ソーシャルワークから見た「民生委員制度の歴史」

05地域福祉の理論と方法

問題33 民生委員制度やその前身である方面委員制度等に関する次の記述のうち、正しいものを2つ選びなさい。
1 方面委員制度は、岡山県知事である笠井信一によって、地域ごとに委員を設置する制度として1918年(大正7年)に創設された。
2 方面委員は、救護法の実施促進運動において中心的な役割を果たし、同法は1932年(昭和7年)に施行された。
3 民生委員法は、各都道府県等で実施されていた制度の統一的な発展を図るため、1936年(昭和11年)に制定された。
4 民生委員は、旧生活保護法で補助機関とされていたが、1950年(昭和25年)に制定された生活保護法では実施機関とされた。
5 全国の民生委員は、社会福祉協議会と協力して、「居宅ねたきり老人実態調査」を全国規模で1968年(昭和43年)に実施した。

社会福祉士国家試験 第33回(2021年)より解説

この問題のタイトルは「民生委員制度やその前身である方面委員制度等」ではありますが、要約して「民生委員制度の歴史」としました。選択肢1から選択肢5まで順々に見ていくと、年代が古い順に並んでいることに気づかれたでしょうか。国家試験の歴史問題では、多くの場合、このように年代ごとに並べています。それも、ただ年代ごとに何となく並べているのではなく、民生委員の制度を考えるうえで、歴史上どれも大事な観点についてあげて問うているのです。

ですから、この5つの選択肢で整理すれば、ソーシャルワークの観点から「民生委員制度の歴史」が押さえられるようになっているのです。国家試験はソーシャルワーク入門の最良の教材だと私が言い続ける理由がだんだんわかってきたでしょうか。

ということで、選択肢1から見ていけば勝手に歴史の変遷を追っていくことになりますから、選択肢1から丁寧にみていきましょうか。

選択肢1 ×

冒頭にも書いたように、問題のタイトルを「民生委員制度の歴史等」と私は要約しましたが、問題文では「民生委員制度やその前身である方面委員制度等」とあります。この長いタイトルにも意味があると思ったほうがいいでしょうね。つまり、「民生委員制度の前身が方面委員制度である」ってこと、それが大前提だってことを指示してくれているんです。だったら、方面委員制度については最低限押さえておいてね、と国家試験が言っているようなものですよ。

ということで、よく対比される済世顧問制度との違いを整理して覚えてましょう。

方面委員と済世顧問
済世顧問制度:1917年に岡山県知事の笠井信一が創設
方面委員制度:1918年に大阪府知事の林市蔵が創設(小河滋次郎が協力)

選択肢2 ×

ここで聞かれているのが、救護法について、もっと言えば、選択肢2~4が公的扶助制度と方面委員・民生委員の関係についてだということがわかれば、十分ですかね。ちょっと整理しておきましょう。

公的扶助制度と民生委員
1874年 恤救規則
1918年 (大阪府)方面委員制度→全国へ
1932年 救護法
※方面委員は市町村の補助機関
1936年 方面委員令
※全国統一の制度化(=中央集権化)
1946年 旧生活保護法
※民生委員は補助機関
1950年 生活保護法
※民生委員は協力機関⇔補助機関は社会福祉主事

この選択肢にある「同法」とはもちろん救護法のこと。(こういう日本語で引っかかる人もいますが、丁寧に理解したいところ。同法つまり「同じ法」の同じにあたる法は、ここまでの文章、つまり問題文と選択肢1・選択肢2では、救護法しか出てきませんので、救護法です。)
救護法は、もともと1929年に成立しました。背景として、1923年の関東大震災などは押さえたいところです。ところが、救護法成立の1929年に世界的なとんでもない出来事が生じます。ニューヨーク株価の大暴落→世界恐慌ですね。これにより、救護法を行うお金も足りなくなってしまいます。そこで政府は競馬法を改正し、そこで得た利益を救護法に回せるようにしました。それによって1932年に救護法が施行されますが、その際に、大阪発の方面委員制度を利用し、方面委員を公的な補助機関とすることになります。

選択肢3 ×

これも先に上げた「公的扶助制度と民生委員」の年表で分かるように、1936年は方面委員令のことですね。方面委員を引き継いで、民生委員制度が成立したのは戦後です。
救護法によって、方面委員制度を採用しましたが、世界恐慌の波が日本経済を直撃した結果、国家規模で国家仕切りで乗り切らないと、にっちもさっちもいかない状況になってしまったので、中央集権的に国家が仕切っていく方向へと呑トン突き進んでいきます。方面委員制度を全国一律の制度にしていくこのあたりの施策は、そのあたりの先駆けともいえるでしょう。(イギリスでいえば、新救貧法を契機に中央集権化がすすめられたことなんかと似てますね。)それでもにっちもさっちもいかず、のちには日本は国家主導で軍国主義へと突き進んでいくわけですが。

選択肢4 ×

これ、よく出題されます。なぜなら、民生委員を公務員、もしくは補助機関化のように考えて、いいように使っていいんだ、なんて勘違いしていては、問題32を通して私たちが知った地域福祉の理想や原則から大いにずれていってしまうからです。

方面委員:救護法では補助機関
民生委員:旧生活保護法では補助機関→生活保護法では協力機関

実施機関とは、生活保護法を実施するのは公ですよ。正確に言うなら、「都道府県知事、市長及び福祉事務所を管理する町村長」ですね。大丈夫ですか。
日本国憲法25条(生存権保障)を踏まえて、生活保護法に従い、行政が行う(=実施する)わけです。それを行政内部で補助する資格が社会福祉主事、そこに協力するのが民生委員、ってそういう立て付けになっているわけです。

選択肢5 △でOK(〇に近い△にできればなおよし)

これは知らなくていい選択肢です。このように国家試験では、知識として知らない、もしくは教科書上も載っているものと載っていないものがあるような文章が選択肢として出てくることがあります。ただ、それを意地悪問題と思うのではなく、論理的な思考をすれば正解を導けるように国家試験は作られているのだと信じて、国家試験の意図を読み込み、〇×△をうまく使いこなしながら正解を導けばいいのです。
ただし、民生委員が協力機関になることによって、ボランティアを仕切る社会福祉協議会(=民間団体)ともより近しくなることは想像がつくでしょう。そこが何となくわかれば、この選択肢は△でも、〇に近い△ぐらいで落とし込んでおきましょう。

ということで、選択肢1、3、4は明確に×、選択肢2は〇で、選択肢5は△ですが、これ以外に〇にできる選択肢はないので選択肢5を〇にしておしまいです。

正解 2と5

タイトルとURLをコピーしました