ソーシャルワークから見た「横断調査と縦断調査」

12社会調査の基礎
今回のポイント
・横断調査と縦断調査、この二つがよって立つ視点を知る
・そのうえで、パネル調査の特徴を整理する

問題87 横断調査と縦断調査に関する次の記述のうち、最も適切なものを1つ選びなさい。
1 縦断調査とは、一時点のデータを収集する調査のことをいう。
2 横断調査で得られたデータを、時系列データと呼ぶ。
3 パネル調査とは、調査対象者に対して、過去の出来事を振り返って回答してもらう調査のことをいう。
4 パネル調査は、横断調査に比べて、因果関係を解明するのに適している。
5 横断調査では、時期を空けた2回目以降の調査で同じ調査対象者が脱落してしまうといった問題がある。

社会福祉士国家試験 第33回(2021年)より解説

社会調査には量的調査(=数値化を目的とする)と質的調査(=数値化を目的としない)があります。これは先の第33回問題86でやりました。ただ、それと横断調査、縦断調査はまた別の視点です。ですから、量的調査には縦断調査も横断調査もありますし、質的調査にも縦断調査も横断調査もあるのです。

選択肢1 × 選択肢2 ×

では、縦断調査と横断調査とは、どのような視点によるどのような違いなのでしょうか。それは時間軸の視点の違いです。

時間軸における社会調査の種類
(1)横断調査:ある一時点における調査
→例 AさんとBさんとCさんの関係(=相関関係)を知りたい
(2)縦断調査:一定の調査対象に、時間をへだてた2つ以上の時点で調査
→例 過去のAさんと今のAさんの時間的変化(=因果関係)を知りたい
よって、選択肢1は、主語が「縦断調査」なので「一時点」が誤り、選択肢2は主語が「横断調査」なので「時系列」(=ある現象の時間的変化を観察して得た値の系列)が誤りになります。

選択肢3 × 選択肢4 〇 選択肢5 ×

できれば、選択肢4の文章をみただけで、他の選択肢は見ずとも〇をつけられるぐらいにはなってほしいところです。それぐらい選択肢4の文章は必須の知識です。なぜなら、パネル調査は過去問で何度も出題されているからです。では、なぜ何度も出題されているのですか?それは今日のソーシャルワークの観点からすると、大事とされる調査方法だからです。では、なぜ今日のソーシャルワークの調査では大事な調査方法とされるのですか?
今日のソーシャルワークとは?それは、「地域でどんな人でもその人らしく生きていくことを支える」ものです。であるならば、Aさん、Bさん、Cさんといった複数の人の共通性やその関係性だけを知る(=横断調査)だけではダメで、Aさん、Bさん、Cさんそれぞれを長期的な視点から見つめ、支えていく必要があります。
社会調査と言えば横断調査が多いですし、実際のところ、社会調査といえばアンケート調査に代表される横断調査をイメージする人が多いでしょうね。でも、だからこそ、国家試験問題作成者は、縦断調査の意義を、社会福祉士となるあなたたちに確認しようとしているわけです。
さて、パネル調査ですね。パネル調査のパネルってわかりますか?壁板のことです。壁といってもブロックが何枚も重ねられてる、あの1枚1枚がパネルってイメージを持ってもらえればいいかと思います。そんなパネルって、当たり前ですけど、固定してるでしょう。(例外 パネルクイズアタック25のパネルはクイズの展開によって何度もひっくり返りますが・・・ちょっと古いですね)
パネル調査の「固定」という側面を聞いてきたのが、第30回の過去問です。
第30回問題87
横断調査と縦断調査に関する次の記述のうち、最も適切なものを1つ選びなさい。
3 パネル調査では、調査の回数を重ねるにつれてサンプル数が増加する。
もちろん、パネル調査の調査対象(=サンプル)は固定するのですから、サンプル数が増加することはありません。この選択肢3は誤りです。
さて、これらを踏まえ、パネル調査の特徴をまとめましょう。
パネル調査とは?(=縦断調査の1つ)
調査対象者を固定化(=パネル化)し、期間をおいて同じ質問を繰り返す調査
→時間の経過によって、結果がどう変化していくのかを比較する
時間の経過によって変化した場合、過去を原因として見ることも可能です。
すると、「原因→結果」という因果関係をそこから読み解くことも可能になります。
これがパネル調査のメリットになります。もちろん、時間をおいた調査なので縦断調査であり、縦断調査の代表がこのパネル調査になります。「社会調査の基礎」レベルであれば、縦断調査としてはパネル調査だけを押さえておけばいいぐらいのものです。
ただし、そのようなメリットがあるにもかかわらず、先に書いたように、社会調査において横断調査のほうが行われやすいのは、縦断調査の代表であるパネル調査にはデメリットがあるからです。
そのデメリットが狙われたのが第27回の過去問です。

第27回問題86
横断調査と縦断調査に関する次の記述のうち、正しいものを1つ選びなさい。
2  パネル調査における「パネルの摩耗」とは、第2回、第3回と回を重ねるごとに回答者数が減っていくことをいう。

パネル調査はソーシャルワークという観点から大事な調査方法です。であればあるほど、その調査のデメリットである「パネルの摩耗」はしっかり押さえておかないと、不用意にパネル調査をやってしまうことになります。だからこそ、国家試験問題作成者も、この第27回では、「パネルの摩耗」を〇の選択肢に入れて、ちゃんとわかっているかどうか確認しようとしているのです。

ソーシャルワークという観点からすると、5年10年という単位でケースや地域をまなざしていくことが必要になります。すると、パネル調査も例えば1年ごとの同じ調査を5年や10年という単位でやりたいところですが、年々調査対象者が減っていきます。例えば引っ越したとか、いなくなったとか、もう調査を受けたくないと本人から言われたとか、そんな形でパネル調査の調査対象者は年数がたてばたつほど減っていくのです。これが「パネルの摩耗」です。

選択肢4の説明は端的でよい説明なので、そのまま覚えてしまいましょう。

「パネルの摩耗」とは?
=縦断調査において、第2回・第3回と回を重ねるごと回答者数が減っていくこと

だからといって、途中で新しく調査対象者を加えるようなことをすることはできません
10年での変化を見ようとしているのに、一部の人は5年しか調査していないとしたら、比較検討できないからです。

そして、この「パネルの摩耗」について言っているのが、選択肢5だとわかるでしょうか。ですから、選択肢5の文章の主語が「横断調査は」になっていますが、正しくは「パネル調査は」になります。

正解4

 

タイトルとURLをコピーしました