ソーシャルワークから見た「成年後見関係事件の概況」

11権利擁護と成年後見制度
今回のポイント
注を読んで文章を理解し、正解を導く、そのやり方を覚える
・成年後見関係に親族以外ではどんな資格が関わっているのか、覚える

問題83 「成年後見関係事件の概況(平成31年1月~令和元年12月)」(最高裁判所事務総局家庭局)に関する次の記述のうち、正しいものを1つ選びなさい。
1 「成年後見関係事件」の「終局事件」において、主な申立ての動機として最も多いのは、預貯金等の管理・解約であった。
2 「成年後見関係事件」の「終局事件」において、市区町村長が申立人となったものの割合は、全体の約5割であった。
3 後見開始、保佐開始、補助開始事件のうち「認容で終局した事件」において、親族以外の成年後見人等の選任では、社会福祉士が最も多い。
4 「成年後見関係事件」のうち「認容で終局した事件」において、開始原因として最も多いのは、統合失調症であった。
5 「成年後見関係事件」の申立件数に占める保佐開始の審判の割合は、全体の約7割であった。
(注)1 「成年後見関係事件」とは、後見開始、保佐開始、補助開始及び任意後見監督人選任事件をいう。
2 「終局事件」とは、認容、却下、その他(取下げ、本人死亡等による当然終了、移送など)によって終局した事件のことである。
3 「認容で終局した事件」とは、申立ての趣旨を認めて、後見開始、保佐開始、補助開始又は任意後見監督人選任をする旨の審判をした事件のことである。

社会福祉士国家試験 第33回(2021年)より解説

「成年後見関係事件の概況」の報告書自体はネットにもUPされています。ざっとみておいてもいいかもしれません。というのも、この概況は、第30回問題81、第31回問題80とここ3年で頻出になっているからです。

ただし、もちろん、ここまで問題1から私の解説を読んできてくださった方ならわかるように、国家試験では、この報告書を実際に読んでいなくても、ソーシャルワークの見方と最低限の知識さえあれば解けるように問題が構成されているはずなのです。

ただし、その分、問題の中にヒントがあらゆる形を使ってちりばめられていて、そのヒントに的確に気づけるかどうか、そこがこの問題を正解に導くためにはとても大事なところです。

特に、(注)を適当に読み流す人が少なくありませんが、(注)はヒントになっている場合が多いですから、(注)まで含めしっかり読み込めるかどうかが、勝負の分かれ目だったりします。

選択肢1 〇

この問題のポイントは、この選択肢1に即〇をつけられる程度に、問題文を(注)まで含め丁寧に読み込めるかどうか、そこに尽きます。
問題文を丁寧に読み込んで、文章の意味を理解できさえすれば、ほとんどの人がこの選択肢に〇をすぐにつけられるのです。

この選択肢に即〇をつけられなかった人は、まだまだ問題の読み込みが甘いのです。

その意味で、この問題は良い試金石です。
この問題が解けなかったならば、「自分は国家試験の問題作成者の意図やその特徴がまだまだ分かっていない」と思って、もっともっと過去問に丁寧に向き合っていくことをお勧めします。

では、選択肢1の、このたった一文を、あらゆる論理を駆使し、正確に理解すること、そこに徹底してこだわって解説してみましょう。ポイントは2つ

1 「成年後見関係事件」の「終局事件」において、主な申立ての動機して最も多いのは、預貯金等の管理・解約であった。

まずは「申立て」からいきましょうか。
この文章に出てくる「申立て」ってなんですか?
誰に対する申立てですか?
「権利擁護と成年後見制度」の問題をここまで6問も解いているのだから、もちろん「家庭裁判所への申立てだな」とは分かるはずです。成年後見関係ですから、例えば、「成年後見人を立てるために家庭裁判所にその判断をしてもらう、そのために申立てをする」なんてのが一例ですね。

では、「『成年後見関係事件』の『終局事件』」って何ですか?

この選択肢は、この冒頭の単語だけで、多くの人が頭を抱えだします。
その結果、「わからない単語」が出てきたら、すっ飛ばして読み流して、さらに、「わからない単語」が出てきた選択肢を「無きもの」にして処理し、それ以外の、自分が文章を理解できるものから〇をつけようとする、という変な癖を持っている人が少なくありません。

これ、国家試験に向き合うに当たって絶対にやってはならない態度です。

「成年後見関係事件」の「終局事件」なる文字を見て、ちょっと考えてみてくださいよ。
ソーシャルワークからズレた表現(=とはいえ、法曹界では当たり前の表現)なのだから、何かヒントがあるはず(だってこの試験はソーシャルワークの試験だから)と考えてください。
そもそも、カギカッコに入っている用語は必ず注があるのです。
じゃあ、注を丁寧にみてみましょうよ。

(注)1 「成年後見関係事件」とは、後見開始、保佐開始、補助開始及び任意後見監督人選任事件をいう。
(注)2 「終局事件」とは、認容、却下、その他(取下げ、本人死亡等による当然終了、移送など)によって終局した事件のことである。
おそらく、これでもよくわからない人いると思います。
なぜなら、司法(=法曹界)の用語で説明がなされているからです。司法の用語に慣れていないと、さらに頭を抱えてしまうかもしれません。注2の司法用語満載の説明なんかはさらにね。だって、「終局」の意味だってわからないのに、「終局した事件」では説明になっていないように思えるから。
ただし!
そんなことは、国家試験問題作成者のほうが十分にわかっているのです。
だから、国家試験はそんなことを見越して、さらなるヒントをくれているのです。
それが、一見すると選択肢3の注になっているように見えて、実は注1と注2の補足になっている、そんな注3です。
(注)3 「認容で終局した事件」とは、申立ての趣旨を認めて、後見開始、保佐開始、補助開始又は任意後見監督人選任をする旨の審判をした事件のことである。
ここで「終局した事件」に「~旨の審判をした事件のこと」と書いてあるので、「終局」とは「家庭裁判所が審判することだ」ということがわかります。
すると選択肢1は次のように読みかえられます。
成年後見関係で、家庭裁判所が何らかの審判を下したケースのなかで、一番多い理由は「預貯金等の管理・解約」である

「動機付け」を、わかりやすいように、「理由」と変えてみました。いかがですか。

つまり、家庭裁判所の判断で、成年後見人をつけるときにしても、成年後見人を解任するにしても、家庭裁判所が判断したならば、すべてが「終局事件」ってことなんです。

だから、この問題は「成年後見関係で家庭裁判所に判断を求めるために申立をする、その理由で一番多いのは何?」って聞いている、それだけなんです。

すると、成年後見関係の対象として、認知症の高齢者や知的障害者、精神障害者などが頭に浮かぶでしょう。これらの人が、支援の必要性から成年後見関係を申し立てますか?
支援が必要なら、社会福祉関係の制度の利用を行政に申請するわけじゃないですか。でしょ。じゃあ、これらの人に関わる際に、成年後見制度を申し立てるのはどういうときですか?
もちろん、お金が絡むときですよ。それがほとんどに決まってます。
すると、もうこの選択肢1が即〇でおしまい。あとの選択肢なんてざっと見るだけでいいのです。
この程度の最低限の成年後見のイメージを持ちつつも、この問題を間違えてしまう人には、二つの理由が考えられます。

1つは、そもそも丁寧に問題文を読んでいないこと。

もう1つは、この問題が最終問題であるという事情によります。
この問題は社会福祉士・精神保健福祉士の共通科目の最後の問題です。83問目。そんな最後の問題に、ほぼ時間を残さずギリギリでこの問題にたどり着いた人は、丁寧に問題文の文章を読めない(=読む時間がない)のです。
すると、さっと読んで何となくわかる選択肢だけで勝負したくなるんです。

それを避けるためには、五肢択一83問を2時間15分きっちりではなく、2時間から2時間5分程度で解く、そのペースを知る必要があります。
そのペースは、実際に模試などで試してみないと分かりにくいと思います。
自宅で過去問題を解いてペースを計ってみたところで、どうせ自宅で寝ながら時間に左右されることなく解くわけじゃないですか。
そんなペースは当てになりません。

ですから、国家試験を受けると決めたならば、本番と同様の時間で、自宅ではなく会場で受けられる模試を受けて、自分の解くペースがあっているかどうか確認することを強く勧めます。

選択肢2 ×

選択肢1で丁寧に詰めたことからもうおわかりのように、「成年後見関係事件」の「終局事件」とは、後見/保佐/補助/任意後見、その辺で後見人とかつけるだの、解任するだの、それらの判断を家裁がするってことでしたね。

家裁がそういう判断をするっていうことは、その判断を家裁に求める人(=申立人)がいるってことになりますね。その申立人って、どんな人というイメージがわきますか。

成年後見制度はお金が絡む話でつけることがほとんどってわかれば、高齢者の子どもが申請するってイメージ、まず浮かびますよね。次に、後見以外、つまり保佐/補助/任意後見の段階であれば、まだ本人が判断能力があるから、自分の財産のことを考え、本人から申請ってこともイメージできます。あとは、身寄りがない独居の高齢者が増えていることなどを知っていれば、市区町村長が申立人となるイメージもわくでしょう。

そのなかで、市町村長の申請が半分以上だって、この選択肢は言ってるわけですが。んー。どう思いますか?

このあたりのことを考えるヒントとして、この「権利擁護と成年後見制度」の最初の問題77、財産権がつながってきます。財産権は、市民に認められた自由権の中核なんですよ。だとすると、その財産権について、判断能力が不十分になった後の取扱いについて、市町村仕切りでやるって発想はできる限りさけたいわけですよ。だから、何でもかんでも市町村が申立人になるって発想はありません。ただ高齢者の単独世帯が増えている結果、市町村が申立人にならざるを得ないケースは増えています。増えてはいるけど、半数以上が市町村っていうのは多すぎない?っていうのが、私の素朴な印象です。

そして、実際上でも、申立人は、現状では、本人の子/本人/行政で、だいたい2割前後で並んでいるようですね。私のイメージと現状はほぼ合ってる印象です。

選択肢3 ×

「認容で終局した事件」、これは注にあるように、家裁の判断で成年後見人、保佐人、補助人がついたっていう事例なわけですよね。じゃあ、これらは親族以外では社会福祉士が一番多いかっていうと、これは知識として絶対に知っておかなければいけません。

後見人・保佐人・補助人に親族以外がなる場合
司法書士 > 弁護士 > 社会福祉士

選択肢4 ×

「成年後見関係事件」のうち「認容で終局した事件」、つまり後見人/保佐人/補助人がつくことになった、そんな原因として最も多いのは?

これもイメージでわく主なものを上げてみると。
ただ、これ、選択肢1ですでに上げてます。認知症の高齢者、知的障害者、精神障害者、このあたりですねぇ。

そして、成年後見関係は財産関係によるものがほとんどなのですから、やはり多くは(統合失調症を含む精神障害関係ではなく)認知症等の高齢者になるだろうということは容易に想像がつくはずです。

選択肢5 ×

この選択肢で聞いているのは、「成年後見関係事件」の申立件数は、後見/保佐/補助で、どれが多いかってことですよ。

財産上のことで、誰かが間に入らないといけなくなるって判断されることって、結局は判断能力に欠けるような、それぐらいの段階にならないと、まぁ、何となく曖昧にやり過ごされたりしちゃうわけです。いや、日本で成年後見制度がもっともっと広く使われるような、そんな時代になれば、後見/保佐/補助が三分の一ずつなんて時代も来るのかもしれませんが、まだまだ日本では成年後見制度は広がっていないって、そういう意識はソーシャルワークを学ぶ皆さんにもあるでしょう。

だとすると、結局は後見段階ぐらいになって初めて申立てることが多いだろうなと推測が着くはずです。ということで、現状は、後見が7割強、保佐2割弱、補助5%程度のようで、やはり後見が圧倒的な割合ですね。

正解 5

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