ソーシャルワークから見た「福祉事務所の組織と運営」

09低所得者に対する支援と生活保護制度
今回のポイント
社会福祉法に規定された福祉事務所の組織構成を押さえる
社会福祉主事現業員の違いを押さえる

問題68 福祉事務所の組織及び運営に関する次の記述のうち、正しいものを1つ選びなさい。
1 都道府県及び市(特別区を含む)は、条例で、福祉事務所を設置しなければならない。
2 都道府県知事は、生活保護法に定める職権の一部を、社会福祉主事に委任することができる。
3 生活保護の現業を行う所員(現業員)は、保護を決定し実施することができる。
4 福祉事務所の指導監督を行う所員(査察指導員)及び現業を行う所員(現業員)は、生活保護法以外の業務に従事することは禁止されている。
5 福祉事務所の長は、高度な判断が求められるため社会福祉士でなければならない。

生活保護制度を担う福祉事務所については、国家試験ではしょっちゅう出題されます最後のセーフティネットである生活保護を担う機関ですから、ここがブレたら日本国憲法第25条「生存権保障」は絵に描いた餅になるからです。
もちろん、ソーシャルワークは理念をたた理念として掲げるのではなく、それを実践に乗せることを目指してなんぼです。だから、頻出なのです。

選択肢1 〇

これはもう、条文そのままですね。

社会福祉法第十四条 
都道府県及び市(特別区を含む。以下同じ。)は、条例で、福祉に関する事務所設置しなければならない

この条文のポイントは3つあります。

福祉事務所のポイント
・根拠法が社会福祉法であること。
※生活保護法じゃないですよ。なぜなら、他の法による措置的な業務も福祉事務所は行うからです。(例 身体障害者福祉法や知的障害者福祉法など福祉六法関連)
「福祉に関する事務所」=福祉事務所
都道府県と市設置義務が課されていること。
※例外 町村でも福祉事務所を運営することは「できる」(=任意)。町村がやらない場合は都道府県が福祉事務所をやる。

選択肢2 ×

生活保護の実施機関はどこですか?

「実施機関」などというと頭を抱える人がいます。敢えて、ざっくりとわかりやすく言えば、「生活保護を受給してOK」というハンコは誰の名義のハンコなのか、ということです。

選択肢2にある社会福祉主事ですか?
「社会福祉主事」とは、福祉事務所に置かれる職員(もしくはその職員の持つ資格名)みたいなものです。

生活保護法第二十一条 
社会福祉法に定める社会福祉主事は、この法律の施行について、都道府県知事又は市町村長の事務の執行を補助するものとする。

具体的なハンコそのものは社会福祉主事が押しているかもしれませんが、そのハンコの名義はあくまでその福祉事務所を運営する都道府県や市町村なのです。正確に言うと、ハンコは都道府県知事や市町村長の名義ですけど。

生活保護法第十九条
都道府県知事、市長及び社会福祉法(昭和二十六年法律第四十五号)に規定する福祉に関する事務所(以下「福祉事務所」という。)を管理する町村長は、次に掲げる者に対して、この法律の定めるところにより、保護を決定し、かつ、実施しなければならない

ですから、それを委託できるとしても、都道府県知事や市町村長と同等のものへ委託するのです。都道府県知事や市町村長と、社会福祉主事という資格名では、同等ではありません。すると、委託できるにしても、それは都道府県や市町村と同等の行政庁になるわけです。

生活保護法第二十条 
都道府県知事は、この法律に定めるその職権の一部を、その管理に属する行政庁に委任することができる。
生活保護法20条は、なぜ「都道府県知事」だけ?
選択肢2を解くにあたって、直接は関係ないことですが、なぜ第20条の条文の主語は「都道府県知事」のみで「市町村長」は入ってこないのか、私にもよくわかりませんでした。同僚の先生に聞いてようやくわかったのですが。
もともと第20条は第1項として別の条文があったのです。
「この法律の施行について、厚生大臣は都道府県知事及び市町村長を、都道府県知事は市町村長を、指揮監督する。」
いわゆる指揮監督権に関わるこの条文が廃止されたのは、2000年の「地方分権一括法」の施行による機関委任事務の廃止によるものです。
この条文に続く第二項が、現行の第20条になります。
都道府県は市町村に比較し、たいへん大きい行政ですから、生活保護関係の業務をすべて都道府県が直で行うというのは無理があります。そこで、都道府県をさらに区分けし「支庁」なんて単位があり、そこの「支庁長」に職務の一部を任せなければ実際に生活保護制度を維持できないなんてことがあるわけです。そのへんの話を言っているわけです。一方で、市町村という単位はそこまで大きい行政区分ではないですから、市町村自らやることが前提とされているわけですね。

 

 

選択肢3 ×

選択肢2に書いたとおり、生活保護法第19条から「保護を決定し実施することができる」のは、「都道府県知事、市長及び社会福祉法(昭和二十六年法律第四十五号)に規定する福祉に関する事務所(以下「福祉事務所」という。)を管理する町村長」ということになります。

じゃあ、現業員って何ですか? 要は、社会福祉主事のことです。

「現業員」と「社会福祉主事」の違い
現業員:福祉事務所に必須の構成員(メンバー)としての名づけ
社会福祉主事:福祉事務所現業員として任用される者に要求される資格(任用資格)名

福祉事務所の構成員としての現業員(=現業を行う所員)の規定もあげておきますか。

社会福祉法第十五条
福祉に関する事務所には、長及び少なくとも次の所員を置かなければならない。ただし、所の長が、その職務の遂行に支障がない場合において、自ら現業事務の指導監督を行うときは、第一号の所員を置くことを要しない。
一 指導監督を行う所員
二 現業を行う所員
三 事務を行う所員
そして、この現業員のことを、業界(現場)では「ワーカー」と呼ぶわけです。

選択肢4 ×

福祉事務所は、その地域の社会福祉を担う機関という発想をしていますから、もちろん措置の枠組みを行うことは大前提ですが、そこだけに閉じようとはしません。

社会福祉法第十七条
第十五条第一項第一号及び第二号の所員[=「指導監督を行う所員」「現業を行う所員」のこと]は、それぞれ同条第三項又は第四項に規定する職務[=「生活保護」関係]にのみ従事しなければならない。ただし、その職務の遂行に支障がない場合に、これらの所員が、他の社会福祉又は保健医療に関する事務を行うことを妨げない

選択肢5 ×

これは、福祉事務所の長の規定よりも、社会福祉士必須の業務という観点から×にできるものですね。社会福祉士必須の業務は、今のところ「介護保険法の地域包括支援センター」だけです。

一方、福祉事務所の長の要件も、社会福祉法上には規定はありませんね。
なぜかわかりますか?
これら福祉事務所はじめ、措置としての制度は公務員がやることを前提にしていますが、資格要件などを課すと、場合によっては運営ができなくなるからです。例えば、何か資格要件を課して、たまたま、その行政にいる公務員のなかに資格所持者がいないからといって福祉事務所を閉じるわけにはいかないでしょう。

ちなみに、介護保険法による地域包括支援センターは、措置ではなく契約制度に基づくものであり、かつ、任意設置です。ですから。地域包括支援センターの相談職の三職種に「保健師」、「主任ケアマネ」、「社会福祉士」という資格要件を課すこと、これは無理がないですね。

正解 1

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