ソーシャルワークから見た「エコシステムの視点に基づく社会福祉士の対応」

14相談援助の理論と方法
今回のポイント
・事例上の登場人物をしっかり把握できる工夫をする
事例のどこに線を引くか、過去問を通して身につける

問題100 事例を読んで、エコシステムの視点に基づくEさんへのFソーシャルワーカー(社会福祉士)の対応として、適切なものを2つ選びなさい。
〔事例〕
U里親養育包括支援(フォスタリング)機関のFソーシャルワーカーは、里親のEさん(42歳、女性)宅へ訪問した際、委託を受け養育しているGちゃん(10歳、女児)のことで相談を受けた。Gちゃんは、最近無断で学校を休み、友達のHちゃんと万引きをした。EさんはGちゃんに注意し、諭したが、Gちゃんは二日前に再び万引きをした。Eさんは夫に心配を掛けてはすまないと思い、一人で対処してきたが、自分の里親としての力のなさに失望している。
1 「Gちゃんの万引きがやまなければ、児童相談所に委託の解除を相談してはいかがでしょうか」
2 「Gちゃんが通う学校の先生に、Gちゃんの学校での様子について尋ねてみてはいかがでしょうか」
3 「Hちゃんとの付き合いが、Gちゃんの問題を引き起こしているのでしょう」
4 「お一人で悩まれずに、Gちゃんのことをご夫婦で話し合われてはいかがでしょうか」
5 「Gちゃんに欲しい物を尋ね、買ってあげてはいかがでしょうか」

社会福祉士国家試験 第33回(2021年)より解説

事例適切問題の事例を読むときは、登場人物をしっかり意識しさえすれば、流れをとらえやすいものです。そのほうがイメージしやすいからです。
一方で、デメリットもあります。そのイメージが、事例そのものからズレた、あなたの独りよがりなイメージになってしまうことが往々にしてあるからです。例えば、「知的障害者」なんてワードを見ただけで、「意思確認は困難だな」などと、事例にそんな根拠は何も明示されていない勝手なイメージを持ってしまい、選択肢にある「意思確認は困難ゆえ、家族の判断を尊重」なんて選択肢に〇をしてしまう、なんてものが典型です。
「そんなミス、私はしないよ」と思っている人ほど危ないです。その危なさは、相談援助系科目が簡単であるがゆえに8割ぐらい正解していると、ミスをしていないように感じてしまう危うさです。相談援助系科目は28点もの点が与えられていて、かつ、覚えなきゃいけないことがそれほどない、そんな科目での1点のミスは単なる1点のミスではないのです。このミスを知識系の他科目で2点とらなきゃ補えない。そのためにどれだけ覚えることが必要か。
ということを考えると、自分がイメージ先行で事例を何となくでやり過ごしていないか、確認しておく必要があります。

私は登場人物を四角で囲って、選択肢判断のキーになりそうなところにアンダーラインを入れながら読む程度で、確実に正解を導けているので、特別になにかメモしたりはしません。
ただ、事例適切問題に不安があるなら、時間がかかっても簡単なエコマップを書いたほうがいいと思います。人物が複数出てくる事例適切問題なら、その都度、簡単なエコマップを書いていき、解き方について慣れて、エコマップを作らずともいけるなという確信が持てたら、私のようにメモを書かずに、事例に登場人物を四角で囲ったり、アンダーラインを引くぐらいでいいかと思います。

大事なのは、「なんとなく」ではなく、「やれる」「解ける」というあなたの感覚です。事例適切問題は「なんとなく」ではダメです。事例適切問題は簡単だからこそ、こだわるのです。確実にとれるやり方をあなたなりに工夫して、確実に点を取る、そういう意識でとりくんでください。

では、まず私が四角で囲ったプレーヤーを示します。
・U里親養育包括支援(フォスタリング)機関のFソーシャルワーカー
・里親のEさん(42歳、女性)
・委託を受け養育しているGちゃん(10歳、女児)
・友達のHちゃん

ポイントは、EさんとかGちゃんだけで囲うのではなく、周りについてる形容も含めて四角で囲うんです。すると、途中でEさんだのGちゃんだのが途中で出てきて、「誰だっけ?」と思ったときに、事例の上のほうを見れば、立ち位置まで含めて四角で囲っているので、「あ、里親ね」とか「あ、女児ね」と、すぐ気づけるのです。

あとは、選択肢の判断で関わりそうだなと思って、私がアンダーラインを引いた箇所としては、
・無断で学校を休み
・友達Hちゃんと万引き
・再び万引き
・一人で対処
・自分の里親としての力のなさに失望

このあたりぐらいですかね。
アンダーラインの引き方ですが、線を引き過ぎる人がいて、結局ほぼ全文に線が引かれているなんて人もよく見ます。それだと、後で見ても何が何やらわからなくなってしまいます。
正解の選択肢を選ぶために線を引くのです。すると、選択肢で何が問われているかによって線の引くポイントなんて変わります。だから、実をいうと、「このあたりが聞かれそうだな」というところがわからないと引けないと思うんですね。そういう意味でも、最低でも過去問を3年分はやっておかなければ、線をどこで引けばいいかすらわからないのです。

さて、それでは今までも示してきた事例適切問題の解き方通りにやってみましょう。

①100%×の選択肢のみに×をつける。(1%でも可能性があるなら△で残す)

100%×はどれですか?選択肢3と5ですね。

×3 「Hちゃんとの付き合いが、Gちゃんの問題を引き起こしているのでしょう」
根拠はどこにありますか?事例には書いてありません。事例適切問題で大事なのは「事例だけで世界が閉じている」ということです。つまり、事例に書いてないことは、この問題の世界観の中では、すべてが予測にすぎないのです。である以上、「Hちゃんとの付き合いがGちゃんの問題を引き起こしている」という明確な根拠が事例に書いていない限りは、予想にすぎません。里親Eさんと関係性を作るうえで、Eさんを励ますことは大事です。しかし、根拠なき勝手な予測を使ってでも励ませればいいんだという発想では、「社会科学」としてのソーシャルワークではなくなります。
この手の事例適切問題の問題文に、必ずカッコ入れで社会福祉士と入っています。社会福祉士とは、「社会科学を前提にした」ソーシャルワーカーのことです。

×5 「Gちゃんに欲しい物を尋ね、買ってあげてはいかがでしょうか」
この問題の問題文には、「エコシステムの視点」に基づく、と書いてあります。エコ=環境であり、欲しい物も確かに環境と言ってもいいでしょうね。ただ、万引きが発生する要因として「欲しかったから万引きした」といった根拠がなければ、欲しいものを買ってあげたところで解決になりません。事例には「欲しかったから万引きした」と言った発言も、それをにおわせるような表現も一切ありません。そうである以上、「欲しい物を買ってあげればうまくいく」などという考えも、また勝手な予測からの帰結にすぎないのです。

②残った選択肢で、優先順位をつけ、優先順位1位に〇をつける※2択なら2位まで〇 →優先順位の基本は、早くやる順

選択肢1を①の段階で消した人もいるでしょうね。私は残します。選択肢1の「委託の解除」とは、もちろん、「里親を辞める」ということです。「辞める」という選択肢そのものを否定しては、里親含め、社会福祉をやる人が増えません。社会福祉を「辞める」という選択肢は、ちゃんと保持し、場合によっては提示してあげる必要性があります。なので、私は残します。

ただし、里親は簡単にやめてもらっていいものではありません。「親と子」という関係から、児童等の健やかな発育を支える以上、この関係が簡単に切れてしまっては、児童の発育に影響を与えます。だから、「辞める」という選択肢を提示する前に、別様の選択肢がないかどうか、模索し、それでもEさんが無理だとなったり、Eさんが精神的身体的な不調をきたすようであれば、「辞める」選択肢を提示します。

じゃあ、その前にやれることって何ですか?

それが選択肢2と4です。
Gちゃんがなぜ今になって万引きを始めたのか、それを勝手な判断で決めるのではなく、Gちゃんの環境である「学校の先生」にGちゃんの学校での様子を聞くこと、そして、Gちゃんの環境でもあり、かつ、気兼ねなく話ができる夫に、Gちゃんの今の言動をどう思うか、自分とは別の観点からの意見を求めることは、一人で抱え込んで身動きが取れなくなっているEさんにとっては、次に進むための有力な選択肢です。

正解 2と4

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