ソーシャルワークから見た「障害(身体障害)」

01人体の構造と機能及び疾病
今回のポイント
「障害」の定義を政策との関係から再考する。
「機能障害」という表現の射程について知る最

問題5 障害に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 後天性免疫不全症候群による免疫機能障害は,内部障害に該当しない。
2 「難病法」で定められた指定難病患者の全てに,身体障害者手帳が交付される。
3 外傷性脳損傷による注意力の低下は,高次脳機能障害の症状の一つである。
4 一つの疾患から,複数の身体機能の障害を来すことはない。
5 糖尿病による視覚障害では,身体障害者手帳を取得できない。
(注) 「難病法」とは,「難病の患者に対する医療等に関する法律」のことである。

社会福祉士(精神保健福祉士)国家試験第33回(2021年)より解説

問題のタイトルが「障害」とだけあったり、(注)には「難病法」が載っていたりするため、「障害と難病の両者の制度上の関係」についての問題かのように思えてしまいますが、そうではないですよ。ここで、私はタイトルを「障害(身体障害)」としたように、じつは「政策上の」身体障害者の定義を聞いているんです。もっというと、ここで聞いているのは身体障害者福祉法における身体障害者の定義です。なぜなら、選択肢にある「内部障害」「障害者手帳」「身体の機能障害」といったワードは、身体障害者福祉法における身体障害の定義に関わる専門用語だからです。

参考 身体障害者福祉法第4条「身体障害者の定義」 
この法律において、「身体障害者」とは、別表に掲げる身体上の障害がある十八歳以上の者であつて、都道府県知事から身体障害者手帳の交付を受けたものをいう。

論理でここまで追い込んだ上で、選択肢を1つ1つ丁寧に見ていきましょう。

選択肢1 × (△でも「×に近い△」にしたい)

この選択肢の文は、私から見ると論理的にはまずいかなぁと思うところがあります。内部障害という用語についてです。内部障害だけだと、いまだと一般用語としても使われている印象もありますから、「内部障害」とカギカッコをつけて、注で「内部障害とは、身体障害者福祉法でいうところのものである」的なことを書いておいたほうが丁寧かな、とは思いますね。

なぜなら、ここでいう内部障害が身体障害者福祉法でいう内部障害でなければ、この問題は解釈の余地がでてきてしまうからです。すると、問題文には「『正しい』もの」を選べ、と書いていますけど、正しいものを1つに限定できなくなってしまうからです。国家試験の問題文での「正しい」とは解釈の余地がない、ということです。だから、「内部障害」は限定をつけないとまずいような気が私はしますね。

さて、「後天性免疫不全症候群」という言い方ですが、「エイズ」という用語のほうが一般的に知られていますかね。ただ、「エイズ」だけだと、「ヒト免疫不全ウイルス(HIV)」のことをさす場合もあり、解釈の余地が出てしまう。それじゃあ「正しいもの」を1つ選べ、という問題の形式に対応できないんです。だから、「後天性免疫不全症候群」っていう用語を使っている。これは、「ヒト免疫不全ウイルス(HIV)の感染が適切に治療されず免疫機能が低下した結果として、ウイルス感染症や悪性腫瘍が起こった状態」のことをさします。その状態であるがゆえの「免疫機能障害」について選択肢1では問われています。

じゃあ、「後天性免疫不全『症候群』」と「免疫『機能障害』」はどう違いますか?

日本語の文法は最後に結論がきます。すると、この二つの違いは「症候群」と「機能障害」の違いになります。ただし、この二つの違いは、私たちにとっては、あくまでこの問題を解くためだけに、この二つの違いを説明すればいいのであって、科学的にどうこうなどということまで知る必要はありません。すると、「症候群」は状態を指し示す総称であるのに対して、「機能障害」とは身体障害者福祉法上では、別表に載っている5つの障害の共通点が「機能障害」だと言えます。つまり、この選択肢は、「後天性免疫不全症候群という状態のなかの免疫部分の機能障害は、身体障害者福祉法で認める機能障害に当てはまるかどうか」という問題に言い換え可能です。(ここでいう「機能障害」の概念的な意味は、国連のICIDHやICFといったモデルで出てきた考え方としても押さえておかなければなりませんが、それはまたの機会に。)

さて、身体障害者福祉法の別表では、機能障害を①視覚障害②聴覚又は平衡機能の障害③音声機能、言語機能又はそしゃく機能の障害④肢体不自由⑤心臓、じん臓又は呼吸器の機能の障害その他政令で定める障害(=内部障害)の5つに分けています。この⑤内部障害が今回狙われたわけです。

では、内部障害についてはどう定義されていますか?①心臓機能障害②腎臓機能障害③呼吸器機能障害④膀胱・直腸機能障害⑤小腸機能障害⑥後天性免疫不全症候群による免疫機能障害⑦肝臓機能障害

内部障害は1949年の身体障害者福祉法成立当初には手帳所持が認められていませんでしたが、1967年に心臓機能障害が認められたのち、だんだん拡大されていったという歴史的背景ぐらいは知っておいていいかもしれません。そして、最近認められたのが、1998年の⑥後天性免疫不全症候群による免疫機能障害、そして2010年の⑦肝臓機能障害、ということになります。

ここまで知識として知っている人はなかなかいないかと思いますが、もし、これが〇だとすると、「『後天性免疫不全症候群による免疫機能障害』を『身体障害』とは認めない!」ということに、国家試験が受験生に意識的に〇をつけさせようとしている、ということになるわけです。そんな意図というか、意義ってありますか?障害という概念が拡大してる、特に2000年前後から、そんな背景の中で「エイズによる免疫機能障害を身体障害とは認めない!」と「国家」試験が言っちゃう、そんなことは今という時代背景から考えても考えられないわけです。だから、細かい知識がわからないから△で落とし込んだとしても、×に近い△ぐらいにはして、次の選択肢へ進みましょう。

選択肢2 ×

「難病」について細かいことまで知らなくても、制度の狭間にあるものだってことぐらいは知っているでしょう。制度の狭間って何ですか?これって制度にすぱっと全部のっかることがない、そういう制度がない。それが制度の狭間ってことでしょう。もし1949年成立の身体障害者福祉法に「難病」の全てがのっかるのであれば、制度の狭間ではなく、まして難病対策としての「難病法」を、上述した2000年前後の転換期以後に作る必要もないじゃないですか。ちなみに「難病法」は2014年制定です。つい最近なんですよ。難病法については細かいことはでませんが、少なくともここ10年以内にできた法律だってことぐらいは知っておいてください。

選択肢3 〇 (知らない場合には△でもよし)

私は学校の授業では、高次脳機能障害について、交通事故後の事例なんかとあわせて原因不明であることを強調して教えています。すると、その観点だけでこの選択肢を判断すると、迷う、もしくは×をつけてしまうかもしれませんね。

実は、「高次脳機能障害」については行政施策上の明確な定義はありません。なぜなら、難病同様、制度の狭間にあり、さらに難病とは異なり対象とする法律すら未だにないからです。ただ、平成13年度から「高次脳機能障害支援モデル事業」というのをやってはいて、このモデル事業ふまえて、厳密な定義とまではいえないものの、厚生労働省が言及している文章はあります。

「『高次脳機能障害』という用語は、学術用語としては、脳損傷に起因する認知障害全般を指し、 この中にはいわゆる巣症状としての失語・失行・失認のほか記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害などが含まれる。一方、平成13年度に開始された高次脳機能障害支援モデル事業において集積された脳損傷者のデータを慎重に分析した結果、 ・・・略・・・早急な検討が必要なことが明らかとなった。そこでこれらの者への支援対策を推進する観点から、行政的に、この一群が示す認知障害を『高次脳機能障害』と呼び、 この障害を有する者を『高次脳機能障害者』と呼ぶことが適当である。」厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部国立障害者リハビリテーションセンター

「支援」という用語は、行政的には社会福祉施策で使われる行政用語になります。よって、明確な定義は避けつつ、厚生労働省が「高次脳機能障害者に対して社会福祉の枠組みを使って支援をしていこう」という方向性をうちだしている、ということはわかるでしょう。だから、社会福祉士の試験で「高次脳機能障害」が近年狙われているわけです。

学術用語としては「脳損傷に起因する認知障害全般」だと書いてあります。「脳損傷」とは選択肢にある「外傷性脳損傷」とイコールと考えていいでしょう。(内側から損傷を帯びるということは理屈上ちょっと考えにくいから。)その典型が、交通事故などの外部からの衝撃によって脳にダメージを受けることです。「認『知』障害」とはかなり幅広い意味で使われていて、脳に由来する「知」的な判断に関わるもの全般ぐらいの意味合いです。「注意力の低下」も、もちろん、ここでいう「認知障害」に入ります。

厚生労働省が「高次脳機能障害」について、方向を指し示して社会福祉の対象としようとしている以上は、法的根拠がないとしても、ソーシャルワーカー(=ジェネラリスト)として「高次脳機能障害」について、これぐらいのことは知っておいてほしいかな、というのが国家試験問題作成者の想いといえるでしょう。

選択肢4 ×

これは即×ですね。この選択肢の「~ない」という文末は、断言による否定ですから、一例でも、例外があればこの選択肢は×になります。「脳性麻痺」などを考えてもわかるかと思いますが、その麻痺が脳のどの部位かによって異なるものの、身体機能の障害が重複する例はいくらでもあります。

この選択肢で気になる人(=深読みしてわからなくなる人)がいるとしたら、「身体機能の障害」ってどこまでいうのか?ということでしょうかね。ここでいう「身体機能の障害」は上述のような問題構成を考えても、身体障害者福祉法の別表にかかげられた5つと見るのが妥当でしょうね。すると、脳性麻痺により、身体的な不自由さを抱えつつ、同時に、発話が聞き取りにくい方に出会ったことはありませんか。それは、③音声機能、言語機能又はそしやく機能の障害と④肢体不自由の2つが重複している、ということになります。

選択肢5 ×

近年の傾向として、高齢者で身体障害者手帳を取る人が急速に増えています。それは、近年の高齢者の身体が障害を負いやすいのではありません。昔から、老化に伴い身体障害者福祉法の別表の条件は満たしやすいのです。ただ、昔はとらなかったのです。なぜなら、必要がないから。二世代同居、三世代同居が当たり前の時代、ましてや障害者差別も今以上にあった時代において、介護は嫁がするもの、息子がするものであり、身体障害者手帳の取得条件を満たしたからといっても「高齢になったからといって障害者扱いするな!」といわれたものです。ところが、今は二世代同居どころか、夫婦での老老介護どころか、独居老人も増えました。すると、使える制度は何でも使おうという意識(=権利意識)が拡大しています。そこで、高齢者が昔に比べて積極的に身体障害者手帳を取得するようになったのです。

ただし、これには前提条件が必要です。身体障害者手帳の取得に際して、原因を問わないことです。原因を問わず、機能障害だけで判断するからこそ、老化に伴って身体障害者手帳を取得しやすくなる。

これは障害の科目でよく問われる問題ですが、この点さえわかっていれば、「糖尿病」という原因による視覚障害では身体障害者手帳を取得できないわけがないのです。

ということで、選択肢3に〇をつけられなかったとしても、選択肢1,2,4,5が×ですから、正解は選択肢3ということになります。

正解 3

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