ソーシャルワークから見た「生活福祉資金貸付制度」

09低所得者に対する支援と生活保護制度
今回のポイント
生活福祉資金貸付制度の実施主体を確認する
生活福祉資金の目的を知り、そこを前提に具体的な運用条件を確認する

問題69 生活福祉資金貸付制度に関する次の記述のうち、正しいものを1つ選びなさい。
1 借入れの申込先は、福祉事務所である。
2 借入れの申込みは、民生委員を介して行わなければならない。
3 資金貸付けと併せて必要な相談支援を受ける。
4 償還の猶予はできない。
5 総合支援資金は、連帯保証人を立てないと貸付けを受けることができない。

この問題のタイトルである生活福祉資金貸付制度は、コロナ騒動下でその利用が急増していることは常識として知っておかなければなりません。この問題が作成されたと推測される2020年の夏ごろでもその傾向は強く見られましたので、そんな状況を踏まえて出題された問題と言えます。2021年の夏も状況は何も変わっていませんの。今の状況を踏まえるとこれら資金に関するものは出題される可能性があるので整理しておきたいところです。

選択肢1 ×

生活福祉資金貸付制度の実施主体が都道府県社会福祉協議会であることは絶対に押さえておかないとダメです。理屈として、財政規模やその専門性から考えても、資金の貸し付けを支えるのは都道県レベルじゃなきゃちょっと無理ですよ。

生活福祉資金貸付制度の特徴①
実施主体は都道府県社会福祉協議会

ただし、貸付業務そのものは市町村社会福祉協議会に委託されていることがほとんどです。なぜなら、貸付できるかどうかは個別性が高いですから、そのような個別性を窓口で個別に対応できる条件は市町村社協にそろっているからです。

「実際の業務をやっている」ことと、「実施主体である」ことは異なります。これは、2000年代以後の契約制度下の今の社会福祉では常識ですよ。公立施設の運営が民間団体に委託されているなんていくらでもありますから。

選択肢2 ×

民生委員を通すことが多いのは確かです。そもそもこの資金自体、知ってる市民なんかほとんどいませんから。
かといって、誰でも使える制度みたいに宣伝しすぎると、いろんなケースが市町村社協に飛び込み出来てしまって、市町村社協はパンクしてしまいます。(いや、実際には、コロナ騒動下で、この制度について多くの一般メディアで喧伝されてしまった結果、市町村社協はパンク状態なわけですが。)

制度設計としては、「生活に困っていて、条件を満たした人」に資金を提供する、という発想ですから、必ず民生委員を通すという足かせを課すことはできません。

それに、そのような足かせを通せば、民生委員というボランティア職が、この資金を使えるかどうかを決める強い権力を持ってしまうことになります。資金を貸すかどうかは、情によるのではなく、規定に基づいて厳密にやらなければダメです。であれば、その判断を常勤職員以外がやるなんて発想はあり得ないのです。ですから、民生委員=ボランティア職であることが分かれば、ありえないのです。

選択肢3 〇

選択肢2の説明で、「条件を満たしたものに貸す」と書きました。その条件とは、お金が返せるかどうか、担保を持っているか、といったものではありません。
「生活福祉」の名の下に行われるのですから、その特徴として、貸付と必要な支援を行いながら、安定した生活を目指すことになります。

生活福祉資金貸付医制度の特徴②
その目的は「低所得者、障害者又は高齢者に対し、資金の貸付と必要な相談支援を行うことにより、その経済的自立及び生活意欲の助長促進並びに在宅福祉及び社会参加の促進を図り、安定した生活を送れるようにする」こと
逆に言えば、「低所得者、障害者、高齢者」でない場合や、社会福祉協議会による「資金の貸し付けと必要な相談支援」ぐらいでは安定した生活を送れることが見通せない場合には、貸すことはできません。その場合には、別の制度や社会資源につなぐことが社会福祉協議会には求められます

選択肢4 ×

「償還」って言葉に引っ掛かる人がいるかもしれませんね。
償還債務を返済すること
要は、お金を借りている場合には、お金を返すことが償還です。
選択肢3で、その目的が営利目的ではないこと、あくまで生活の安定であることを確認したのですから、「償還(=借りてるお金の返済)の猶予(=延長)」をすることで、目的である「生活の安定」になるなら、必要に応じて延長するに決まってるわけじゃないですか。
ただし、生活保護制度のような税金政策ではなく、社会福祉協議会という民間団体の資金によってなされている以上、簡単に延長はできません。様々な条件付きにはなりますよ。そういう条件は「やむを得ない事情」と文書上は書かれていることが多いわけですが。

選択肢5 ×

これも選択肢4と同様で、この制度が「生活の安定」が目的である以上、この制度によってそれが達成できると見込まれるなら、連帯保証人を必須の条件にはできません。営利目的の金貸しではないからです。連帯保証人という制度は、金が返ってこないことがないように付けるわけですが、その発想は営利目的であるがゆえに出てくるのです。
ただし、これも選択肢4に書いたように、社会福祉協議会が民間団体である以上、原則は連帯保証人をつけますがね。
正解 3
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