ソーシャルワークから見た「家庭訪問の目的」

14相談援助の理論と方法
今回のポイント
母子生活支援施設の根拠法を知る。
・この問題で何が問われているか、一般の事例問題との違いを確認する。

問題110 事例を読んで、V母子生活支援施設(以下「V施設」という。)のH母子支援員(社会福祉士)がJさんに家庭訪問を提案した目的として、適切なものを2つ選びなさい。
〔事例〕
Jさん(38歳、女性)は、半年前にV施設を退所した。退所後は仕事をしながら、息子(12歳)と共にV施設の隣町のアパートで暮らしていた。しかし、最近になって体調を崩し、自己都合により退職した。Jさんは生活に不安を覚え、V施設の支援担当者だったH母子支援員に電話をした。電話では、再就職活動をしているが、適切な職場が見付かっていないこと、手持ちのお金が底をつきそうで今後の生活に不安があること、思春期を迎える息子とのコミュニケーションに戸惑いがあることなどがJさんから話された。話を聞いたH母子支援員は、支援の必要性を感じ早期の家庭訪問を提案した。
1 アパートの家主に同席を願い、Jさんの状況を知ってもらうため。
2 時間の長さを気にせず、訪問面接を行うため。
3 Jさんの生活状況を把握するため。
4 Jさんが、緊張感を持って訪問面接に臨めるようにするため。
5 息子の様子を知るため。

社会福祉士国家試験 第33回(2021年)より解説

母子生活支援施設の根拠法は児童福祉法だってこと、これぐらいは知っておきたいところです。
「児童や家庭に対する支援と児童・家庭福祉制度」という科目ではよく狙われるところです。というのも、「母子」という名称がつくことから、母子及び父子並びに寡婦福祉法が根拠法と勘違いしやすいからです。

社会福祉士国家試験では、社会福祉に関わるすべての施設の根拠法ぐらいは知っておくことを求めています。「ぐらい」が大事です。詳細に知ることは求めていないんです。なぜですか。社会福祉士国家試験は19科目ありますので、あえてざっくり19分野ってことにしてみますと、19分野それぞれにスペシャリストがいるのです。そのスペシャリストにつないだほうがいいなら、スペシャリストに任せるべきなのです。ただ、そのケースはまずもってスペシャリストに任せるべきなのか、任せるならどのスペシャリストに任せるべきか。この問いこそが社会福祉士の問いであり、だからこそ、それぞれの分野のスペシャリストになるのではなく、スペシャリストに適切につなげられる程度に、19の分野を「ざっくり」でいいから知っておいてほしい。これが「施設の根拠法ぐらいは知っておく」という表現のニュアンスです。

この問題もそうで、五肢択一を解くにあたっては、母子生活支援施設が児童福祉法に根拠づけられた施設ぐらい知ってれば十分なのです。
ここまで丁寧に、一問一問、前の問題も踏まえつつ連続して解いている人ならばわかるはずです。国家試験は、この「相談援助の理論と専門職」という科目群において、問題98から問題を積み重ねながら、ソーシャルワークに共通する見方やその技法を突き詰めようとしていることが。

障害学生支援室だろうが、在日外国人支援だろうが、専門病院だろうが、そして、母子生活支援施設だろうが、そこでのソーシャルワークには共通する見方や技法があるんだ。
国家試験は、そう言いたいのです。
ただし、ただ「言いたい」だけでは通じないので、まずは冒頭の問題98で「ソーシャルワークでは『人と環境』に分けて考えるところから始めるんだよ、なぜかわかるかな」なんて問いからはじめ、そうするとこう考えられて、だからこう考えて、だから具体的なこういう事例ならこういう応答になるよね、なんて形で、問題を論理的につなぎつつ、ソーシャルワークについて伝えているのです。
(国試は「あるある言いたい!」みたいに、ソーシャルワークあるあるをただただ羅列してるんじゃないんです。笑)

だからこそ、この事例のプレイヤーは「H母子支援員」ではなく、「H母子支援員(社会福祉士)」なのです。社会福祉士とは、あらゆるソーシャルワークに共通する見方や技法があるんだ、という立ち位置にいる者のことなのです。

「おまえ、何をそんなに興奮して、だらだらと同じことを何度も強調しているんだ」

なんて思われた方、いるかもしれません。
私には、実は、仮想敵がいるんです。それは、母子生活支援施設に勤めている、もしくは勤めたことがある方による「こんな正解ありえないよ」とか言って、社会福祉士国家試験を批判するような、そんな在り様です。また、この事例に限らず、事例問題に近い現場にいる方が「現実と違う!」と言って国家試験を、ひいてはソーシャルワークを批判するような態度を仮想敵にしています。

社会福祉士国家試験の事例問題は、その現場のスペシャリストに、今の具体的な現実を踏まえ、現実になされている具体的な判断を聞いているのではありません。すべての現場を包み込む、そんなソーシャルワークという社会科学が置く価値・理念・原則を踏まえた、社会福祉士として目指すべき共通した態度について聞いているのです。

さて、そのうえで、この事例問題を解くうえで、一般的な事例適切問題と異なるところを確認しておきましょう。

一般的な事例適切問題は、「その時点で行う、ソーシャルワーカーとしての適切な行為」が聞かれるものがほとんどです。しかし、この事例適切問題は、そうではなく、この時点での、ソーシャルワーカーとしての適切な行為は「家庭訪問だよ」って、問題文で教えてくれちゃってるんです。そのうえで、「じゃあ、なぜ家庭訪問が適切なのか?」って聞き方をしているんです。
すると、問題を解く私たちがまず確認すべきは、事例の時点とはソーシャルワークの共通の援助プロセスのどの段階なのか、そこになります。なぜなら、援助プロセスのどの段階なのかによって、目的が異なってくるからです。

今回の事例は、アフターケアの段階です。そして、アフターケアの段階がどんな段階なのかは5個前の問題である問題105で、謝り選択肢に絡ませてではあるのですが、国試はしっかり提示をしてくれているのです。

「選択肢1(アフターケア)
支援再開の要否確認のため、問題再発の有無などクライエントの生活状況を確認する段階である。」

これを踏まえて、適切な選択肢を選べばいいことになります。

すると、選択肢3

選択肢3 〇

「Jさんの生活状況を把握するため」という、この表現はドンピシャあてはまります。

ただし、この問題は2択です。あと一つはどれにするか。

選択肢5 〇

母子施設であり、母子ともに支えてきた施設として、また、まだ息子さんが12歳という児童期であることから、場合によっては、息子さんの支援も必要になってきます。母子生活支援施設の根拠法が児童福祉法だってことも冒頭で確認しました。息子さんが児童期である以上、母子生活支援施設のアフターフォローとして、息子さんをないがしろには絶対にできないのです。そのため、アフターケアでか確認すべき「クライエントの生活状況」は、母親だけでなく息子さんにも当てはまるわけです。ですから、この選択肢5も当然〇になります。

正解 3と4

 

 

 

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