ソーシャルワークから見た「知覚」

02心理学理論と心理的支援
今回のポイント
なぜ「知覚」がよく出題されるのか、考えてみる
「知覚」で何が問われているか過去問から知る

問題9 知覚に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。
1 外界の刺激を時間的・空間的に意味のあるまとまりとして知覚する働きを,知覚の体制化という。
2 明るい場所から暗い場所に移動した際,徐々に見えるようになる現象を,視覚の明順応という。
3 個人の欲求や意図とは関係なく,ある特定の刺激だけを自動的に抽出して知覚することを,選択的注意という。
4 水平線に近い月の方が中空にある月より大きく見える現象を,大きさの恒常性という。
5 二つの異なる刺激の明るさや大きさなどの物理的特性の違いを区別することができる最小の差異を,刺激閾という。
社会福祉士国家試験 第33回(2021年)より

「知覚」関連が社会福祉士国家試験の「心理」でどの程度出題されているのか、過去10年で確認してみましょうか。

参考 「知覚」関連の単独問題
第33回 知覚(今回)
第31回 感覚・知覚 体制化/錯視/図と地/仮現運動/大きさの恒常性/適刺激
第29回 感覚・知覚 明順応/錯視/大きさの恒常性/近接/知覚的体制化
第27回 感覚・知覚 適刺激/図と地/錯視/大きさの恒常性/パターン認識
第24回 知覚の恒常性

過去10回で5回の出題ですから、2年に一回という頻度で出ています。結構な出題率です。では、なぜ社会福祉士国家試験ではこれほど「知覚」を問うているのでしょうか。
問8で問われたマズローによる人間の欲求階層論においては、人間が生きることを自己実現を目指して、階層を登っていくプロセスが描かれていました。そして、その考え方の背景に、パールマンらによるソーシャルワークをプロセスとしてみるような見方・考え方との共通性について、問題8解説でも指摘しました。
それらプロセスはみんなが同じではなく一人一人異なるものです。であればあるほど、一人一人それぞれがそのプロセスを意識し、自覚しながら進んでいくことが求められます。それゆえ、今日の社会は一人一人の「知覚」が重視される側面は否めません。もちろん、ソーシャルワークは全員に共通する知覚を前提に行われるのではありません。そのような知覚を前提にしつつ、そこからのズレを把握しながら、問9の「社会的関係」を意識しながら、支援をしていくことになります。
であれば、ソーシャルワーカーはまず人間の知覚の在り様を前提として知っておく必要があるのです。

このあたりは論理的に考えればわかるものではなく、教科書でこれらの特徴を覚える必要があります。とはいえ、上述したまとめで、過去10年分で「知覚」の何が問われているかを見るとわかるように、国家試験は覚えることを限定させてくれています。過去10年で出ている、これらのワードぐらいはしっかり覚えたいところです。

選択肢1 〇

知覚の体制化は、5回の「知覚」関連問題の中で3回も出ている点からも、しっかり押さえておきたいところです。今回はこの選択肢が正解ですので、選択肢そのものから「知覚の体制化」を教えてもらいましょうか。

「外界の刺激を時間的・空間的に意味のあるまとまりとして知覚する働き」

この文章を短くすると、「外界の刺激を知覚する働き」となります。つまり、知覚とは、人間の内側とは異なる「外界」があると設定したうえで、その外界をとらえる働きといえます。

そのなかでも、外界の刺激を「まとまり」としてとらえる働きのことを「知覚の体制化」といいます。この体制化が社会福祉士でよく出る背景として、この理論がゲシュタルト心理学を背景としていることがあります。

診断主義学派ケースワークで名高いハミルトンが自らのケースワークを理論化するにあたり、参照したとされるのがゲシュタルト心理学です。つまり、「外界」があることを前提に、それをいかに「正しく」とらえるか、そこに知覚という働きを求める従来の見方に対して、まず先に人間が全体をまとまりとしてみる見方があって部分が現れるのだというゲシュタルト心理学の理論は、ソーシャルワークの人間観に大きな影響を与えました。

ですので、国家試験も知覚の体制化はしっかり押さえておいてね、とこの問題は伝えています。この選択肢の「まとまり」というワードを見ただけで、すぐ「知覚の体制化」と気づいてほしいところです。

選択肢2 ×

暗い所へ行って暗い状態に順応しようとするのですから、暗順応ですよね。

選択肢3 ×

これは選択肢にもあるように、私たちの認知しえないところで、体の部分である受容体そのものが特定の刺激に対して最も敏感に反応してしまうということです。それを「適刺激」といいます。これは第31回の選択肢でも出題されています。押さえておきたいところです。一方で、私たちの認知のありようとして、多くの情報の中から、特定の情報に対して選択的に注意を向けることを選択的注意と言います。「特定の刺激だけ」で適刺激とすぐわかってほしいところです。

選択肢4 ×

大きさの恒常性(知覚の恒常性)は、過去5回すべてにおいて出題されています。しっかり押さえたましょう。選択肢の記述は、俗にいう「月の錯視」というものです。

大きさの恒常性は、向こうからだんだん近づいてくる人を見ていると、その人の像は網膜上においてはだんだん大きく​なっていますが、にもかかわらずその人自身が大きくなっているようには私たちは感じない、その特性のことです。

選択肢5 ×

選択肢の記述は「弁別域」の説明になっています。一方で、「刺激域」は刺激を感じることができる最小の刺激量のことですね。

正解 1

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