ソーシャルワークから見た「訪問看護ステーションの指定要件等」

10保健医療サービス
今回のポイント
訪問看護ステーションに対して、今日の社会が与える役割を知る
・一問一答とは異なる、国家試験の五肢択一の解き方を理解する

問題75 訪問看護ステーションの指定要件等に関する次の記述のうち、正しいものを1つ選びなさい。
1 栄養士を配置していること。
2 特定行為研修を修了した看護師を配置していること。
3 管理者は医師であること。
4 機能強化型訪問看護ステーションでは、利用者や家族からの連絡及び相談を24時間受ける体制を整備していること。
5 訪問看護の対象は65歳以上の高齢者とすること。

社会福祉士国家試験 第33回(2021年)より解説

「訪問看護ステーションの指定要件等」という問題のタイトルをみて、ビビッてしまう人もいるかもしれません。「ソーシャルワーカーはそんなことまで覚えなきゃいけないのかよ」と。

でも、こういう問題ほど、ソーシャルワークの見方踏まえ、適切に解けば、正解は確実に導けるように作られているのです。

ということで。

国家試験の五肢択一の問題の解き方を、ここで改めて提示しながら解いてみたいと思います。

選択肢1 ×

この選択肢を見て、これまた、「ソーシャルワーカーに訪問看護ステーションの配置基準まで覚えろと国家試験は言っているのかよ」と思われる人いるかもしれませんが、そうではないと私は思いますよ。

ここでは、確かに「栄養士が訪問看護ステーションに必置かどうか」が聞かれているわけです。ただ、ここで大事なのは、この文章の何に焦点を当てるかです。

「栄養士」ではなく、まず「必置」という制度について考えたいところです。

「必置」、つまり、事業所に資格所持者を置くことを指定要件として義務化するのはなぜですか?その業務において必ず置かなければマズいから、行政は強制しているわけですよ。
しかも、基本的には、昔は行政がやっていたものの多くを、今は市場の原理で、契約制度に基づいて民間が事業としてやっているわけです。すると、市場化しているなら、民間への規制は最低限にとどめなければなりません

「訪問看護ステーション」がやる業務はもちろん訪問看護が主ですね。じゃあ、訪問看護という業務上、栄養士を必置にする、つまりは強制にする必要性ありますか?
ないでしょう。そりゃ、いればいたで都合はいいでしょうけれども、必置とまではできません

ということで×に決まっているのです。

選択肢2 △

五肢択一を解くにあたって最も大事なこと、それは、このような「よくわからない選択肢」を、〇や×という判断を一発で下手にやらないで、△で残しておくことです。

もし、この選択肢を一発で×にできたとしたら、看護師もしくは訪問看護の業界人か、あとは教科書を隅から隅まで読み切って暗記している人ぐらいでしょうね。

素朴にこの選択肢だけを読めば、国家試験問題作成者は「隅から隅まで教科書を読んでこの選択肢に×をつけられるようになってほしい」と思っているんだな、と考える方もいるかもしれません。

それは勘違いです。

なぜなら、この問題は、五肢択一だからです。
五肢択一とは、〇×の一問一答が5つ羅列されているのではありません。
五肢択一には、まず問題文が掲げられます。そして、問題文には必ずタイトルがあります。
国家試験では、そのタイトルを踏まえ、「ソーシャルワーカーになりたいのであれば、これに〇をつけられる人であってほしい!」という選択肢を作ったうえで、それに〇をつけてもらえるように問題の構成上、誘導されているのです。その誘導に気づくための武器、それが「論理(ロジック)」なのです。

おそらくほとんどの人が、この選択肢はわからないと思います。
だったら△で残して、残った選択肢のなかで、国家試験問題作成者はどれに〇をつけさせたいのだろうか、という観点から選べばいいのです。

参考 特定行為研修

ちょっとだけ、この選択肢について、丁寧に読み込むと。訪問看護ステーションの看護師には、看護師資格とは別の研修(特定行為研修)を受けた人を「必置」にしている、ということですよね。これもまた選択肢1と同様の規制です。看護師資格を捨てに持っている人に、「訪問看護」を主たる業務として行うにあたって、別途で研修しなければならない、そんな義務としての何かが思い浮かぶかどうかです。
「訪問看護ステーション」を増やしたい。そんななかで看護師に別途の研修を必須にすれば、確実に「訪問看護ステーション」設置のブレーキになります。
「特定行為研修」で社会福祉上思い浮かぶのは、介護福祉士の「喀痰吸引」の研修になります。「研修を受けた介護福祉士は医療行為としての喀痰吸引を特例でできるようになる」ってやつです。
ただ、その研修を受けた介護福祉士がいなければ訪問介護(介護福祉法)や居宅介護(障害者総合支援法)の事業所を立ち上げられないかというと、ちょっと厳しすぎます。要は、そういう特例的な状況に対応できる介護福祉士がいることはウリにはなっても、必ず必要として民間が事業を起こすことに制限をかけることは、行政の圧迫になるだけでなく、足りていない介護事業の阻害要因になるからです。

選択肢3 ×

これは×をつけたいところです。

訪問看護ステーション」は、病気を治す「病院」とは射程を同じにしつつも、それと異なる射程もあります。高齢者や障害者らが地域で安心して生きていく、そのための資源として作られているのです。

そう言い切れるのはなぜですか?
問題73「地域医療構想」を確認し、その課題として問題74「医師の地域偏在」があることを、国家試験の誘導に乗りながら、私たちは理解したからです。
そのうえでの、この問題75での「訪問看護ステーション」の問いだからです。

医師が足りない地域がわんさとある、そんな地域偏在を課題として抱えている中で、「訪問看護ステーション」の管理者に医師を指定要件の義務としてしまっては、当然ながら訪問看護ステーションも田舎に行けば行くほど足りなくなります。それでは、医師の地域偏在の課題解決にならないのです。

ですから、法律がどうとかで×以前に、問題73問題74を踏まえれば、この選択肢は絶対に×なのです。

ということで。
実際の規定はどうかというと、訪問看護ステーションの管理者は、「保健師、助産師または看護師でなければならない」が正解になります。

選択肢4 〇に近い△

この選択肢も、業界関係者以外では、正確に覚えている人はほとんどいないだろうと思います。なので、△で構いません。

ただし、この問題が問題73、問題74を踏まえたものだという意識で読めれば(言い方を変えると、国家試験の素直な誘導に沿って読めてさえいれば)、医師の地域偏在、そして、病院が地方には足りていない(問題74選択肢5)ことなどを踏まえると、この「機能強化型」なる訪問看護ステーションに、24時間対応の病院と同等の権利を与え、病院と同等の「機能」を果たしてもらおうとしているのではないか、と強い推測ができるはずです。

「機能」については、問題2で解説しました。社会科学において重要な概念です。

「社会『全体』を、誰もが安心できるような、そんな構造にしたい!」、そんな見方が、24時間365日で人々に安心を与えるような役割を与えられてる「病院」に代替する役割を、「訪問看護ステーション」に与えようとするのです。そういう見方によって、病院が足りていいない地域の、特定の訪問看護ステーションに特別な役割が「機能」として与えられ、病院の地域偏在という課題を乗り越えるべく、強化されていくのです。

ということで、この「機能強化型訪問看護ステーション」を知らなくても、〇に近い△で落とし込めるでしょう。

選択肢5 ×

これは、社会福祉の制度を使いこなす専門職たる「ソーシャルワーカー」たるもの、知っておかなければならない、そんな知識として国家試験は出題しています。

訪問介護
65歳以上もしくは40歳~64歳の特定疾病:介護保険の適用
40歳未満:医療保険の適用

ということで、△で残ったのが選択肢2と選択肢4ですね。

そして、選択肢4で解説もしましたが、問題73問題74やそれ以前の問題も含め、地域を強化するというそういうソーシャルワーク上の課題の克服が、まさに今のソーシャルワークに制度の上でも求められているということを確認してきたわけです。
そんななかで、選択肢2と選択肢4、国家試験はどっちを〇とさせたいか、といえば、選択肢4に決まってるんです。

正解 4

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