確に把握するために、全員に記名式の質問紙の提出を義務づけた。
3 社会福祉学部の学生からの依頼で質問紙調査をする際、いつも出入りしている学生だったため、施設利用者に特に説明することなく質問紙を配布した。
4 社会福祉施設利用者の家族の実情を聴く際、第三者が出入りしない個室で聞き取り調査を行った。
5 施設にボランティア活動に来る小学生に質問紙調査をする際、本人たちの了承を得るだけでよい。社会福祉士国家試験 第33回(2021年)より解説
問題84でやったように、社会調査というのは国や地方自治体が社会政策を行ううえで重要な指標なんです。
だから、社会調査の中でも、正確な統計が作成できず、精度の低い統計に基づいて重要な施策を決定したり、経済情勢に関して誤った判断をすることになってしまいます。
そこで「期間統計調査」なんて名づけられた社会調査だと、調査対象者には回答義務のようなものを課したりしているんですよ。
もちろん、罰則規定まではないですけど。
それだけのものを課している以上は、社会調査に関して倫理規定があって当然、というか、なきゃダメですね。
そこで、問題85は「社会調査の倫理」ということになります。「本人のため」という根拠で何でも強制的に調査ができると思ったら大間違いですよ、ということですね。
さて、それでは選択肢を見ていきましょう。
選択肢1 ×
社会調査は、上述したような意義を対象者に共有してもらって、同意を得た上での調査でなければ、否定的な態度で臨まれて不正確な情報を提供されかねません。すると、社会調査の結果そのものが歪んでしまいます。
それゆえ、調査対象者と同意を取ることには細心の注意を払います。
調査の同意を取らずに、こっそり録音なんて、もってのほかです。
不安感を抱かせないよう、こそっと録音なんて、それらしい理由付けをしていますが、これは初めから録音ありきの理屈です。
録音そのものが嫌な人にとっては、なんら理由になりません。
「社会調査って知らないうちに録音されるものらしいよ」なんてうわさが広まっては、その後は誰からも社会調査を受けてもらえなくなります。
同意を得られないなら、録音をしない。
社会調査は社会政策のために行うのです。
そのためには、社会調査への不信感を持たれることこそ最も避けるべきことです。
選択肢2 ×
選択肢1でも確認したように、社会調査は同意を得て行うのが絶対条件です。
だとするならば、「全員に記名式の質問紙の提出を義務づけ」なんて、もってのほか。
まして、そんな記名式にしたら、施設庁に誰が何を言ったか知られるかもしれない、とおびえて、誰も自分の思うことなんか書けなくなります。
選択肢3 ×
「いつも出入りしている学生」だから、説明と同意がいらない、などという発想は、社会調査がどうこうというより、社会科学としてのソーシャルワークから考えて、ありえない態度ですよ。
選択肢4 〇
「個室」って表現が気になる人、いるかもしれませんねぇ。
コロナ騒動下で、気密性とか、気になったり。
もちろん、ここでいう個室というのは、密閉空間みたいな意味はありませんよ。
じゃあ、この文章でいう「個室」って何かっていえば、「第三者が出入りしない」ってこと、それ以上でもそれ以下でもありません。
文章内で「個室」の意味は与えてくれているんです。だから、それ以上の余計な読み込みをしちゃだめなんです。
五肢択一が苦手な人の少なくない人が、選択肢の文章が短いがゆえに、自分の印象、自分の考えを出てくる単語に勝手に読み込んじゃって、不正解になりがちです。
社会調査は、対象者と関係性作って、本人が話しやすい環境下で調査をするのが基本です。
家族関係はプライバシーに関わるから、個室がいいというイメージが持てるかもしれませんが、要は本人が話しにくいことを聴きたいなら、個室にするなどの工夫が必要だってことです。
それでも調査を断られたら、それは受け入れなければなりません。
選択肢5 ×
これはよく出る問題ですね。
社会調査の対象年齢です。
「年齢制限なんてあるの?」と思うかもしれませんが、社会調査は、本人の同意を得ることを大前提とする以上は、同意の有効性を考えると児童に制限をかけているのは当然です。
一般社団法人社会調査協会の「倫理規定」では、第7条で以下のように規定しています。
調査対象者が年少者である場合には、会員は特にその人権について配慮しなければならない。調査対象者が満 15 歳以下である場合には、まず保護者もしくは学校長などの責任ある成人の承諾を得なければならない。