ソーシャルワークから見た「母子支援員(社会福祉士)の対応」

13相談援助の基盤と専門職
今回のポイント
事例適切問題を確実に正解に導く、その手順を再確認する。
・問題文に、カッコ入れでも社会福祉士と必ず入っている、その意図を理解する。

問題95 事例を読んで、Z母子生活支援施設のL母子支援員(社会福祉士)の対応として、適切なものを2つ選びなさい。
〔事例〕 Mさん(28歳)は夫のDVに耐え切れず、近所の人に勧められて福祉事務所に相談し、Aちゃん(7歳、女児)を連れてZ母子生活支援施設に入所した。Mさんには軽度の知的障害があり、療育手帳を所持している。入所後1か月が経過したが、Mさんは自室に閉じ籠もっていることが多い。また、他の入所者の部屋の音のことでトラブルとなったこともある。Aちゃんは精神的に不安定で学校を休みがちである。ある日、Mさんは、「ここに居ても落ち着かないので、Aちゃんを連れて施設を出たい」とL母子支援員に訴えてきた。
1 Mさんの気持ちを受け止めた上で、これからの生活に対する希望を聴く。
2 母子分離を図るため、Aちゃんを児童相談所へ送致する。
3 Mさんには退所に関する意思決定は困難であると判断する。
4 退所の申出の背景にある施設での生活環境を探る。
5 すぐに福祉事務所に退所についての判断を仰ぐ。

社会福祉士国家試験 第33回(2021年)より解説

さて、「事例・適切」問題ですね。「事例・適切」問題の解き方は、今回(第33回)では、問題32で最初に出てきたので、そこで解く考え方を、丁寧に書いてみましたので、参照してください。要は、事例問題は、「確実に正解に導ける」そんな解き方、プロセスにこだわるべきだからです。

そこで書いたことをまとめると

<確実に正解に導ける事例問題の解き方>
大前提:〇はつけない。選択肢につけるのは×か△のみ。
まず、100%まちがいといえるものだけに×をつける。
1%でも可能性があれば残す!
残った△の選択肢から、優先順位1位の選択肢に〇をつける
(優先順位は問題文から読み取る:原則は「事例の後、早くやる順」)

では、一つ一つの選択肢を確認してみましょう。

①100%誤りといえるものだけに×をつける。※1%でも可能性があれば残す!

100%×は選択肢2と選択肢3

問題には、「L母子支援員(社会福祉士)の対応」というタイトルがついています。
母子支援員だけではなく、わざわざ社会福祉士とつけているのはなぜですか?
この国家試験では、社会福祉士が前提とする「社会科学としてのソーシャルワーク」の見方・考え方を踏まえて問題が作成されています。ですから、この事例問題も、一見すると「母子支援員」という特殊限定的なことを聞いているように見えますが、そうではなく、この母子支援員は「社会福祉士」であることを前提にこの問題を解くんだよ!と、問題作成者側がわざわざ教えてくれているのです。

「社会科学としてのソーシャルワーク」である以上、ソーシャルワーカーとしての行為には必ず根拠が必要とされます。根拠なき行為であれば、それは「社会科学としての」ソーシャルワークとは言えません。

そして、もう一つ、事例適切問題の特徴として、「事例に書かれていることだけで世界は閉じられている」ということを知っておく必要があります。ここに書いてあること以外は根拠にはならないのです。裏を返すと、事例に書いてあることから勝手な推論をしてはならない、ということです。

選択肢2の「母子分離を図る」根拠は事例のどこにありますか?
選択肢3の「Mさんには退所に関する意思決定は困難」である根拠はどこにありますか?

Mさんに軽度の知的障害があることですか?
Mさんが「入所後1か月が経過したが、Mさんは自室に閉じ籠もっていることが多い」ことですか?
Aちゃんが「精神的に不安定で学校を休みがち」なことですか?

いいですか?必要によっては「母子分離を図る」こともソーシャルワークではあります。また、「意思決定が困難」という判断をソーシャルワークでする場合もあります。これらのことがソーシャルワークではありえない、と言っているのではありません。

「知的障害」だからといって、「自室に閉じこもりがち」だからといって、「学校を休みがち」だからといって、母子分離の必要性や、意思決定が困難という判断にはならないということです。これらの理由で、判断をしたとしたら、それはあなた方の推測にすぎない、ということになります。

じゃあ、どうやったら根拠たり得るのか。
母Mさんは「知的障害」、子Aちゃんは「児童」であるのですから、「知的障害」や「児童」のスペシャリストとともに検討してこそ、根拠たり得るのです。社会福祉士はソーシャルワークのスペシャリストであったとしても、「知的障害」や「児童」といった限定された分野スペシャリストではないからです。ただし、その検討をするに際して、ソーシャルワーカーとしてやるべきことはあるのです。それが、本人との関係作りであり、それに合わせて、先の判断をするにあたっての情報収集です。

②残った△の選択肢から、優先順位1位の選択肢に〇 (優先順位の原則は「事例の後、早くやる順」)

さて、残ったのが選択肢1、4、5ですね。選択肢5に①の時点で×をつける人がいますが、私は残します。なぜなら、福祉事務所もまた、施設に関するスペシャリストですから、ともに検討する余地はあるからです。

ただ、福祉事務所と対処を検討する(=選択肢5)にしても、本人と関係を作り、希望を聞きながら(=選択肢1)、情報収集をする(=選択肢4)ことがなければ、その後の検討などできません。

すると選択肢5の前に、必ず選択肢1と選択肢4が先んじるのですから、選択肢1と選択肢4、二択なのでこの二つが正解となります。

この手順が、事例適切問題を確実に正解に導く解き方です。

正解 1と4

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