ソーシャルワークから見た「発達障害」

02心理学理論と心理的支援
今回のポイント
「自閉症」と「発達障害」、両者の出題の意図について考えてみる
「発達障害」を政策的な観点も踏まえとらえなおす

問題11 発達障害に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。
1 限局性学習症(SLD)は,全般的な知的発達に遅れが認められる。
2 自閉スペクトラム症(ASD)は,通常,6歳以降に発症する。
3 自閉スペクトラム症(ASD)は,知的障害を伴わないのが特徴である。
4 自閉スペクトラム症(ASD)と注意欠如・多動症(ADHD)の両方が併存することがある。
5 注意欠如・多動症(ADHD)は,男児よりも女児の方が有病率が高い。
(注) 選択肢に使われている診断名に係る用語は,「精神疾患の診断・統計マニュアル(DSM- 5 )」に基づく。

社会福祉士国家試験 第33回(2021年)より解説

第33回国家試験で、すでに似たような問題を解いているな、と思った人いますか?これを本番で解いた受験生だったら、「またDSM出たよ!」「また自閉スペクトラム症かよ!」と思ったことでしょうね。というのも、科目は違えど、問題6で解いたばかりですからね。
そして、こんな問題が出ると「国家試験の手抜きだ」「問題が被ってる!」「試験委員は問題かぶりに気づかなかったのか!」とか言う人もいるんでしょうね。とにかく国家試験を上から見たい人(=非難したい人)、いますよね。ただ、そういう態度は国家試験から学ぼうとする態度ではないですし、もったいないですよ。もったいないって何か?国家試験そのものが今のソーシャルワークの見方・考え方を五肢択一という形式で伝えてくれているのですから。そこから学ばないなんてもったいない。

せっかく、この問題や問題6で「自閉スペクトラム症」に焦点化しているので、「自閉スペクトラム症」で例えましょうか。
自閉スペクトラム症という名付けを与えられた児童がいるとしましょ。その児童が繰り返しいう言葉に対して「何回同じ言葉をくりかえし言うんだよこいつは!」「何か疾患でもあるんだろうか?」などというまなざしを向けたら、もうソーシャルワークにはならないんですよ。私はそう思います。ソーシャルワークはそうじゃない。そうじゃなくて、その児童の繰り返す言葉に惹きつけられながら、児童が何かをやっている、その「何か」に魅せられ、ついついその児童の振る舞いをじーっと見てしまうのです。そうするうちに、その言葉を発話することを通して、その児童は「何か」をしているってことがわかってくるんです。そんなふうに見えてきたならば、それ踏まえ、あなたはソーシャルワーカーとして、その児童をアドボケートしていくのです。

な~んて、ぐらいにしておきましょうか。

第33回国家試験では「自閉スペクトラム症」なんて個別具体的な障害名が、単独問題で二回も出てきてます。(この問題もまた、問題6同様に、自閉スペクトラム症の単独問題みたいなものです。)
国家試験はこの用語をなぜ繰り返すのですか?国家試験がおかしいからですか?そういう見方をやめて、なぜ国家試験はこんなマニアックな用語を繰り返すのだろうか?と考えてみましょうよ。
「自閉症」という用語は、児童精神医学という、これまたマニアックな分野で、日本では1960年代ごろからずーっと語られていた概念に過ぎません。ところが、それが2000年前後から急に一般メディアでも語られだし、さらには2005年には「発達障害者支援法」なる法律で、発達障害の一つとして障害者福祉という行政施策上に位置づけられ、さらにDSM-5では、概念的に拡大させて「自閉スペクトラム症」なる名づけを与えられました。
そんな名づけを与えられた児童や成年は、特別な人なのですか?
これらの背景については問題6の解説に書いたつもりですので、そちらに譲りたいと思います。もう一度、解説を読んでみてください。ソーシャルワークがなぜ「自閉スペクトラム症」に昨今こだわりだしたか、わかるでしょう。いいですか、この「自閉スペクトラム症」という障害が特別ゆえ、ではありませんよ。この用語が、概念として、今日という時代やその社会を象徴するものになったからなのです。

さて、これぐらいにして。
そんな背景の中で出てきた「発達障害」という概念についての問いです。
ただ、「発達障害」を用語としてみると、先に述べたように、児童精神医学という観点、ならびに、障害者福祉という行政施策上の観点、どちらの観点からも今日では用いられている用語です。
すると、どちらの観点によるのか、確定させる必要があります。
どっちでしょうか?
この問題の注には、「用語はDSMに基づく」とありますね。じゃあ、ここでいう発達障害は児童「精神医学」上の用語として理解した方がよさそうです。

第33回の「心理」の7問には論理があります。問題8でマズローの人間理解(=自己実現を目指す人間像)に今日のソーシャルワークとの親和性を解き、問題9で「知覚」、問題10で「社会的関係」という、人間が自己実現を目指すときに使う2つの大きな資源を指し示したんだよ、なんて解説を問題10で書きました。

じゃあ、その延長で、この問題11は、第33回の「心理」では、論理的にはどういう位置づけになるでしょうか。

「自閉症」は、かつては「『社会的関係』と『知能』(=「知覚」的側面)の両方が劣っているんだ」といわれたものです。精確に言えば、日本では1970年前後ぐらいからですかね。そんな言われ方をしてました。それ以前だと、自閉症は「知的な面では遅れはないんだ、社会的関係性の面だけが遅れているんだ、だから知的障害とははっきり分けるべきだ」なんて語りが強くて。だからこそ、知的障害とはまったく異なる文脈で語られてきた「統合失調症」(当時でいうところの「精神分裂病」)との連続の方が自閉症界隈では昔はよく語られていたんです。なぜなら、児童期に発症する自閉症がわかれば、謎の病である統合失調症もわかるようになるぞ!っなんて感じで、ね。そんな感じで1960年代以前には自閉症研究がやたらもてはやされてたんです。それが1970年前後ぐらいから、「いやいや、自閉症は脳の障害だ。だから知的な発達の遅れも伴うことが多いんだよ」みたいな話に急展開してしまうんです。(このへんの話は小澤勲『自閉症とは何か』に詳しいです。ただ、あまりに大部の著作ゆえ、売れないし、出版社も小さなところゆえ絶版です。ただ、著者自身の講演録踏まえコンパクトにまとめたものが後年に出版されていて。それが小澤勲『自閉症論再考』ですが、ありゃま、こっちも絶版か。良本ほど絶版になっちゃうんだなぁ~。)
そんな自閉症界隈に再び大きな転換期がやってきました。それが2000年前後です。それも、1960年代ごろから、自閉症とは別物として語られてきた学習障害(LD)や注意欠陥他動性障害(ADHD)をも巻き込んで、「発達障害」なる衣装をまとって。
こんな歴史的文脈をつけると、知的な発達の遅れがあるかないか、とか、児童か児童期以後かとか、そんなことにこだわっていた2000年代以前の自閉症の議論であることがわかってもらえるでしょうか。2000年代以後においては「自閉症」「学習障害」「注意欠陥多動性障害」という枠を取っ払って、全てが連続的なんだ、繋がることもあるんだって、そういう考え方をしていくのです。

そしてこんな見方・考え方をすると、時に疾患と名指されたり、時に障害と名指されたり、時に児童に限定されたり、時に知的障害との違いを強調されたり、といった歴史的背景から今に至るこれらの概念について知ることというのは、ソーシャルワークって観点からするととても大事なことなんです。それぐらいの射程で、これら発達障害の概念について整理されているものがあるとすれば、滝川一廣さんの一連の著作ですかね。そのなかでも『子どものための精神医学』は売れているようですが、これ、読み易いようで、これら歴史的背景や社会科学的な見方を知ってないと、なかなか読みきれない、そういう本ですね。もちろん、お勧めです。

するとね、それぞれの選択肢は以下のように見えてきます。

選択肢1 ×

「限局性学習症」なんていうとわからなくても「SLD」という略語を国家試験は親切に明示してくれているじゃないですか。つまりSなる限定がついた「LD」(=学習障害)ですけど、それが知的障害をともなうか否かなんて、そんな発想自体がそもそも今日的ではないんです。

選択肢2 × 選択肢3 ×

6歳以降かどうかとか、知的障害を伴うかどうかとか、それも今日的な問いではなく、かつての「自閉症」にまとわりついていた問いなんです。

選択肢5 ×

これだけちょっとひっかかる、かな。というか、「有病率」なんて書かれると、「注意欠如・多動症」と訳されるようになった今日的な「ADHD」には、「率」として落としこめるような、正しい基準的なものがあるように思っちゃう人がいるのかもしれません。ただ、昔から今までずーっとそうですが、男児と女児でどっちが落ち着きがないかって言われると、ずーっと男児のほうが落ち着きがないとされてきています。今もその傾向は変わっていない。だから、この選択肢の「男児より女児のほうが多い」って物言いは、やはりひっかかりますよね。有病率だなんだなんてこだわらなくても×できるでしょう。ただ、これ、つまり落ち着きがないのは、「ADHD」が先なのか、「男児/女児という育てられ方(=社会性)」が先なのかか、ってのはそう簡単には断言できない大きな大きな問いです。そして、そんな大きな問いに触れちゃってるこの選択肢に、国家試験が〇つけさせるわけもなく。

選択肢4 〇

こういった背景がわかってさえいれば、5つの選択肢を見ればすぐに、国家試験が選択肢4に〇をつけさせたがっているように見えるんです。だから、素直に選択肢4に〇をつけて国家試験にリプライしてあげれば、それが正解です。

正解4

【お勧めの関連入門本】
問題6の「自閉スペクトラム症」のところでお勧めした本田先生の本でもあげておきますか。本田先生の本はどれも読みやすいです。支援的な観点で興味がある方は、田中先生の本が読みやすくよくまとまっています。また、自閉症や発達障害といった区分にこだわらずにこのあたり周辺のことをざっくり、かつ論理的に整理したい人には、滝川先生の「子どものための精神医学」をお勧めします。

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