ソーシャルワークから見た「福祉の財源」

06福祉行財政と福祉計画

今回のポイント
・理念が先にあり、それに見合った財源なんだと知る。
・負担金と補助金の違いを理解する。

問題43 福祉の財源に関する次の記述のうち、正しいものを1つ選びなさい。
1 生活困窮者自立支援法に基づき、生活困窮者家計改善支援事業の費用には国庫負担金が含まれる。
2 生活保護法に基づき、保護費には国庫補助金が含まれる。
3 介護保険法に基づき、介護給付費には国庫負担金が含まれる。
4 身体障害者福祉法に基づき、身体障害者手帳の交付措置の費用には国庫補助金が含まれる。
5 「障害者総合支援法」に基づき、地域生活支援事業の費用には国庫負担金が含まれる。

社会福祉士国家試験 第33回(2021年)より解説

問題42では、個別具体的な法律によって、具体的な事業が、行政の国/都道府県/市町村、どのレベルで行われるように法に具体的に規定されているのか、そこが問われました。

そのうえで、この問題43では、その財源がどのように具体的に規定されているか、そこが狙われています。ただ、これらも丸暗記ではしんどいところで、理念を踏まえ、どの財源で埋めるべきか、その大枠の考え方を押さえたうえで、例外は別途個別にその理由も併せて押さえると、忘れることはなくなります。

ということで、ざっと選択肢に目を通してみましょう。

すると、すべての選択肢が国レベルの財源で統一されていることに気づくでしょう。そのうえで、国庫「負担金」なのか、国庫「補助金」なのか、それが問われていることがわかります。

国家試験は「ソーシャルワーカーたるもの負担金と補助金の違いぐらいは知ってないとダメですよ」と言っているわけです。

<「負担金」と「補助金」の考え方の違い>
負担金:行政は絶対に払わなきゃいけない。だから行政は借金してでも払ってくれる。(義務的経費)
→それゆえ、なぜ必要なのか、制度の趣旨を厳密に説明し、財務省を説得することができないと認めてもらえない。
補助金:行政は、お金あるなりに(お金のある範囲内で)、支払ってあげてもいい。(裁量的経費)
→すると、実際にどれだけのお金を支払うかどうかは、払う側の論理(=裁量の余地)で決めてよい。

選択肢1 ×

生活困窮者自立支援法の必須事業と任意事業は絶対に押さえなければなりません。問題42でもやったように、制度のはざまを埋める発想に基づく生活困窮者自立支援制度において、どれが必ず地域に事業としてあるのかどうか、そこが定まっていないと、ソーシャルワーカーとしても制度のはざまに生きる人に対して何がどれだけできるかが定まらないからです。

ただし、こういうときに全部いちいち覚える必要はなくて、必須事業だけしっかり押さえれば、あとのものは任意だとわかります。

生活困窮者自立支援法の必須事業
①生活困窮者自立相談支援事業 ②生活困窮者住宅確保給付金

これらが法で必須と定められているということは、地域で市なり都道府県なりが絶対にやらなきゃいけないわけです。だとするならば、絶対やるのですから、負担金として義務で必ず支払わなきゃ地方は困ってしまうじゃないですか。ですから、こういうものは財務省は負担金として認めるわけす。

一方で、選択肢にある「生活困窮者家計改善支援事業」って必須事業ですか任意事業ですか?生活困窮者自立支援法の必須事業は、生活困窮者自立相談支援事業と生活困窮者住宅確保給付金の二つだけなのですから、生活困窮者家計改善支援事業は任意事業です。任意ということは、負担金と補助金どちらとして財務省は認めますか。国の財源が豊かで、いくらでも社会福祉に使っていいよーなんてノリであれば、なんでも負担金でどうぞ、って形になるのかもしれません。しかし、今の日本の行政には、お金がなくてなくてなくて、ってぐらいは小学生でも知っています。すると、任意事業に負担金形式で支払いなんて認めませんよ。すると、任意事業というだけで、補助金で賄われているんだな、と予想がつくわけです。

このように、一見すると、問題では負担金と補助金について聞いているように見えますが、実際には、生活困窮者自立支援法の必須事業と任意事業が頭の中で整理されているかどうか、そこを聞いているのです。

ですから、丸暗記で、何とか事業は必須で何とか事業な任意で、などと無味乾燥に、ただただ無意味に覚えても、こういう問題が出るとコロッとやられてしまうわけです。だから、国家試験が聞いているのは論理的思考なんだよ、と私は一貫していっているのです。

選択肢2 × 選択肢4 ×

生活保護法による生活保護制度や、身体障害者福祉法の手帳制度の法的根拠は何ですか。
もっといえば、社会福祉という名のもとに公的な施策が行われている、その根拠って何ですか?

<社会福祉の法的な根拠>
日本国憲法第25条
「すべて国民は健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」(=生存権)

社会福祉という見方・考え方にとって、あらゆる法律の中で最も重要な条文です。
社会福祉なる公的な政策がある根拠のすべてはここにあります。
そしてこの条文で、すべての国民に保障された権利を、法学や社会福祉学では「生存権」と呼びます。

ただ、ここで次のような疑問を持つ人もいるかもしれません。
「憲法にこう書いてあるからと言って、なぜそれが社会福祉という公的な施策の根拠になるの?」

そこで、憲法と法律の違いを知っておかなければなりません。

<憲法と法律の違い>
法律:市民に対する命令 ⇔ 憲法:国家権力に対する命令

市民に法律を守ってもらうことにより社会の安寧安定は保たれますが、そうするためには、国家は憲法を守らなければなりません。
このように国家は憲法によって命令されているのです。それを破れば市民との信頼関係は崩れ去ります。
そして、日本国憲法第25条に「すべての国民」が生存権を有すると書いている以上、国家はすべての国民に生存権を保証しなければならないのです。
これが生存権保障という考え方です。
これを具体的に達成するためにあるのが生活保護法や身体障害者福祉法です。
もう少しいうなら、すべての人に健康で文化的な最低限度の生活を保障するために、福祉六法できたと考えれば分かってもらえるでしょうか。
だとするならば、国家によって生活保護法の保護費や身体障害者福祉法の手帳制度は国庫「負担金」で賄われなければならない、というのは当然のことでしょう。

選択肢3 〇 選択肢5 ×

選択肢2の生活保護法、選択肢4の身体障害者福祉法、これらは措置的な法律です。
措置という枠組みで、すべての人の生存権を保障する、という考え方によって成り立っている法律と言えます。

一方で、選択肢3の介護保険法、選択肢5の障害者総合支援法は、契約的な法律です。

実は、措置中心の時代と契約中心の時代では、負担金と補助金の役割が異なるのです。

負担金と補助金の役割
措置中心の時代
→施設は負担金、地域は補助金
契約中心の時代
→地域で生きていくうえで最低限必要なサービスは負担金、それ以外は補助金

措置中心の時代のサービスの費用負担の具体例
例1 介護保険法
地域で生きていくうえで最低限必要なサービスのカテゴリー=「介護給付」
→負担金で賄う
それ以外のサービスのカテゴリー=「地域支援事業」
→補助金で賄う
例2 障害者総合支援法
地域で生きていくうえで最低限必要なサービスのカテゴリー=「自立支援給付」
→負担金で賄う
それ以外のサービスのカテゴリー=「地域生活支援事業」
→補助金で賄う

措置中心の時代の福祉六法による制度のほとんどが施設です。それら施設にかかる費用は負担金で賄われています。今でも福祉六法はもちろんありますが、これらは今も負担金で賄われています。一方で、措置中心の時代でも、障害等があっても地域で生きることを選択した人たちやその家族などは、運動を通して、地方自治体などの補助金を勝ち取り、その地域ごとに地域生活で必要なサービスを制度化させていくわけです。

そのような社会福祉の費用負担のありようは、1990年代後半の社会福祉基礎構造改革を経たのちの、2000年以後の契約中心の時代に変わります。
社会福祉は、措置による生活保障ではなく、契約制度により地域を前提に生活保障をしようという立て付けになったからです。
すると、費用負担の考え方はガラッと変わり、①地域生活の中で最低限必要なものは負担金、⓶そこまでは言えないもの、例えば地域によって差があるようなものは補助金で、という仕組みになります。

そして、介護保険法でも、障害者総合支援法でも、①と②両方が含まれているのです。
選択肢3の介護保険法では、介護給付は①に当たり、地域支援事業は②に当たります。

同様に、選択肢5の障害者総合支援法による自立支援給付は①に当たり、地域生活支援事業は②に当たります。
このあたりを意識すると、この二つの法律の理解が進むと思いますし、ここは介護保険法と、障害者総合支援法を整理していく際の、最初にしっかり押さえておくべきところです、
詳しくは「高齢」や「障害」の科目でやりましょう。

正解 3

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