ソーシャルワークから見た「調査手法としての観察法」

12社会調査の基礎
今回のポイント
社会科学としての「ソーシャルワーク」からみた「調査手法としての観察法」を知る
質的調査と量的調査質的データと量的データの違いを改めて確認する

問題90 調査手法としての観察法に関する次の記述のうち、最も適切なものを1つ選びなさい。
1 観察法における「完全な観察者」は、観察に徹して、その場の活動には参加しない。
2 観察法では、聞き取り、文書、写真などの資料は使用しない。
3 観察法の一つとしての参与観察法では、集団を観察対象としない。
4 観察法におけるノートへの記録は、観察時間内に行い、観察終了後には行わない。
5 観察法では、質的なデータは扱うが、量的なデータは扱わない。

社会福祉士国家試験 第33回(2021年)より解説

問題のタイトルが単なる「観察法」ではなく、「『調査手法としての』観察法」になっている理由はわかりますか?対象を(客観的に)観察することは、科学において大事な手法です。すると、あらゆる科学において「観察法」と呼ばれるような領域があるのです。
ですから、ここでは、「調査手法としての」という表現を頭に乗っけて、「調査」における「手法」としての観察に限定をかけているわけです。

さて、「(客観的に)観察する」ことが科学において大事と書きましたが、敢えて「客観的に」をカッコにいれたのには理由があります。
「客観的に観察する」ことを大事とする科学を「自然科学」と言います。一方で、そんな自然科学から遅れて現れた科学である「社会科学」は、自然科学の「客観的な観察」を真似てその科学性を担保していた時期もありますが、1960年代ごろを境に、「客観的」なる科学者の立場を疑う、そんな社会科学も現れだします。そんなころから50年以上を経た、今の社会科学では、必ずしも「客観的」なる立場に固執するものばかりではなくなっています。

何の話でしょうか?
もちろん、社会科学を前提とした今の「ソーシャルワーク」からみた「調査手法としての観察法」の話です。

では、選択肢1を見てみましょう。

選択肢1 ×

「観察者としての科学者は、対象から完全に距離を置くことができる。」

このことが成り立つのは、対象が自然現象や動物である場合です。いや、対象が「人間」である場合も、成り立ち得ます。精確に言うならば、対象から完全に距離を置いて人をモノとして観察する場合、その対象を(人ではなく)「人間」と言います。
一方で、「観察者も対象もどちらも人であり、互いに人である以上、観察のまなざしを向ければ互いに影響しあうのが当然である」という立場に立った時、観察者も対象も同じ「社会」という場にいるのだと考えます。そんな「社会」を対象とする場合、そのような場をフィールドと呼びます。そして、フィールド調査においての「観察」を「参与観察」と呼びます。その参与観察の仕方は、フィールドにいる人を観察者がどのような立場からまなざすかによって、「完全な参加者」、「観察者としての参加者」、「参加者としての観察者」、「完全な観察者」の4つに分類されます。

<参与観察者の分類>
完全な参加者=参加者に徹して、観察者とは誰にも見なされない
観察者としての参加者=観察者としていることは知られている
参加者としての観察者=活動への参加は最小限にとどまる
完全な観察者=観察者に徹して、その場の活動には参加しない
選択肢1の説明は完全な参加者そのものの端的な説明です。これはできれば即〇にしたいですね。

選択肢2 × 選択肢3 × 選択肢4 ×

ここで前提とされる「観察法」が、社会科学を前提とした今の「ソーシャルワーク」からみた「調査手法としての観察法」であり、フィールドにいる人へのどのような観察者のまなざしをも含みこむようなものであることが、選択肢1の解説で確認できたのであれば、「聞き取り、文書、写真などの資料は使用しない」(選択肢2)ことも、「集団を観察対象としない」(選択肢3)ことも、「ノートへの記録は、観察時間内に行い、観察終了後には行わない」ことも考えられません。あらゆる資料が観察対象にもなり、あらゆる人の形態が観察対象になり、あらゆる記述が記録として有効だからです。

選択肢5 ×

「観察法による調査=質的調査」と勘違いしている人がいます。問題86で確認したように、調査結果を数値化することを目的とすれば、それは量的調査であり、観察法による観察をしながら、観察結果を数値化することなんていくらでもありえます。その数値化が目的であれば、観察法による調査だとしても量的調査なのです。

質的データと量的データも同じように考えられます。数値化できるのであれば、量的データです。数値化できないなら質的データです。ですから、たとえ参与観察と呼ばれる観察法によって、ある組織にもぐりこんだそんな調査をしていたとしても、その組織の給与や、時間拘束などを記述し、データとするならば、それは量的データなのです。

正解 1

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