ソーシャルワークから見た「人間開発報告書」

04現代社会と福祉
今回のポイント
国連が指標を出すのがなぜなのか考えてみる
・国連が出す、発展途上国をも含めた指標について、その意義を考える

問題24 「人間開発報告書2019(概要版)」(国連開発計画(UNDP))の内容に関する次の記述のうち、最も適切なものを1つ選びなさい。
1 「持続可能な開発目標」(SDGs)中の「2030年までに極度の貧困を全世界で根絶する」という目標を達成する目途が立っている。
2 「人間開発指数ランクごとのグループ」をみると、2005年から2015年にかけての平均寿命の年数の延びは、最高位グループよりも低位グループの方が大きい。
3 人間開発の各側面のうち、健康の格差は、所得や教育の格差と異なり、世代間で継承されることは少ない。
4 各国・地域の人間開発の格差を評価するには、一人当たり国民総所得(GNI)を比較することが最も適切である。
5 人間開発の格差を是正するには、市場の公平性と効率を高めることが有効であり、そのために各国・地域は減税・歳出削減と規制緩和を実施する必要がある。
(注) 「人間開発指数ランクごとのグループ」とは、世界の国・地域を人間開発指数の高い方から、最高位(Very high)、高位(High)、中位(Medium)、低位(Low)の4グループに分類したもののことである。
社会福祉士国家試験 第33回(2021年)より

この科目の過去十年を見ても、実は国連の機関等での目標や報告内容について聞かれるようになったのは、ここ5年なんです。

<国連の機関関連の報告書等からの問題>
第29回問題23
OECDの「より良い暮らしイニシアチブ」で用いられる「より良い暮らし指標」の内容
第30回問題26
WHOによる「健康の社会的決定要因」
第31回問題22
2012年の国連総会での「人間の安全保障」についての共通理解の文書での「人間の安全保障」の内容
第32回問題28
国際連合が掲げている「持続可能な開発目標」(SDGs)

これを見てわかるように、過去5年で5回連続で出ているんですよ。

国連なんて、それまでほぼ出題されていなかったのが急に、です。
しかも、5年連続となれば、もう毎年これらの国連関連の報告書類から必ず1題は出る定番問題になったと言ってもいいでしょうね。
ただ、定番問題になったからと言って、国連の文書をやたら詳しく読む必要は、過去問を見る限りなさそうです。「なさそうです」なんて言ってしまいましたが、あくまで前提としてのソーシャルワークの見方・考え方さえわかっていれば、五肢択一で正解が導けるように国家試験は作られている、と言ったほうが精確だと思います。

さて、今回の第33回問題24を見てみましょう。
問題のタイトルにある「人間開発指数」なんて言葉、とくに「人間開発」なんていうと「なんて差別的な!」と思った人もいるかもしれません。
ただ、定訳でこういう訳になってしまっているのでしかたありません。私も不自然な日本語だなっては思います。人間開発指数」で覚えちゃいましょう
これはソーシャルワークに関連する指標ゆえ、覚えてたほうがいいです。

人間開発指数とは?
1990年にインド人経済学者のアマルティア・センらによって開発された指数
資本主義の指標だけで国の豊かさを計るやり方を批判し、平均余命、教育、識字、所得4つを指標とした複合統計を作った。

国連開発計画のHPにも「一国の開発のレベルを評価するに当たっては、経済成長だけでなく、人間および、人間の自由の拡大を究極の基準とするべきであるという点を強調するために、人間開発指数(HDI)は導入された」とあります。

このぐらいの知識を持ったうえで、ざっと選択肢を眺めてみましょうか。

選択肢1 ×に近い△

SDGsは、昨年ぐらいから流行りだし、その時流に乗ってか、昨年の第32回ではSDGs単独問題が出題されました

ただ、「2030年までに極度の貧困を全世界で根絶する」という目標を達成なんて、あと9年しかありませんし、かつ、そんなたった9年で目途が立つような目標を「持続可能な開発目標」(SDGs)の名の下に立てるわけがありませんね。
多くの人が国連のこの報告書を読んではいないでしょうから、△にはしますが、×に近い△ぐらいで処理しておきましょう。

選択肢2 〇に近い△

ちょっと考えてみてくださいよ。
例えば、日本を初めとした平均寿命の最高位グループは、ここ10年で、平均寿命はほとんど変わっていません。今80歳前後ぐらいですが、これ以上に急激に伸びるには「人間開発」よろしく「人間改造」が必要ですかね。(ここ、笑うところですよ。)

それよりも、低位グループの方が伸びは大きいのは当然です。低位グループというより、発展途上国と言い換えてもいいですかね。経済的な伸びも大きく、インフラ整備等が整えば整うほど、これらの国々の平均寿命はぐんぐん伸びます。伸びしろがあるからです。

ということで、もうほぼこれで確定でもいいのですが、報告書を見たわけではないので、〇に近い△ぐらいにしておきますか。

選択肢3 ×

平均寿命の差は経済格差に比例するところがあります。
インフラ整備等、それらが健康に大きな影響を与えますし、それだけではなく病院に気軽にかかれるかどうか、これもまた平均寿命に大きな影響を与えます。
日本に住んでいると、病院は気軽に行けるところと思いがちですが、まともな医療保険制度がない国々は今でもいくらでもあります。
すると、所得格差や教育格差が世代間で継承されるならば、同様に同じ理屈で、健康格差も世代間で継承されることになります。

これは報告書を読んでいなくても、×でいいですかね。

選択肢4 ×に近い△

これは何となく「そうかな」と勘違いする人もいるかもしれませんね。

先にあげた国連開発計画のHPにも以下のような文章が乗っています。
1人当たりGNIは、国民所得の大きさしか映し出さない。所得がどのように用いられているか、たとえば、すべての国民に医療や教育の機会を与えるために使われているのか、それとも軍事予算に使われているのかをまったく明らかにしない。」

結局、経済的指標はお金だけで見ますが、一方、人間開発指標では、その使い方が問われているのです。

選択肢5 ×に近い△

これも選択肢4同様で、市場の公平性と効率を高めることによって何がなされるかが大事であって、それ自体で、人間開発指標が上がる、という発想はありえませんね。

正解 2

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