ソーシャルワークから見た「地域福祉の在り方」

05地域福祉の理論と方法

問題34 地域福祉の在り方に関する次の記述のうち、最も適切なものを1つ選びなさい。
1 社会保障審議会の「市町村地域福祉計画及び都道府県地域福祉支援計画策定指針の在り方について」(2002年(平成14年))は、専門のコンサルタントに計画の策定を請け負わせるべきであると提言した。
2 厚生労働省の「これからの地域福祉のあり方に関する研究会報告書」(2008年(平成20年))は、制度の対象とならない生活課題は、行政が原則として関与せず、住民同士の支え合いによって解決していく必要があると提言した。
3 社会保障審議会の「生活困窮者の生活支援の在り方に関する特別部会報告書」(2013年(平成25年))は、生活保護受給者が増加する中で、中間的就労を通じた生活困窮者の社会参加よりも一般就労を重視すべきであると提言した。
4 厚生労働省の「地域力強化検討会最終とりまとめ」(2017年(平成29年))は、地域共生社会の実現に向けて、地域住民が多機関協働の中核を担う必要があると提言した。
5 厚生労働省の「地域共生社会推進検討会最終とりまとめ」(2019年(令和元年))は、既存の地域資源と狭間のニーズを持つ者との間を取り持つ、新たな参加支援の機能が重要であると提言した。

社会福祉士国家試験 第33回(2021年)より解説

問題32を解く際に、「一見すると事例問題から始める『地域福祉の理論と方法』はイレギュラーなように思えるがさてどうでしょう。問題解きながら考えて生きましょうかね」なんてネタふりをしましたが、いかがですかね。「地域福祉の理論と方法」の3問目にして、わかってきた感じはありますかね。え?よくわからない?じゃあ、この問題34のタイトル「地域福祉の在り方」って意味がわからないのだと思います。これ、教科書でも参考書でもほとんど触れられていませんが、国家試験を解く上で大事な見方・考え方ゆえ、整理しましょうか。

国家試験上での「理念」と「在り方」の違い
理念 ソーシャルワーク(という科学)によるミライへの方向づけ
在り方行政(という国家権力)によるミライへの方向づけ

どうでしょうか。だから、やたらと「在り方検討会」とか「あり方研究会」とか「在り方に関する報告書」とか教科書に出てくるでしょう。あれらはすべて行政施策上の具体的な提言なり会合の名前なんです。

さらに問題32が、事例問題で「地域福祉の理念」を問うていることを理解するためには、どちらも総合科目なんて形で一つに括られがちな「現代社会と福祉」という科目と「地域福祉の理論と方法」という科目、この二つの科目の対比をしてみてもいいかもしれませんね。

総合科目としての「現代社会と福祉」と「地域福祉の理論と方法」の違い
現代社会と福祉:総合科目として、理念的な方向づけを行う
地域福祉の理論と方法:総合科目として、理念を踏まえつつ具体的な方向づけを行う

せっかくここまで突っ込んだので、さらに「理論と方法」という科目名も「相談援助の理論と方法」と対比し整理しましょうか。

「理論と方法」という名のつく科目の射程
地域福祉の理論と方法(共通科目)
ソーシャルワークの理念を踏まえつつ具体的に方向づける
相談援助の理論と方法(専門科目)
社会福祉士の業務に特化した理念を踏まえつつ具体的な実践を方向づける

最後に、じゃあなぜ、「地域福祉の理論と方法」という科目では、理念と具体、この両方を扱うのか。この点について、国家試験で言うところの「地域」という言葉のニュアンスを説明したいと思います。

国家試験で使われる「地域」のニュアンス
1960年代ごろから立ち現れるソーシャルワークの「理念」的な場
であると同時に
2000年前後から行政施策上で具体的に定義づけられた「行政用語」

ですから、「地域福祉の理論と方法」では(「相談援助の理論と方法」と同様に)事例問題は出題されやすいんです。なぜなら、事例問題で問われているのは具体的な判断、つまり行政施策上の具体的な場としての「地域」実践が具体的に問われているからです。ただ、一方で、事例問題ゆえに、具体的実践が問われているように見えて、実のところはソーシャルワークの理念を問うている場合もたまにあります。問題32はその典型で、事例問題のように見えますが、今日のソーシャルワークが前提とする地域という理念を問うているわけです。それを第33回の「地域福祉の理論と方法」という第1問目で、まずは確認しているわけですね。
どうでしょうか。

そう考えると、問題33の民生委員制度なんかも、ソーシャルワークの理念と行政施策としての具体的実践がクロスするものと見えてきませんか。そんな歴史を振り返って、そのうえで現在の行政施策上、地域をどう具体的に見据えているのか、その「あり方」をこの問題で聞いているわけです。見えてきたでしょうか。

ということで、近年の具体的な行政施策で地域がどう具体的に語られているか、ソーシャルワークの理念が踏まえられているのかいないのか、なんていった観点で確認してみましょう。
行政用語として「地域」という用語が具体的に位置づけを持ち、使われるようになった契機は、2000年の社会福祉法からです。これは絶対に覚えていなければ行けないことですよ。ですから、以後の選択肢の行政文書その他はすべて2000年以後から今日までのものになっているわけです。であれば、以下の文書の全てが、行政施策上でも「地域」という理念を踏まえた実践を行おうとしていることは大前提です。

選択肢1 ×

この選択肢にある報告書の名前やその内容など知っていなくても大丈夫です。なぜなら、問題33で、「地域福祉の理念」を確認しているからです。「自己決定の尊重」「社会的包摂」「自立生活支援」「ノーマライゼーション」そのうえでの「住民主体」、でしたね。であれば、専門のコンサルタントに計画の策定を請け負わせるなんて発想はありえませんね。

選択肢2 ×

この選択肢の報告書も知らなくても大丈夫です。行政がなければOKなどという発想も、ソーシャルワークの「地域の理念」からかけ離れています。行政もまた社会資源の一つです。行政がかかわらないことが住民主体だというのは、YESかNOか、それで具体的に定義できるようなものに落とし込みすぎです。「地域」とは、具体的でありつつ、理念的でなければなりません。行政もかかわりながら、住民主体という理念的なあり方を模索していくのです。

選択肢3 ×

この報告書も、上述した背景さえわかっていれば知らなくても大丈夫です。ただ、2013年のこの文書あたりを契機に「中間的就労」という考え方をベースに就労支援なるものが行政施策上、積極的になされるようになった、ぐらいは他科目との兼ね合いで知っておいてもいいかもしれませんね。
もちろん、国家は行政施策上では中間的就労を押したい(推したい?)わけですから、一般就労を重視すべきなど報告書に書いてあるわけもないですねぇ。また、一般就労推しの時代っていうのが「高度経済成長下」でなされてきたわけですが、そのような発想でイケイケだった時代には、国家は(社会福祉協議会がどんなに理念としての「地域」をどんなに推しても)「地域」などという言葉を一切使わずに無視してきたわけです。それなのに、2000年を転換期に、「地域」という言葉を使い出したのは、一般就労一本槍では行政施策がうまく行かない、そういう時代になったからなわけです。

選択肢4 ×

このあたりが少なくない受験生の引っかかりどころなんでしょうねぇ~。
住民主体なる考え方は理念的なものなんです。ここでいう「理念的」とは、「現実にそぐわない」という否定的な意味ではありません。「地域」という具体的実践は、「地域」という理念がなければそもそもが成り立ち得ないのです。ただし、「地域」という理念を踏まえて、2000年前後から行政施策上の「地域福祉」が具体的実践としてなされて15年ほど経たところで、何らかの反省もでてはくるものです。その反省のひとつが、「結局のところ地域という場を誰が仕切るんだ」問題です。行政が仕切るって話が一番手っ取り早いし、具体的なわけですが、それは措置中心の時代に戻るだけです。じゃあ、この選択肢のように「地域住民が」って話になるかと言うと、「地域住民」という概念は理念的なものです。理念的なものに具体的な仕切りを負わせる体でちゃんちゃんって話にしては、「地域」はただただ理念的なものに過ぎなくなります。じゃあ誰が?というと、今のところの発想としては、多機関が担うんだって、そういうことをこの報告書は言ってます。
「多機関協働の中核を多機関が担うって、それ矛盾じゃね?」と思われる方もいらっしゃるでしょう。しかし、これを矛盾と言った瞬間に、理念的でありつつ具体的であるそんな「地域」という概念もまた矛盾に見えてしまいます。

私なりに、今日のソーシャルワークを定義するならば、「『地域』という概念が矛盾ではなく可能性に見える、そんな見方のこと」です。

選択肢5 〇に近い△

この文章、ちょっと読みにくいと思う人、いるかもしれません。こういう文章ほど丁寧に読みたいものです。意味の区切りがわかりやすいように、カギカッコを有効に使ってみましょう。

「新たな『参加支援』」の機能とは?
→「既存の地域資源」と「狭間のニーズを持つ者」との間を取り持つこと

ということです。

ところで、「機能」って何ですか?
このあたりもわかってない人にとっては何となく文章を読んで、なんとなく今の福祉っぽい言葉が多く羅列されていれば、〇つけるとかそんな感覚なのでしょう。でも、この「機能」って言葉も、社会科学としてのソーシャルワークでは大事な概念なのです。もう少しいうと、ソーシャルワークにとって大事というより、社会科学にとって大事な言葉であり、ソーシャルワークが社会科学の一つだと意識するならば、「機能」という言葉を適切に使えなければなりません。じゃあ、ソーシャルワークは社会科学じゃなきゃいけないの?って話が出てくるでしょうが、その説明(=というか私の意見)はまたの機会にしましょうか。

「機能」という概念を使うときには、必ず前提があります。それは、全体と部分、という見方をすることです。もう少し言うと、部分があって全体が成り立つという見方です。ここから、全体が全体として維持されるために、全体は部分に役割を与える、という発想が生じます。すると、部分が適切にその役割を果たせば、全体は維持されるんだ、ということになるわけです。これが社会システムという考え方になり、部分が全体に与えられた役割のことを機能といいます。

機能とは? = 全体部分に与える役割

さて、それを踏まえて、この選択肢の文章を解釈してみましょう。この文章の前提となる「全体と部分」はなんですか?わからないときは、この問題のタイトルに戻りましょう。この問題のタイトルは「地域福祉のあり方」です。だとすれば、全体が社会であり、部分が地域だってわかるでしょう。

1980年代ぐらいまでの日本という国家は、全体としての社会しか見ていなくて。全体としてうまく行けば部分なんか勝手についてくるんだという勢いで、社会全体が市場として拡大するような、そんな経済政策中心で国家が全てを仕切ってやってきたわけです。ところが、それが1990年代ごろからの大きな社会変動とともに、国家は社会を維持できなくなり、見方を変えざるをえなくなります。それが「部分があって全体が維持される」って考え方です。そして、その部分に「地域」という名付けを(それまでの社会福祉協議会の活動実践などを踏まえて)与えます。その上で、国家は「社会」という全体を維持するために(行政施策上において)「地域」に様々な役割を与えるわけです。その役割が例えば、問題32であげられていた5つの地域福祉の理念だったりします。それ以外に、「参加支援」なんかもありますかね。

このあたりは、1980年代ぐらいからの障害者運動やそれに基づいた障害者施策の影響があります。障害者周辺で行われてきた参加支援という在り方は、非障害者においても有効なのではないか、という仮説に基づいて、2000年代に入りいろんな分野でいろんな意味をこめて「参加支援」なんて言葉が使われてきたのです。

そして、そんな言葉が使われだし、15年ぐらい具体的な実践をしてみたところで、社会全体を見据えて、「参加支援」という具体的実践に新たな役割をさらに与えよう、ということになったわけです。それが、既存の地域資源と狭間のニーズの間を「埋めていく」、というか「越境していく」というか、そういうものを創設していくような、そんな役割を「参加支援」(という理念でありつつ具体的な実践)に与えよう、という、そんなわけです。

ちょっと長くなりました。
国家試験が丁寧に作られているので、国家試験の思いを踏まえて、ちょっと私なりに丁寧に書いてみましたが、どうでしょうか。

正解 5

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