・社会科学で「機能」という言葉が出てきたとき、前提とすべきことを知る。
・「社会保障」の理念を方向づけた「50年勧告」と「95年勧告」を整理し覚える。
問題50 「平成29年版厚生労働白書」における社会保障の役割と機能などに関する次の記述のうち、適切なものを2つ選びなさい。
1 戦後の社会保障制度の目的は、「広く国民に安定した生活を保障するもの」であったが、近年では「生活の最低限度の保障」へと変わってきた。
2 1950年(昭和25年)の「社会保障制度に関する勧告」における社会保障制度の定義には、社会保険、国家扶助、治安維持及び社会福祉が含まれている。
3 社会保障には、生活のリスクに対応し、生活の安定を図る「生活安定・向上機能」がある。
4 社会保障の「所得再分配機能」は、現金給付にはあるが、医療サービス等の現物給付にはない。
5 社会保障には、経済変動の国民生活への影響を緩和し、経済を安定させる「経済安定機能」がある。社会福祉士国家試験 第33回(2021年)より解説
社会福祉士国家試験では、今回の「平成29年版厚生労働白書」など、公的な文章をネタにして問題を出すことがあります。
とはいえ、この国家試験全体を通して、ソーシャルワークの大枠の見方・考え方さえ分かっていれば解けるもの以外は出題されませんから、この文章を読んでいなければ解けないような問題ではないのです。大きな見方・考え方を踏まえて、個別具体的な事情に当てはめ、解釈し、表現することができるかどうか、それこそがソーシャルワークの本質だからです。
とはいえ、せっかく国家試験が具体的な題材を提示してくれているのですから、ちょっとだけ目を通してみたいところです。
というのも、社会福祉士国家試験は、過去三年分の問題を無料公開しているからです。無料公開している、ということは、国家試験の過去問はその年の受験生だけを拘束しているのではなく、3年分の過去問は次の国家試験を拘束する、ぐらいに思ったほうがいいのです。
ですから、過去問で出た文書はちょっとでもいいので目を通しておいたほうがよいのです。
ただ、この問題文には、「『平成29年版厚生労働白書』における社会保障の役割と機能など」とありますから、社会保障の役割と機能にかかわる部分ぐらいに目を通しておきましょうか。
ということで、平成29年版厚生労働白書には「我が国経済社会の中の社会保障」というタイトルの章がありますので、その章の冒頭文を引用してみましょう。
本章では、まず、我が国経済社会の中で、社会保障はどのような役割と機能、特徴を持つのかについて、諸外国とも比較しつつ概観する。また、経済社会の変化に伴い、社会保障がどのような課題を抱えるようになり、国はそうした課題に近年どのような考え方で臨んできたのかについて見ていく。さらに、我が国において今後、持続的な経済成長の基盤となる社会保障を築いていくための視点を整理していく。
社会科学では「機能」という言葉がよく出てきます。
この用語をただ何となくではなく、社会科学における「機能」という専門用語としてしっかり理解しておくと、この言葉が出てきたと気に何が問われているかが見えやすくなります。
前提:「全体」と「部分」がある
意味:全体が(自分自身を維持するために)部分に与える役割
つまり、「機能」という用語を社会科学の文章で見たら、執筆者が何を「全体」とし、何を「部分」としているのかを意識して文章を読む必要があります。
先の文章では、「我が国経済社会」が全体で、「社会保障」が部分です。
すると、「我が国経済社会」が社会として維持されていくために、「社会保障」に役割を命じるわけです。その命じられた役割が「社会保障」の機能ということになります。
厚生労働白書が「機能」という言葉を使って社会保障について書いていますが、それは、「全体としての『我が国経済社会』が未来に何を求め、何を目指しているか、それによって『社会保障』の役割は変わるよね、そこわかってるかい?」と言っているのです。こういう見方が社会科学的な見方です。
そのうえで、「我が国において今後、持続的な経済成長の基盤となる社会保障を築いていく」と、厚生労働白書は言っているのです。
さて、そんなことを踏まえ、選択肢を一つ一つ見ていきましょう。
選択肢1 ×
この選択肢で注目すべきことはなんでしょうか?
「戦後の社会保障制度の」⇔「近年では」
「最低限度の生活保障」⇔「広く国民に安定した生活を保障」
「かつて」と「今」の社会保障を対比し、検討させています。であれば、社会保障の大枠の考え方の歴史を知らなければなりません。
さらにいうと、の対比でも、社会保障に関する勧告の対比だなとすぐピンときてほしいところです。
1945年 終戦:社会的な混乱
→混乱を収めるための緊急性高い対策求められる
※1947年の日本国憲法第25条「生存権保障」→最低限度の生活の保障を!!
↓影響
「1950年勧告」:社会保障の目的「最低限度の生活の保障」
↓高度経済成長、バブル経済の後
1990年代 バブル経済の崩壊:長期不況、少子高齢化
↓影響
95年勧告:社会保障の目的「広く国民に穏やかで安心できる生活を保障」
社会保障に関する勧告はいくつかありますが、50年勧告と95年勧告は、対比してしっかり押さえておきたいところです。
となると、もちろん、95年勧告を踏まえ「広く国民に安定した生活を保障するもの」が今日の社会保障で求められるもので、50年勧告を踏まえ「最低限度の生活」は戦後すぐの緊急時の社会保障に求められたものと言いえます。
選択肢2 ×
選択肢1の文章をみただけでは、勧告について聞かれていると気づかなくても、この選択肢2を見たら、「あ、50年勧告について、この問題では聞いているんだな」と気づきたいところです。
提出者:社会保障審議会
内容:「社会保障」=①社会保険②公的扶助(国家扶助)③公衆衛生及び医④社会福祉
以上4つから成ると規定
社会保障の理念:最低限度の生活
「治安維持」という発想は戦前には強烈にありましたが、戦後の民主化政策によってこの概念は一掃されますから、その点でも×と分かるかと思います。
選択肢3 〇に近い△
選択肢4 ×
選択肢5 〇に近い△
以上3つの選択肢で、社会保障の機能について聞いています
①所得安定機能(※選択肢3)
②所得再分配機能(※選択肢4)
③経済安定機能(※選択肢5)
選択肢1と2は×は固いです。すると、2つ正解なのですから、この3つの選択肢のうち、1つだけ間違えを見つければいいわけです。
選択肢1にあるように、近年では、我が国経済社会(全体)が「広く国民に穏やかで安心できる生活を保障」することを目指して、社会保障(部分)に役割が与えられているとき、その役割として適切なのは、上の①から③、どれだろうと考えると、どれも適切なわけです。①や③のように、国家全体で国民が穏やかで安心して生活できるようにするためには、所得も経済も安定する必要があります。そのためには、②のように国民全体で所得に差が出ないように再分配する必要もあります。
すると、選択肢3と選択肢5は〇で、残った4が怪しいということで、丁寧に選択肢4を見てみることになります。
選択肢4では、「医療サービス等の現物給付」は所得再分配と言えるかどうか、そこが問われているわけです。確かに、所得再分配とは、多い収入の人から税金をたくさん取って、少ない収入の人へお金を分配することのように思えます。この典型例が生活保護制度です。
しかし、収入の多い少ないにかかわりなく、医療サービス等は同じ値段・同じ負担で受けられる、ということもまた所得再分配機能といえます。この点についてはしっくりこないひともいるかもしれませんので、厚生同労白書の該当ページ(9ページ)を引用してみましょう。
2 所得再分配機能
(社会保障の「所得再分配機能」は、社会全体で、低所得者の生活を支えるものである)社会保障が持つ機能の二つ目は、所得を個人や世帯の間で移転させることにより、国民の生活の安定を図る「所得再分配機能」である。社会保障制度の財源である税や社会保険料の多くは、所得に応じて額が決められている。所得の高い人がより多くの税や保険料を拠出するようになっており、所得の格差を緩和する効果がある。また、低所得者はより少ない税・保険料負担で社会保障の給付を受けることができている。
例えば、生活保護制度は、税を財源にしており「所得の多い人」から「所得の少ない人」への再分配が行われている。また、所得再分配には、現金給付だけでなく、医療サービスや保育などの現物給付による方法もある。現物給付による再分配により、所得の多寡にかかわらず、生活を支える基本的な社会サービスに国民が平等にアクセスできるようになっている。
正解 3と5