ソーシャルワークから見た「行政機関の政策評価」

04現代社会と福祉

問題29 「政策評価法」に基づく行政機関の政策評価に関する次の記述のうち、最も適切なものを1つ選びなさい。
1 政策評価の実施に当たり、利害関係者の参加を義務づけている。
2 政策評価の基準として、必要性よりも効率性が重視される。
3 政策評価の方法は、自己評価、利用者評価、プロセス評価により行われる。
4 政策評価の対象となる行政機関は、地方公共団体である。
5 政策評価の目的は、効果的・効率的な行政の推進及び国民への説明責任を全うされるようにすることである。
(注) 「政策評価法」とは、「行政機関が行う政策の評価に関する法律」のことである。

社会福祉士国家試験 第33回(2021年)より解説

この問題も暗記型の受験勉強を前提とするのであれば、「難問」と称されてしまうのでしょうねぇ。実際、「政策評価法」などという法律は、「現代社会と福祉」のどの教科書にも載っていません。(もし、載っている教科書があったらごめんなさい。)教科書に載っていないような法律の問題を出すような、それぐらいの暗記を国家試験が問うている、と思ったら最後、もう国家試験は意地悪にしかみえないでしょうね。

しかし、国家試験はあなた方に無駄に暗記をさせようとしているわけではありません。ソーシャルワークの見方・考え方を、五肢択一という形式を通し、丁寧に伝えようとしているのです。そう信じて、国家試験に向き合えば、この問題は違って見えてくるのです。今日のソーシャルワークの大事な観点を伝えているように見えてくるのです。

そう見えてくるようにするには、そう見えてくるような見方をしなければいけません。その見方とは、丁寧に丁寧に文章を見て読み込む、そういう見方です。すると、見えてきませんか? えっ?見えてこないって? まだまだ甘いですね。(注)までしっかり見ましたか? (注)にこの法律の正式名称が「行政機関が行う政策の評価に関する法律」だって、教えてくれていますよ。

「政策」とはどこが行うのですか? 民ではなくて公です。公には、役割による分類で「司法府/立法府/行政府」の三者に分けられます。政策はその三者のどこがやるのですか?それは、行政府です。

<公の役割による分類:三権分立>
立法府:法律を作る
行政府:法律に沿って政策を行う
司法府:法律に沿って裁判を行う

三権分立って中学でもやりますね。覚えてますか?お互いがお互いをチェックしあうのでしたね。政策の話で言えば、行政が政策の名の下にあまりにも勝手なことをやり過ぎたり、もしくはやらな過ぎたりすれば、立法府は法律に沿わせるという形でチェックできますし、司法府は法律に沿ってやっているかどうかを裁判を通してチェックすることができます。ただし、どちらも「法律を通して」のチェックです。法律は作るのにどうしても時間がかかりますし、日本の裁判も時間がかかることはご存知でしょう。

そこで出てくるのが政策評価という発想です。この発想はいつごろ出てきますか?それは、社会福祉の大きな構造改革と同様に、2000年前後あたりと言っていいでしょうね。

高度経済成長という、国家全体が先進国に追いつき追い越すんだという目標達成のために一体になっていた時代には、法律も政策も裁判も、まぁ、互いにチェックしていたというより、経済優先で三者がなぁーなぁーで進んできちゃったわけです。ところが、そんな高度経済成長を終え、先進国の仲間入りもしたと思いきや、バブルも崩壊し、国家が機能不全を起こしてしまったわけです。すると、行政の政策に求められるのは、高度経済成長のようなイケイケドンドンではなく、その都度、政策を評価しながら、機能不全を起こさないように、国家として進んでいく、そういうあり方です。すると、評価は適宜、時間をかけずに行うような制度が必要になります。立法府や司法府という別の権力にチェックしてもらうのでは時間がかかりすぎてダメなわけです。そこで行政府自らが適宜、行政府自身をチェックする、という発想が必要とされるのです。

とはいえ、行政府自らがチェックするのに行政府が手心を加えて適当なチェックになっては何の意味もありません。そこで、立法府が「政策評価法」という法律を定め、行政府自らが行政府の政策を評価する、その基本的な考え方を指し示した上で、方向付けをおこなっているのです。

これぐらい整理したうえで、各選択肢を見ていきましょう。

選択肢1 ×

これ、何となく読むと「評価なんだから関係者呼ぶのは当然だよ」と思っちゃって、〇にしたくなりますが、丁寧に見てみましょう。選択肢に書いてあるのは「『利害』関係者」ですよ。「利害関係」なるものが入ってきたら、評価の中立・公正は害されますよ。だから、関係者については知りませんが、「利害」関係者の参加うんぬんなんて規定が評価の話で入ってくるはずがないのです。

もう少し説明すると。

行政が「政策」の名の下に行うものに関しては、利害関係が渦巻くところを、社会の安寧・安定のために、行政が敢えて権力的に介入するものがほとんどなわけですよ。道路を作るにしても、いや税金を取るってことにしたってそうです。すると、利害関係者を呼んで、評価するって発想は、行政のやる政策には合わないのです。

選択肢2 ×

先に述べたように、立法府や司法府のチェックでは時間がかかりすぎます。そこで、効率性を考えて、行政府自らが政策を評価する、という発想が取り入れられたわけです。だから、効率性は大事。ですが、でも、行政である以上、政策は必要性があるものでなければなりません。もちろん、その必要性とは社会の安寧・安定のために必要かどうか、という判断です。社会の安寧・安定のためではなく、特定の関係者の利害のためになっていれば、それは行政政策上の必要性ではないのです。ということで、必要性だってないがしろにはできません。よって、行政自らの政策評価において、効率性と必要性、どっちが大事かなどという問いが立つはずがないのです。どっちも大事なんです!

選択肢3 ×

これも、何となく読むと〇をつけたくなりますね。ただ、政策評価とは行政自らが行う評価だということを思い出してください。すると、利用者評価というのはおかしいのです。

なぜかわかりますか?「利用者」とは何を利用するのですか?サービスです。サービスというのは、行政がやるものではありません。では誰がやるのですか?「事業者」がやるのです。事業者は民間がやる場合が主ですが、民間の事業者が足りなければ、行政が直接に事業者としてサービスをやることもありますが、あくまで民間が足りないなどの事情によるのです。行政がやるのは政策です。ですから、行政の政策評価で、利用者評価などという発想はありません。あるとしたら、市民の評価ということになります。

選択肢4 × (×に近い△でもOK)

この選択肢は、問題文や注の情報だけでは、ちょっと難しいかもしれませんね。

行政としての地方公共団体には、司法や立法とは異なる、別のチェック機能があります。それが、選挙です。行政の首長を選挙で市民が選ぶのです。これが選択肢3の解説で挙げた「市民の評価」になります。

これ、国(中央)の行政政策に比べて、効果が絶大なのは、国(中央)と違い、地方公共団体の首長は直接選挙で選ばれるからです。国の行政機関(「地方」と対比する場合、「中央」なんて言い方もしますが)は、首長を直接選挙で選ぶわけではないので、政策に対する市民の評価のチェックが届きにくいとも言われます。そんな背景もあり、この「政策評価法」が対象としているのはあくまで国レベルの行政の政策なんです。

別の考え方として、地方の独立という考え方もあります。首長を直接市民が選ぶような地方公共団体の政策に対して、その評価を国が基礎づけるなんてあり方はやはりマズいんです。なぜなら、地方公共団体は、それぞれの地方の論理で、行政評価を行うべきものなのですから。

このあたりの理屈が何となくわかっていると、この選択肢は確実に×とまではいえなくても、×っぽいなぐらいまではいえるのです。

選択肢5 〇(〇に近い△でもOK)

政策評価なんてことを、わざわざ予算までつけて、なぜやるのでしょう。それは、高度経済成長を終え、先進国になったものの将来が見通せないそんな今の国の有り様に対して、効果的・効率的に行政(の政策)が適切に推進されているのか、そんな不安を抱えているであろう国民への説明責任を国家自らが全うするため、ということになるわけです。

どうでしょうか。

正解 5

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