ソーシャルワークから見た「福祉サービスの立案・評価」

05地域福祉の理論と方法

問題41 福祉サービスの立案及び評価に関する次の記述のうち、最も適切なものを1つ選びなさい。
1 パブリックコメントとは、利害関係者や学識経験者を集めて意見を聴き、予算や法律・規則の制定を行う手法のことである。
2 ニーズ推計とは、ニーズを一定の基準で分類し、その類型ごとに出現率の推計等を行い、それに対応するサービスの種類や必要量を算出する手法である。
3 福祉サービス第三者評価事業における第三者評価とは、利用者の家族等によって行われる評価のことである。
4 福祉サービスのアウトカム評価とは、福祉サービスが適切な手順と内容で利用者に提供されているかに着目する評価である。
5 プログラム評価の枠組みでは、サービスの効果を計測するための指標の設定は基本的にサービスの実施後に行われる。

社会福祉士国家試験 第33回(2021年)より解説

社会福祉においては、理念を具体的な実践に落とし込む際、その成果をモニタリングし、評価し、そのうえで次の展望を図る、そんなプロセスを重視します。これは個人に限らず、社会全体の施策においてもそうです。ここ5年ほどで、社会福祉における「地域福祉」実践は、よくもわるくも急激に進んでいます。そんななかで、実践が積み重ねられれば積み重ねられるほど、その評価を適切に行っていくことが求められるわけです。
ということで、「地域福祉の理論と方法」の最後は、「福祉サービスの立案・評価」というタイトルの問題で閉められています。

では実際に解いてみましょうか。

選択肢1 ×

パブリックコメントなどという用語を、社会福祉現場でよく聞くようになったのは、せいぜいここ5年ぐらいですかねぇ~。もちろん用語としては、10年ぐらい前から使われ出した感覚はあるのですが、よく聞くのはやはりここ5年です。
選択肢にある「予算や法律・規則の制定」を行うのは、行政機関です。
このことについて、「地域福祉」の問題で聞かれているということを意識すれば、パブリックコメントについて細かくは知らなくても、なんとなくその意味合いもわかるかと思います。「行政や利害関係者、学識経験者だけで決めるな、地域福祉推進の主体である地域住民らの意見を聞け」ってわけです。

選択肢2 〇に近い△

ニーズ推計という用語を知らないとしましょう。それでも、〇に近い△ぐらいはこの選択肢でつけられれば、この問題は解けます。
どうやったら、この用語を知らなくても、この選択肢に〇に近い△をつけるぐらいまでいけるでしょうか。
こういう何となくで説明を終えられがちなところほど、丁寧に説明してみたいという欲望が私にはありまして。笑
ちょっといっしょに考えてみましょうか。

日本語は名詞と名詞を接続詞なしでつなげて新たな名詞にしちゃう、そういう言語的特徴を持っています。
そんな名詞の意味を理解するには、意味の区切りごとに分けて、理解するのが得策です。
やってみましょうか。

ニーズ推計=ニーズ+推計

ニーズという言葉は、社会福祉に目が言っている皆さんならほとんど知ってはいるものです。(ただ、専門的にニーズって何っていうと、これ、なかなか定義しずらいのもので。それは、またの機会にしましょうか。)
この問題を解くのに大事なのは、「推計」という言葉のほうです。こういう文字を見て、頭抱えて「あーわからないよー」となっちゃいがち。普段使いの言葉じゃないだけに。
ただ、こういう何気ない言葉を丁寧に読み込める力があると、知識なんかなくても、論理で何となく問題作成者の意図を推測できてしまうのです。
おっと。ここで私は「相手の意図を推測」なんて形で、何気なく「推測」なる言葉を使いました。これ、「推計」と似てますね。

ということで、さらにここで「推計」も意味の区切りで分けちゃうといいのです。

推計=「推」+「計」

「推」のほうから行きますか。今、推計とともに推測なんて言葉も使いましたが、推測から「推し測る」なんて言葉が思い浮かぶといいですね。
「推し」なんて言葉が若い世代では一般化しつつありますが、あえて「推」に引き付けると、「その人がいいと『分かっている』から人に薦める」なんてニュアンスでしょうね。つまり、「推」という字には「分かっていること」を踏まえる際に使われるんです。
ここで敢えて「分かっていること」という表現を私が使っているのは、「現実」とか「事実」とか「客観的指標」なんて言葉を使うと別の意味が付与されてしまうからです。例えば、あるアイドル「推し」の人にとって、そのアイドル=素晴らしいから、他の人にも薦めるわけですが、じゃあ、そのアイドルが素晴らしいのは事実ですか?って言われると、何とも言えないでしょう。ただ一つ、アイドル「推し」の際に前提としてあるのは、少なくとも「推し」てるその人にとっては「分かってる」ってこと、それだけです。
すると、

推計=「推」+「計」=「分かっている」ことを踏まえて「計算」する

ってことになります。
「推」の前提に「分かっていること」があることはわかりましたが、じゃあ、「計」の前提には何が必要ですか。数字です。数字がなけりゃ計算はできないからです。
ここまでくるとだいぶ見えてきました。
ニーズは、そもそもは数字には表せません。しかし、そのニーズを多少強引にでも数字にしてみると、何か分かった気分(=数字に落とし込んだものが正しいわけじゃない)にはなります。その分かったという感覚を踏まえて、じゃあ今後どうしていくかを計算して考えていくこと。それがニーズ推計なのです。

すると、選択肢2の「出現『率』」とか「必要『量』」といった数字にまつわる言葉が出てきています。「算出」なんて聞きなれない言葉も出てきていますが、これは「計『算』の結果を『出』す」ってことですよ。

ということで、ニーズ推計という言葉から推測されるもので選択肢2は埋め尽くされています。であれば、「ニーズ推計」を知らなくても〇に近い△ぐらいはつけられるんです。

どうでしょうか。

選択肢3 ×

第三者評価の第三者の意味ぐらいは知る必要があります。第三者とは、関係者以外という意味です。家族って関係者?第三者っていうビミョーなラインをこの選択肢は責めてきていますが、ソーシャルワークでは関係者というより当事者って考え方をするのですが、家族も含めて当事者(関係者)だってとらえます。これは今のソーシャルワークの前提ですね。特定のサービスを利用する本人だけを当事者とか関係者とは呼びません。(このあたりは地域福祉って考え方ともつながっていますけれども。)

選択肢4 ×

これも知識がないと厳しいですかね。カタカナ英語だと、選択肢3の「推計」のように論理で類推するのが難しいという人が多いでしょうから。アウトカムというのは結果のことです。アウトカム評価ぐらいは知っておきたいところです。つまり、結果による評価です。一方で、選択肢の文では、過程つまりプロセスの適切さを評価でしてますね。これはプロセス評価と呼ばれます。

アウトカム評価結果で評価
プロセス評価過程を評価

プロセスの意味は分かる人が多くても、アウトカムは知らない人もいるので、これは覚えましょう。

選択肢5 ×

選択肢4に出てきたアウトカム評価は、サービスの実施後に行われます。なぜなら、サービスの実施をした後に「結果」が出るからです。
ただし、この論点だけで、この選択肢5が×とは言えません。なぜなら選択肢5の主語であるプログラム評価が、サービスの実施後の評価をも含みこむかもしれないからです。さらに言えば、この選択肢の文章で大事なのは「プログラム評価」というこの文の主語だけではなく、「サービスの効果を計測するための指標の設定」も〇×をつけるためにはとても大事です。

「サービスの効果を計測するための指標の設定」

こういう単語のようにまとめられた文を見ると、途端に意味が取れなくなる、もしくは何となくで読み流す人が少なくありません。こういう単語のような文は、分解して文章に組み立てなおして理解すればいいのです。

「サービスの効果を計測するための指標の設定」
→文章にすると
「(私は)指標を設定する。なぜならサービスの効果を計測したいから。」

サービスの効果を計測したい。そのために指標を設定するんです。
では、その指標の設定は「いつ」しますか?そう、この選択肢は聞いているわけです。そして、この選択肢5では「基本的にサービスの実施後」だと言うのですが、さてどうでしょう。
まず、「基本的に」が曲者ですね。「基本的に」という形容がついているということは「絶対ではない」ということです。
絶対ではないが、基本的にはどこでやるのが「サービスの効果を計測」するのにいいですかね。
これに答えを導くやり方は2つでしょうかね。1つは、問題文に「福祉サービスの」とあることから、ここでいうサービスが「福祉サービス」であることを踏まえると、対人援助にまつわる評価が、その対人援助なりが終わった後にやるのが基本的だとしたら問題が生じます。なぜなら、対人援助サービスは、長期かつ1回限りであることが多いからです。

もう1つの答えの導き方として、この選択肢5の文章の主語が「プログラム評価」だということからも導けます。

サービスであれなんであれ、評価とは、評価対象の外にいるものが、その評価にまつわる行為なりなんなりが終わった後でなければできない、というのが自然科学における考え方でした。実験なんて考え方はその典型ですね。
ところが、社会科学が対象とする社会事象はすべて1回限りなのです。すると、事後的に評価するというあり方が、次の社会事象につながるかどうかはわからないのです。
そこで社会科学から出てきたのが、システムとプログラムという考え方なのです。

<社会科学でいうシステムとプログラム>
システム:相互に影響しあう部分から構成される全体
プログラム:システムを「分かる」ように具体的な数や形に落とし込んだもの

システムやプログラムっていうと頭を抱える人が多いですが、社会科学ではこのふたつとも「外」とか「終わり」って発想をせず、常に継続している中で、評価なり判断なりをしようという発想からくるものなんです。
ただ、システムの方が抽象的なもので、それを具体に落とし込もうとするのがプログラム、といえば分かりやすいでしょうか。
これが社会科学の基本的な考え方です。基本的とは、社会科学も細分化しており別様の考え方もあるからです。
システムやプログラムという言い方をする以上は、その内側から、継続した活動(行為・行動)をとらえようとするのですが、その際に、指標などを使って数値化するなりして、具体的に「分かる」ようにしたうえで、評価しやすくするのがプログラムって考え方ですかね。
これぐらいの説明をすると、「社会理論と社会システム」って科目ともつながって面白いと思えるんじゃないですかね。

もちろん、プログラムとして無理に数値化することによって、システムそのものからずれてしまうなんてこともあるわけで、プログラム化やそれに基づく評価は絶対ではないことはソーシャルワーカーとして知っておかなければなりません。

正解 2

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