ソーシャルワークから見た「グループワーク」

14相談援助の理論と方法
今回のポイント
ケースワーク、グループワーク、コミュニティオーガニゼーションの歴史の最低限を(なぜそれが最低限かも含め)押さえる
・近年の国家試験でグループワークが狙われる背景を知る

問題113 グループワークに関する次の記述のうち、最も適切なものを1つ選びなさい。
1 コイル(Coyle, G.)は、ミシガン学派に所属し、個人を望ましい方向に向けて治療する治療モデルを提唱した。
2 コノプカ(Konopka, G.)は、グループワークの14の原則を示し、治療教育的グループワークの発展に貢献した。
3 ヴィンター(Vinter, R.)は、ソーシャルワーカーの役割を、メンバーとグループの媒介者とし、相互作用モデルを提唱した。
4 トレッカー(Trecker, H.)は、セツルメントやYWCAの実践を基盤とし、グループワークの母と呼ばれた。
5 シュワルツ(Schwartz, W.)は、アメリカ・グループワーカー協会で採択された「グループワーカーの機能に関する定義」(1949年)を起草した。

社会福祉士国家試験 第33回(2021年)より解説

さぁ、問題の流れを何度でも確認しましょう。

「またかよ」と思うかもしれませんが、改めて確認します。
「相談援助の理論と方法」は、19科目の中で問題数が最も多い、21問科目です。そんな科目に対して、社会福祉士を受験する方の多くが、「簡単な科目」「点が稼げる科目」という認識程度でこの科目を眺めているように思います。参考書やネット上の解説もそのような者ばかりです。
そこで、「暗記ではなく論理を」「国家試験でソーシャルワークを学ぶ」という、このブログのコンセプト(=私の根本的な考え方)から、改めて国家試験全体を踏まえて、「相談援助の理論と方法」という科目の特徴を考えてみましょう。最も問題数が多い科目ということは、この国家試験全体から見て、中核の科目だということです。それは同時に、問題作成者から見れば、社会福祉士という資格を取得する者、ひいてはソーシャルワーカーを志す者へ、この科目を通じてソーシャルワークの見方・考え方を、21問という問題全体を通して、論理的に伝えたいのです。なぜなら、ソーシャルワークとは、長期的な眼差しを持ちながら、プロセスを重視する、そのような実践であり科学だからです。

参考書類やネットにある、この問題の解説の多くが、暗記問題、知識問題としてのみ、この問題を解説しておしまいになっています。そのような見方でこの問題を眺めることはたいへんにもったいない、それがこのブログの立ち位置です。

この問題は、この問題のみで浮かんでいるのではありません。この問題までの流れ(=プロセス)がまず先にあっての、この問題113なのです。では、直前の2問程度を、改めて確認しましょうか。できれば改めて、問題111問題112の解説を見てほしいですが、とりあえずここでは、問題のタイトルと、正解の選択肢だけ提示しましょう。

その前に、問題98から始まる「相談援助の理論と方法」では、ソーシャルワークの理念や、それを踏まえて個別の事例問題を解いたことも思い出したうえで、直近の2問を見てみますか。

問題111 ケアマネジメントの過程
4 リファーラルとは、支援が望まれると判断された人々を、地域の関係機関等が支援提供機関などに連絡し、紹介することである。

問題112 ネットワーク
5 個人を取り巻くネットワークには、個人にプラスの影響を与えるものと、マイナスの影響を与えるものの双方がある

「障害」「高齢」「児童」「貧困」というカテゴリーは、かつての社会福祉を前提に作り上げられたものです。一方、先の事例で取り上げられたものは、これらからズレる、まさに今という時代を象徴するものでした。そこで、今日のソーシャルワークは、典型的なカテゴリーに焦点化するのではない社会福祉の仕組みをつくるべく、「措置としての保護」から「契約としての適切なサービスの提供」へと転換を図ってきました。そんな流れの中で、個別ケースに対応する技法として注目されているのが、問題111のタイトルである、ケアマネジメントです。
そのうえで、問題111では、ケアマネジメントが単なる個別ケースの技法ではなく、「地域の関係機関(=専門職がいる場)が支援提供機関と連絡」を取り合い、繋がっていかない限り、この技法は機能しないことを教えてくれています。

それを踏まえて、問題112ではネットワークを取り上げています。
ネットワークこそが専門職と支援提供機関が地域での繋がる基礎となるものだからです。ただし、問題112では、ネットワークを基礎とする際に、ネットワークは個人にプラスとマイナス両方の影響がありうることを忘れてはならないと伝えています。

では、ネットワークにプラスとマイナスの影響があることを知った私たちソーシャルワーカーには何ができるのでしょうか。これが問題113に向かうにあたっての問いなのです。

それら踏まえると、問題113の問題を見て、タイトルが「グループワーク」だと知ったとき、「あ、なるほど、そう繋がるのか!」と思いませんか。そして、グループワークからどういう帰結を引き出すのだろうと、ワクワクしませんか?

なんて前段を踏まえて。

実は、この科目でグループワークが単独問題で問われることは結構多いです。過去問から、どんな五肢択一が出ていたか、ちょっと見てみますか。

参照 過去問で出題された「グループワーク」の単独問題
※○がついてる選択肢が正解

第29回問題115 グループワークに関する次の記述のうち、正しいものを1つ選びなさい。
1 波長合わせとは、メンバー間の親しい対面や接触を通して、お互いに刺激し、影響し合うことである。
② グループの発達過程とは、グループの誕生から終結に至る、力動的関係の過程を示すものである。
3 グループの凝集性とは、メンバーがどのような思いや感情を持ってグループの場面にやってくるのかを、援助者があらかじめ理解しておくことである。
4 メンバー間の相互作用とは、メンバーがグループの構成員として認められるため、グループが持つルールのことである。
5 プログラム活動とは、メンバーと機関・施設側との間で目標達成に向けての取組について合意を形成し、双方の責任を明確にすることである。

第31回問題113 グループワークに関する次の記述のうち、最も適切なものを1つ選びなさい。
1 最終目標は、まとまりのあるグループを作ることである。
2 メンバー自身やグループ内の葛藤は、回避することが必要である。
3 開始期では、メンバー間の相互援助システムの形成が促進される。
4 メンバー個々の問題を解決する主体は、ワーカーである。
⑤ プログラム活動は、グループワークの援助方法の一つである。

これらはグループワークという技法の見方・考え方について説明したものです。これらは1960年代の転換期に、
このグループワークの技法についても、実は、ケースワークと同様の転換があるのです。
えっ?ケースワークの転換なんて知らないって?
いや実はもうすでにやっているんです。問題98で。
問題98では、「ソーシャルワークの歴史」なんて伝え方で、

<ソーシャルワークの歴史(最低限)>
1910年代 リッチモンド

1960年代(時代の転換期)パールマン、ホリス、バートレット

1980年代 ジャーメイン

なんてやりましたけど、このなかの「リッチモンド→パールマン・ホリス」の流れについては、ケースワークの展開としてまとめることもできます。

例えば、リッチモンドは「ケースワークの母」なんて後年呼ばれたりします。
そんなリッチモンドから影響を受けて、1930年代ごろから展開する診断主義と機能主義もケースワークですが、これらの批判的に受け継いだパールマンとホリスもまたケースワークを論じたとも言えます。パールマンの「ケースワークは死んだ」という論文のタイトルは、ケースワーク批判でありつつ、同時に、新たなケースワークの模索であったことは言うまでもありません。

そして、今日のケースワークは広い意味ではリッチモンドのソーシャルワーク観を前提にしつつも、技法的にはパールマンやホリスのケースワークに関する見方・考え方を前提にしていることも、私たちは知っておかなければなりません。

<ケースワークの歴史(最低限)>
萌芽(19世紀末):事前組織協会

1910年代 リッチモンド「ケースワークの母」

1960年代 パールマン「問題解決アプローチ」、ホリス「心理社会的アプローチ」

これと同じようなことが、グループワークにも言えます。
グループワークは、由縁としてはセツルメントあたりに遡りますが、理論的には、リッチモンドのケースワークに10年~20年ほど遅れ整理されていきます。ケースワークのリッチモンドに当たる人、それが、グループワークではコイルです。だからコイルは「グループワークの母」と後年呼ばれるようになります。
実際、リッチモンドが1900年前後からCOSの友愛訪問を踏まえたいわゆるケースワークの講義を始めるように、コイルは1920年代にグループワークの講義を始めるのです。そのような大学等での講義の中で、それら技法が体系化し、宗教的在り様とは異なる形で、伝承されていくわけです。

そんなコイルから始まるグループワークに、転換をもたらしたのが、1960年代という大きな時代の転換期に活躍した、コノプカとシュワルツです。

グループワークの歴史(最低限)
萌芽(19世紀末):セツルメント、青少年団体

1920年代 コイル(=グループワークの母)

1960年代(時代の転換期) コノプカ「14の原則」、シュワルツ「相互作用モデル」

実はもう一つ、ケースワークとグループワークと同様に、技法として理論的整理がされつつ、1960年代に大きな転換を迎えたのが、コミュニティオーガニゼーションです。

コミュニティオーガニゼーションの歴史(最低限)
萌芽(19世紀末):セツルメント、慈善組織協会

1940年代 ニューステッター「インター・グループワーク」

1950年代 ロス「地域組織化説」

1960年代 ロスマン「3つのモデル」

ところが、これら3つの技法がそれぞれ専門分化して分かれていては、新たな社会問題に対応できていないという認識が1950年代に生じます。(その例として、1950年代にマイルズが叫んだ「リッチモンドへ帰れ」もまたよく国家試験に出ています。)
これが1960年代に次々と立ち上がる、それぞれの理論の新たな展開を後押ししました。

参照 「リッチモンドへ帰れ」 
第23回問題85 ソーシャルワークの発展に重要な役割を果たしたミルフォード会議報告書に関する次の記述のうち,適切なものを一つ選びなさい。
×4 ソーシャル・ケースワークの精神医学への過度の傾斜を反省し,「リッチモンドに帰れ」という指針が提示された。第34回問題92 ソーシャルワークの発展に寄与した代表的な研究者とその理論に関する次の記述のうち、最も適切なものを1つ選びなさい。
×5 ハミルトン(Hamilton, G.)は、社会科学とのつながりを意識して、「リッチモンドに帰れ」と原点回帰を提唱した。

参照 ソーシャルワークの統合化
第29回問題 94 アメリカにおけるソーシャルワークの統合化に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。
×1 統合化の背景には,専門分化されたソーシャルワーク実践が多様化する社会問題に対応できていたことがある。

そして、ケースワーク、グループワーク、コミュニティオーガニゼーション、この3つに通底する共通基盤があるんだ、とバートレットが(1920年代のミルフォード会議なんかを参照したうえで)言い出します。これが統合化の流れです。

<ソーシャルワークの統合化の歴史(最低限)>
萌芽:1955年 全米ソーシャルワーカー協会(3つの技法のスペシャリストが集まる場)

1960年代 バートレット「ソーシャルワークの共通基盤」

(影響:1980年代 ジャーメイン「生態学的アプローチ」)

1990年代 ジェネラリストソーシャルワーク(統合化完了!)

以上、ちょっとでも興味を持つ流れがあれば、教科書に立ち戻ってみてください。

さて、話を問題113に戻しますと。
この問題113は、問題112で提示された「ネットワークには、プラスの影響のみならず、マイナスの影響もある」ことを踏まえて、「じゃあ、ソーシャルワークではどうするんだろう」という問いを踏まえての問題でした。
そこで、グループワークの技法です。
「いや、ネットワークの限界の話なんだから、コミュニティオーガニゼーションでその弱点をカバーする方法を考えるんじゃないの?」と思われるかもしれませんが、それこそ、ソーシャルワークの統合の前の、専門分化した技法が染みついた発想です。地域とかネットワークとか、そういう話ならコミュニティオーガニゼーションみたいな。暗記した知識の単純なつなぎ合わせ・・・。
そうじゃなく、国家試験は、ここで「ネットワークの限界を超えるためのヒントは、グループワークにあるんじゃないか」って言ってるんですよ。
実はこのアイディアは、今年度の国家試験が提示しているというよりも、今の社会福祉士カリキュラム改変でも表れているものです。例えば、今回のカリキュラム改変で「相談援助の理論と方法」で新たに加わった項目として「ミクロ-メゾ-マクロ」があります。「ミクロ/マクロ」という物言いであれば、経済学などでおなじみですが、その間にメゾを加えています。その意図って何ですか?

1960年代は世界的な転換期でしたが、日本社会は今また大きな転換期が来ている、そういう見方を今日のソーシャルワーカーはしています。そんななかで「ソーシャルワーク実践が多様化する社会問題に対応」できるようにするために、ミクロの問題とメゾの問題、その両方を繋げ、展開し、同時に解決していくような、そんな眼差しが必要になっています。そこでメゾなんです。
そんな「メゾ」推しの昨今のソーシャルワークで再評価されているのが、シュワルツのいう「媒介機能をもつ総合作用モデル」としてのグループワークだったり、そんなグループワークをどんなソーシャルワーカーも展開できるようにわかりやすく原則として提示しまとめたコノプカの「14の原則」だったりするわけです。

そんな背景(=今日のソーシャルワークの見方・考え方)を知っていると、コノプカかシュワルツあたりの考え方に〇をつけさせたいんじゃないかな?と、私なんかは問題を解く前に何となく思ってしまうんです。

どうでしょうか。そんなことを踏まえて、さて選択肢を見ていきましょうか。

選択肢1 ×に近い△ 選択肢4 ×

コイルが「グループワークの母」と呼ばれていることは、上述した最低限の知識です。すると、選択肢1の説明がコイルだろうとわかりますから、選択肢4はトレッカーを知らなくても×がつけられます。また、選択肢1のほうもコイルがどんなことを言ったか知らなくても、選択肢4がコイルの説明なのだから、選択肢1のコイルの説明は誤りじゃないかな、、とわかるはずです。というのも過去問では、この手の問題は人物と説明を入れ替えて五肢択一を作っていますからね。

じゃあ、「ミシガン学派に所属し、個人を望ましい方向に向けて治療する治療モデルを提唱した」のは誰ですか?これは、選択肢3のヴインターです。じゃあ、ヴィンターは覚えなきゃいけないか?
知らなくても、コイルさえ分かっていれば×に近い△で処理できて、実際、この五肢択一は解けるんですから、国家試験は「ヴィンターは覚えられればぐらいでいいよ」と言っているようなものです。

ただ、せっかくですから、ヴィンターのグループワークの歴史における位置づけを整理しておきますか。

ヴィンターのグループワークは、シュワルツやコノプカ同様、私は1960年代で整理しています。ただ、シュワルツやコノプカを、グループワークの最低限ラインで覚えましょうと言ったのに対して、ヴィンターを入れていないのは、ヴィンターのモデルが「治療モデル」、つまり、障害者や犯罪者等に対する治療的なアプローチとして開発されたものだからです。「障害者」「犯罪者」といった、かつてのソーシャルワークが設定した典型的なカテゴリーを対象するこのモデルは、今日では使い勝手が悪いことは、わかってもらえるかと思います。「障害者や犯罪者の処遇をどうするか」という問いがソーシャルワークの問いとしてありありとあった時代には、有効だったモデルかもしれませんが、今日ではとても使い勝手が悪い。それゆえ、ヴィンターは必ず覚えましょうとは、今日のソーシャルワークの教科書上は言えないのです。
一方で、コノプカやシュワルツらの理論が今日のグループワークでは必須とされるのは、今日でも応用が利く見方・考え方がそこにあるから、なわけです。

選択肢2 ○ 選択肢3 × 選択肢5 ×

「グループワークの最低限」さえ分かっていれば、選択肢2に〇をつけておしまいです。
そして、他の選択肢である、選択肢3は、媒介者、相互作用モデルでシュワルツだから×、選択肢5はシュワルツが1960年代に活躍するってことを知ってれば、1949年定義の起草は早すぎるので、△でも×に近い△で処理できるでしょう。そして、入れ替えで残っているトレッカーが選択肢5の説明に当てはまる人なんだろうなぁとも予想できるでしょう。

正解 2

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