ソーシャルワークから見た「都道府県の役割」

06福祉行財政と福祉計画

問題42 都道府県の役割に関する次の記述のうち、正しいものを1つ選びなさい。
1 生活困窮者自立支援法に基づき、生活困窮者自立相談支援事業を行う。
2 老人福祉法に基づき、養護老人ホームへの入所措置を行う。
3 「障害者総合支援法」に基づき、介護給付費の支給決定を行う。
4 子ども・子育て支援法に基づき、市町村子ども・子育て支援事業計画を定めるに当たって参酌すべき標準を定める基本指針を策定する。
5 介護保険法に基づき、地域密着型サービス事業者の指定を行う。
(注) 「障害者総合支援法」とは、「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律」のことである。

社会福祉士国家試験 第33回(2021年)より解説

今回から「福祉行財政と福祉計画」ですね。
総合科目でありつつも、理念的な方向性を指し示している「現代社会と福祉」や「地域福祉の理論と方法」の2科目に対して、それら踏まえ、現状の具体的な行政施策や財政、計画等がどこまで進んでいるのかどうか、それを把握してもらおうというのがこの科目「福祉行財政と福祉計画」の位置づけかな、と私は考えます。

ということで、全て具体的な法律に基づき、どの行政区分が具体的に行うように規定されているか、前二者の問題傾向とは違って、まさしく法による規定を正しく理解しているかどうかが問われています。
とはいえ、これら法律の細かいところまで覚える必要はありません。上述の問題42 は、国と都道府県と市町村の役割と、その役割に当てはまらない例外をしっかり押さえておけば解ける問題です。

では、まず明らかな×の選択肢から潰していきましょうか。

選択肢2 ×

これが何を聞いているのかは、見てすぐわからないとだめです。福祉関係八法改正ですね。
なぜこれがすぐわからないといけないか、というと、問題41までやってきた「地域福祉」なる理念を具体化させるための行政施策上の第一歩が福祉関係八法改正だからです。だから、いろんな科目を横断して、この改正は出題されます。
もちろん、「地域福祉」の行政施策上の具体化の第一歩なのですから、この改正を契機に市町村レベルに様々な権限を委譲していくわけです。

<老人福祉施設等の入所事務>
従来:都道府県と市

1990年「福祉関係八法」:都道府県から町村に権限移譲

現在:市町村

過去にはこんな問題も出てます。

第29回問題127 老人福祉法の展開に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
5 介護保険法の全面施行(2000年(平成12年))に合わせて,老人福祉施設等の入所事務が都道府県から町村に権限移譲された。

もちろん、この選択肢5は×で、介護保険法の全面施行ではなく、福祉関係八法改正(1990年)になります。

選択肢3 ×

障害者総合支援法(旧障害者自立支援法)は、もともとできた当初、2000年の介護保険法と統合しようとしていた節があります。(今もそれを狙っている政治家や官僚はいるのだろうと思いますが。)

ですから、介護保険法上のサービスも、障害者総合支援法上のサービスも、どちらもほぼ市町村が仕切っています。

1990年 福祉関係八法改正:措置権限を市町村へ

1990年代後半 社会福祉基礎構造改革:措置中心から契約中心へ

2000年 介護保険法施行:市町村が実施主体
2006年 障害者自立支援法施行:市町村が実施主体

ただし、障害者総合支援法のサービスの中で、都道府県が実施主体のサービスが一つあります。(都道府県地域生活支援事業は当たり前なので除きます。)
それが、自立支援医療の精神通院医療です。

障害者総合支援法の都道府県仕切り
①自立支援医療の精神通院医療 ②都道府県地域生活支援事業

これは狙われる例外です。なぜ、自立支援医療の精神通院医療だけは都道府県が実施主体なのでしょう。それは、精神障害者の入院に合わせるためです。精神障害者の入院は、精神保健福祉法という措置的な法律で定められています。強制入院を伴うため、市町村より専門性のある都道府県に仕切らせないとやれません。すると、通院についても都道府県でないと、整合性がとれないのです。
この例外は覚えておきましょう。すると、それ以外の総合支援法のサービスは市町村しきりだと覚えれば大丈夫です。

選択肢4 ×

子ども・子育て支援法の射程や内閣府仕切りであること含めて、国家試験を解くうえで整理すべきことはありますが、それは「児童」の科目でやりましょう。
ここで注目したいのは、「基本指針」ですね。

国家試験教訓
基本〇〇」は国レベルの方向性(=理念)をさし示したものとおもえ!

ってことで、「基本指針」「基本方針」、どちらの表現も国レベルの方向性を指し示すものと思ってください。
それ以外にも、〇〇基本計画なんてのも国レベルの計画です。例えば「障害者基本計画」は国の計画です。

選択肢5 ×

介護保険法、障害者総合支援法ふくめて、事業所や施設の指定は都道府県の役割です。これが大原則。

<今日の社会福祉における国、県、市の役割分担>
国レベル:大枠の方向性(=理念)を指し示す
※キーワード「基本
県レベル:国が示した方向を実現するための、人材の育成、事業所・施設の指定
※キーワード:「専門性
市レベル:県による人材や事業所・施設を使って、事業(サービス)を具体的に仕切る
※キーワード:「地域

これが大原則。これを踏まえたうえで例外だけ覚えればいいわけです。

市レベルは、地域のサービスを具体的にしきるわけですが、障害者総合支援法の自立支援医療の精神通院医療は、サービスだけど都道府県しきりだよ、と選択肢3の解説で言いましだね。
そんな感じで、覚えるべき例外は少ないのです。

介護保険法でも、事業所・施設の指定は都道府県なのですが、2005年改正において、身近な地域で行われるべきサービス類型を「地域密着」という枠組みで別途作ったわけでしたね。そして、その事業所・施設の指定も含め市町村しきりで行われるんでした。これは例外うんぬんというよりは、「地域密着型」は絶対に覚えておかなければならないものですよ。これも「高齢」の科目でまた機会があれば整理してみましょうか。

選択肢1,2,3,4は確実に×をつけて、残ったのが

選択肢1 〇に近い△

2015年に施行された生活困窮者自立支援法に基づく生活困窮者自立支援制度の射程はかなり幅広いものです。要は、制度の隙間を埋めるって発想があるからです。

すると、町村レベルに義務化してやってもらうのには無理があるんです。東京近郊に住まわれている人だと「町」「村」といっても、人口が1万とか2万とか思うかもしれませんが、田舎に行けば、数千人の長や村はいくらでもあるのです。そんなぐらいしかいない町や村の行政に、制度の隙間を埋めるそんな射程の広いものを義務化してやれといっても実際上無理なんですよ。そこで、町村の行政がやりきれない、そういうところが都道府県が代替するんです。これもまた都道府県の役割です。

ということで、福祉事務所設置自治体という言い方をして、基本は市と、町村部は都道府県、そんな感じで義務化しているわけです。

正解 1

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