ソーシャルワークから見た「心理検査」

02心理学理論と心理的支援

今回のポイント
・心理検査を使い、社会が何をしようとしているか、考える。
・目的を踏まえ、そこから手段としての心理検査の種類をせいりする。

問題13 心理検査に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。
1 特別支援学級への入級を検討したい子どもの知能検査を学校から依頼されたので,ロールシャッハテストを実施した。
2 改訂長谷川式簡易知能評価スケールの結果がカットオフポイントを下回ったので,発達障害の可能性を考えた。
3 10 歳の子どもに知能検査を実施することになり,本人が了解したので,WAIS-Ⅳを実施した。
4 投影法による性格検査を実施することになったので,矢田部ギルフォード(YG)性格検査を実施した。
5 WISC-Ⅳの結果,四つの指標得点間のばらつきが大きかったので,全検査IQ(FSIQ)の数値だけで全知的能力を代表するとは解釈しなかった。

社会福祉士国家試験 第33回(2021年)より解説

実は、この5つの選択肢を見ても、問題8問題9問題10問題11問題12という論理的な構成とその流れさえ理解していれば、それぞれの心理検査について知識として知らなくても、形式をざっと見ただけで、正解は選択肢5だろうなと推測がつくのです。このへんの感覚がわかってくると、細かい知識の暗記なんていうものを国家試験は求めていないし、暗記中心の勉強なんてしなくても国家試験には合格できるんだと思えてくるのですが。

さて、みなさんは、この問題についてどういう印象を受けたでしょうか。

では、その辺りの感覚について、できる限り私なりの言葉で説明してみたいと思います。
「1つの検査の数値で、対象者の能力を代表させる」という見方・考え方は、精神疾患分野でいえば、問題12でいうところの、1960年代~70年代の転換期以前的な発想なわけです。
もしくは、障害分野でいうならば、問題11でいうところの、2000年代に出てくる日本の「発達障害」という発想以前的なものでもいいですよ。知的障害は知的障害で他と交わらない。だから、その人が知的障害だってことが重要で、知的障害に当てはまる知的障害者福祉法の知的障害者入所施設でその人の生存権保障の全ては完結されるんだと。
そういう見方を超えていこうというのが、問題12の、自然災害によって引き起こされるようなそれまでの精神疾患に比べ広い射程を持つ「心的外傷後ストレス障害(PTSD)」という概念であり、問題11の、「自閉スペクトラム症(ASD)」と「注意欠如・多動症(ADHD)」の両方が併存することも想定する「発達障害」という概念であるわけです。

こんな直前の問題11問題12を考えると、国家試験が選択肢5に〇をつけさせたがっているように見えてきませんか。それを「勘どころ」と呼ぶ人がいますが、私はこのような考え方で、正解を導くあり方を「論理」と呼ぶべきだろうと思っています。「勘どころ」などというと、その人の「勘」というあやふやで目に見えにくいものによるように思えちゃいますから。ソーシャルワークの見方・考え方がある程度わかっていて、問題を積み重ねていけば、論理が勝手に正解を導いてくれるように国家試験はできているのです。

なんてぐらいで、正解は見えてはきたので、ざっとそれぞれの選択肢に目を通してみましょうか。

選択肢1 ×

ロールシャッハテストがどんなものぐらいかは知っておかないとダメです。
なぜダメですか?これは、ソーシャルワークの国家試験でなぜ心理検査が問われるのか、という問いへの応答にもなりますが。
ここまでの問題の論理的構成から、自己実現を目指して生きる、そんな今日の人間の有り様を支えるソーシャルワークにおいては、人が「知覚」と「社会的関係」という資源を使って自己実現を目指すことを理解したうえで、それらの阻害要因となりかねない「発達障害」や「心的外傷後ストレス障害(PTSD)」についても理解しよう、とこれら「心理」の問題は言っているわけです。ただ少なくとも、資源が「知覚」なのか「社会的関係」なのか、阻害要因が「発達障害」(障害的要因)なのか「心的外傷後ストレス障害」(精神疾患的要因)なのか、それは分けなきゃいけないよって、国試は伝えているのです。この二つはそれぞれ繋がってはいるけれども、分けないと、自己実現を目指して生きるための支援に不具合が生じるからです。もう少し言うと、自己実現を目指す目的のために、必要に応じて「知覚」と「社会的関係」を分けて、どちらにより遅れがあるのかに応じて、どんな資源をつなげていくべきかを検討していくのです。その検討の際には、どっちが遅れが大きいか主観的に判断すべきではなく、客観的な判断も踏まえて行うべきだと伝えているのです。「心理」における、その客観的な判断の代表が心理検査です。
さて、なぜロールシャッハテストがどんなものかぐらいは知っておかないといけないかって話に戻ると、「インクのしみを見せて何を想像するかを述べてもらう」っていうこの形式がわかれば、「知覚」を計るものではないな、ってことはわかりますよね。近くを計ることによって、その遅れが大きければ、制度としては知的障害関連が充実していますから、そこといかにつなげるかって話になるわけです。それを勘違いして、ロールシャッハテストは心理検査だから、結局は「知覚」を計ってるんだろ、なんて話で、知的障害関連の制度に結び付けられては、めちゃくちゃですよ。でしょ。
ロールシャッハが計っているのは、「知覚」とは異なり、一方で、先にあげた「社会的関係」とも異なる、「無意識」なわけですよね。大丈夫でしょうか。

選択肢2 ×

長谷川式って聞いただけで、「認知症」を計っているのだとわからなきゃダメですよ。「認知症」、つまり高齢者支援においても、支援をするにあたり何が阻害要因になっているかを、主観で勝手に判断して、制度としての施設に入れるなんて判断をしてはならないからです。だから、認知症のスケールも基本的なところぐらいソーシャルワーカーは覚えておかなければなりません。

選択肢3 ×

WAISという文字を見たら「知能検査」だなってわからないとダメです。ただ、この選択肢は「10歳の児童が了解したから実施」が×ですね。保護者への説明とそれを踏まえた同意が必要だろうってことぐらいはわかるでしょう。

選択肢4 ×

「矢田部ギルフォード(YG)性格検査」という用語からわかるように、YG検査は性格検査です。ただ、投影法とは無意識を計るもので、その1つが選択肢1のロールシャッハテストです。これぐらいは知っておかないといけません。

選択肢5 〇

WISC検査は「言語理解」「知覚推理」「処理速度」「ワーキングメモリー」の4つの指標とIQを数値化する検査です。それゆえ、「発達障害」の検査だという理解が一般化されています。ただし、「発達障害」という概念を問題11で学んだ私たちには、この数値だけで発達障害か否かなどということを早々に言えるものでもないことは当然です。

正解 5

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