ソーシャルワークから見た「就労継続支援での対応」

08障害者に対する支援と障害者自立支援制度
今回のポイント
事例問題の解き方で、確実に正解を導く、そのやり方を覚える
・複数の選択肢から優先順位で、1つに絞るプロセスを理解する

問題60 事例を読んで、W就労継続支援A型事業所のH生活支援員(社会福祉士)のこの段階における対応として、最も適切なものを1つ選びなさい。
〔事例〕
Jさん(45歳、男性)は、軽度の知的障害があり、賃貸アパートで一人暮らしをしている。W事業所に通い、そこでの作業を楽しんでいる。ただ、金銭管理が得意ではなく、賃金や年金が支給されるとすぐに使い果たし、ガスや電気を止められ、W事業所への交通費に困ることがあった。そこで、H生活支援員がJさんと面談すると、お金のやりくりに困っているが、興味のあるネットビジネスも始めたいと思っているとのことであった。一方、離れて暮らしている妹からは、将来を考え、ネットビジネスを諦めさせてほしいとの相談があった。
1 ネットビジネスの夢を諦めるように説得する。
2 後見開始の審判の申立てを妹に勧める。
3 日常生活自立支援事業の利用を提案する。
4 共同生活援助(グループホーム)への入居を調整する。
5 W事業所に通うために自治体の移動支援事業の利用を促す。

社会福祉士国家試験 第33回(2021年)より解説

この科目では、かつては、あまり事例問題は出題されなかったのですが、最近は事例問題が定着してきた感じがあります。とはいえ、この科目の事例問題は制度を絡めて問われるものの、そこまで細かい制度は出ません。

ただ、怖いのは事例のイメージが全くつかめない場合です。イメージがつかめないと、たとえ制度を知っていても、とんでもない答えが導かれてしまうことがあります。

ですから、過去問の事例の練習で十分ですので、どんな事例問題でそのケースの大枠のイメージをつかめるようにしておきましょう。

事例問題の解き方については、問題32で確認しましたが、もう一度確認してみましょう。

<確実に正解に導ける事例問題の解き方>
大前提:〇はつけない。選択肢につけるのは×か△のみ。
①まず、100%まちがいといえるものだけに×をつける。
※1%でも可能性があれば残す!
②残った△の選択肢から、優先順位1位の選択肢に〇をつける。
(優先順位は問題文から読み取る)

①100%×の選択肢をみつける⇒1%でも可能性がある選択肢は必ず残す

100%×は? 選択肢1と選択肢5ですかね。

選択肢1 ×

「ネットビジネス」とだけ聞くとつい止めたくなるかもしれませんが、いまやネットを介さないビジネスなんてありません。何をもって「ネットビジネス」と言っているのか、その例示も何もなく、「ネットビジネス」という響きだけで諦めるよう説得するなんて、なんと非科学的な態度か。「いやいや、一般にネットビジネスと言えば」の「一般に」はダメ。事例問題は、事例の内側が全ての世界。外から「一般」なる概念を持ち出して、そんなもんで否定するのが事例問題で最もやってはいけないこと。あくまで事例の内だけで勝負

選択肢5 ×

「W事業所への交通費に困る」ことの対策として、「移動支援(=ガイドヘルプ)を使う」ことって何がどう関係するのですか?

「知的障害者の困りごと」=「支援者が四六時中監視しなければならない」って勘違いしていませんか?

何が問題化を見定めて提案をしなければ、「知的障害者はやっぱり入所」って安易な話になりかねませんよ。彼は移動に困っているのではなく交通費に困っているのだから、「移動支援」はおかしいですねぇ。

②残った選択肢から優先順位で最も優先度が高いものを選ぶ

⇒優先順位の条件の基本「事例の、今この時点で、一番早くやるべきこと」
(この条件でうまくいかない場合のみ、適切な条件を見つけだす)

「知的障害者は『問題があれば入所させよう』」っていう安易な判断は明らかにおかしい、ということは誰でも思うはずです。
ただ、プロセスを踏んでいきながら、その選択肢の一つとして「グループホーム」や「入所施設」って話は、絶対ダメとまでは言えません。昔のように入所施設に入ったら一生涯そこで集団生活って時代では、今はもうないですしね。グループホームは入所施設ほどハードルが高いものでもなく、金銭管理を世話人に手伝ってもらいながら、自分なりの地域生活を実現してる、そんな知的障害者なんていくらでもいますし、ぜんぜんある話です。
だから、選択肢4は100%×とまではいえません

選択肢2の後見人の話もそうです。
プロセスふんでいって、金銭管理でいろいろ対策練ったけど、どうにもこうにもにっちもさっちもいかなくて、というのであれば、後見という発想もありえるでしょうね。
ただ、どちらにしてもプロセスを踏んだ上での選択でなければなりません

独り暮らしの生活ができている段階で「日常の金銭管理上の問題がある」というのであれば、選択肢3「日常生活自立支援事業の利用を提案」という選択をしてみて、それでうまくいかなければ、選択肢2や選択肢4ということになるでしょうね。

ただし、今の段階で、選択肢3よりそれら選択肢が優先するような状況とまでは言えません。よって、優先順位により、選択肢3が正解

正解 3

【お勧め関連本】
障害者の就労関連の本も、この業界の拡大とともに増えてはいますが、宣伝的なものが多く、障害者の就労そのものの背後にある思想や考え方・歴史含め、いい感じにまとまった本はそれほどありません。この本は新書で手にも取りやすく、筆者の藤井さんはずーっと就労を巡り戦ってこられた方ですので、障害関係で就労を語るならこれぐらいはお読みになることをお勧めします。

 

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