・現物給付と現金給付の違いを押さえる
・療養の給付が現物給付であるということを理解する
問題71 公的医療保険の保険給付に関する次の記述のうち、最も適切なものを1つ選びなさい。
1 医療保険の保険給付は、現物給付に限られる。
2 高額療養費の給付は、国民健康保険を除く公的医療保険で受けられる。
3 療養の給付は、保険医の保険診療を受けた場合に受けられる。
4 出産手当金は、女子被保険者及び女子被扶養者が出産した場合に支給される。
5 入院時生活療養費は、特別の病室に入院した場合に限り支給される。社会福祉士国家試験 第33回(2021年)より解説
問題70で公的な医療保険制度(+後期高齢者医療制度)の大枠の仕組みを取り上げ、この問題71で、では具体的にどういう給付が制度として行われているのか、について問われています。
これもまた、「保健医療サービス」だけではなく、「社会保障」でも出題される可能性の高い問題です。それゆえ医療保険については、制度の大枠、ならびに給付の基本的なところは押さえておきましょう。
選択肢1 ×
保険証を忘れてしまった経験とかありませんか?
そんな場合、一時的に全額お金を払って、あとで保険証をもっていって、お金を返してもらうんです。これを「償還払い」といいますが、皆さんには後からであれ「お金」を渡しているわけですよね。だから、「償還払い」は「現金給付」の扱いになるのです。
それ以外にも、傷病手当金や出産手当金(選択肢4)など、「手当」と名がつくものは、直接「お金」が補助されるものですから、現金給付になるわけです。これら手当が医療保険にあることぐらいは知っておかなければなりません。
だだね。これらがうる覚えだったとしても、選択肢4に「出産手当金」が出ている時点で、あっ、出産手当金は医療保険だって思い出せるようにヒントをくれてるんです。国家試験はヒントを出してくれていると気づかなきゃダメですよ。
選択肢2 ×
公的医療保険の高額療養費の給付というのは、医療費の自己負担が多くなりすぎることで生活がにっちもさっちもいかなくなることを防ぐための制度でしょう。すると、国民健康保険の被保険者は、自営業だけじゃなく無職の人もでしょ?であれば、そうであればあるほど生活的に厳しいそんな無職の人を被保険者にしている、そんな国民健康保険こそが高額療養費の恩恵にあずかれなきゃダメでしょう。
そのように考えれば、高額療養費の給付が国民健康保険を対象外にする発想は論理的に考えてありえません。
選択肢3 〇
選択肢にある「療養の給付」とは何ですか?これが医療サービスという「現物給付」のことだ、とわからないとこの問題は解けませんし、それさえ分かればすぐこの選択肢を〇にできるのです。
療養=病気やけがの手当をし、からだを休めて健康の回復をはかること
→保健医療業界では、保健医療サービス(=現物)そのものを「療養」と呼ぶ
つまり、
がわかってさえいれば、
「療養のためお金を給付」=保健医療で必要なお金を補助する=現金給付(「手当」)
すると、療養の給付、つまり(自費分だけで)療養をサービス(=現物)として受けられる(=給付される)のは、保険医の保険診療という枠組みだけっていうのも、当たり前と気づくでしょう。
と思われた人。その場合はね、保険者が認めた場合には、制度に基づいて、後からお金が返ってくるわけです。すると、それはお金が返ってくる以上、療養「費」として現金給付されるんだ、と考えるのです。
選択肢4 ×
この選択肢を見て、「出産手当金」とともに「出産育児一時金」が頭に浮かばないと、この選択肢に〇をつけてしまうのでしょうね。
結果、この問題は正答率が悪かった(正答率が4割を切っている)ようです。
この二つは考え方が違います。
そもそも「出産」は「病気」ではありません。医療保険制度は一般に「病気」や「怪我」と言われるもの周辺が対象です。ですから、「出産」では、加入者であっても医療保険を使うことができません。
ですから全額自己負担ということになりますが、それじゃあんまりでしょう。ということで、出産費用については、いろんな制度で補助っていう枠組みでお金が出るんです。例えば、都道府県や市町村が独自に補助を出すケースなどもあります。
そして、医療保険制度にも補助制度があり、それを「出産育児一時金」と言います。
そういう発想なので、加入者だけじゃなく、加入者の配偶者が医療保険の被扶養者になっている場合も対象になります。
一方で、出産手当金は、出産中には労働ができないため、その期間の「労働保障」という観点から補助を出すのです。
ですから、働いていて、出産のため仕事を休む、そんな加入者のみが対象になります。
選択肢5 ×
ここで聞かれているのは、入院時生活療養費のことじゃなく、「特別の病室に入院」のほうですよ。「特別の病室に入院」って何ですか?
例えば、3,4人の相部屋ではなく、自分の希望で個室に入院とか、そういうケースです。そういう場合まで公的保険で給付するって発想はありないでしょう。あくまで、療養に必要な最低限だけを公的保険は賄うのであって、個室希望する人はその個室分は自腹が当然です。
ですから、「入院時生活療養費」が何かわからなくても、「療養費」という名義である以上、公的医療保険が現金給付するものだってことはわかるでしょう。だったら、「特別の病室に入院」は自腹である以上、それを「〇×療養費」なんて呼ぶはずがないのです。
正解 3