ソーシャルワークから見た「任意後見制度」

11権利擁護と成年後見制度
今回のポイント
「任意後見」と「後見、保佐、補助」の違いを知る
「後見」と「補佐、補助、任意後見」の違いを知る

問題82 任意後見制度に関する次の記述のうち、正しいものを1つ選びなさい。
1 任意後見契約に関する証書の作成後、公証人は家庭裁判所に任意後見契約の届出をしなければならない。
2 本人は、任意後見監督人選任の請求を家庭裁判所に行うことはできない。
3 任意後見契約では、代理権目録に記載された代理権が付与される。
4 任意後見監督人が選任される前において、任意後見受任者は、家庭裁判所の許可を得て任意後見契約を解除することができる。
5 任意後見監督人が選任された後において、本人が後見開始の審判を受けたとしても、任意後見契約は継続される。

社会福祉士国家試験 第33回(2021年)より解説

問題81の選択肢5で任意後見について、ちらっと出てきました。
それを引き継いでの、問題82では任意後見制度そのものについて単独問題で出題されています。

成年後見制度というと、つい後見/保佐/補助だけで整理してしまいがちですが、任意後見もセットで押さえたい所です。
というのも、国家試験単独でも第30回問題79など、出題頻度は低くないからです。
また、この4つはつながっているので、4つでワンセットで押さえたほうが整理がしやすいのです。

第33回問題79 任意後見契約に関する次の記述のうち、最も適切なものを1つ選びなさい。
1 任意後見契約は、任意後見契約の締結によって直ちに効力が生じる。
2 任意後見契約の締結は、法務局において行う必要がある。
3 任意後見契約の解除は、任意後見監督人の選任後も、公証人の認証を受けた書面によってできる。
4 任意後見人と本人との利益が相反する場合は、特別代理人を選任する必要がある。
⑤ 任意後見人の配偶者であることは、任意後見監督人の欠格事由に相当する。

第30回問題79は、任意後見監督人の話ですね。

問題81で「成年後見監督人」とは「後見人の後見事務の監督」であることを確認しましたが、そもそも監督人はいらない場合には付けないのです。
「監督する人がいたほうがいいな」と判断されたらつくのです。
誰が判断するのですか?
もちろん、家庭裁判所です。

じゃあ、どのような場合に「監督する人をつけたほうがいいな」と判断するのですか。それは後見なりをつけたとしても、トラブルになりかねないな、と思った場合につけるのです。トラブルになったときに、トラブルを回避するためには、家族じゃますますこじれることが多いわけじゃないですか。

もしくは、後見には親族が関わる時が多いのですが、親族は法制度を知りませんから、後見をするにしてもサポートが必要だなと思った時などは、制度に詳しい者が監督として必要になりますよね。

だから、任意後見監督人には本人の家族(正確には、配偶者、直系血族及び兄弟姉妹)がなれちゃダメでしょう。

ということで、第30回問題79は5が正解になるわけです。

さて、それを踏まえて、第33回問題82を解いていきましょう。

選択肢1 ×

監督人がつくのは後見周辺のことはトラブルになりやすいからだ、と先に書きました。

基本的には、そのトラブルに第三者的にかかわり判断するのが家庭裁判所なのですが、一方で裁判所を通すのは時間や労力がかかるというデメリットがあるので、トラブルになりやすいと判断した家庭裁判所は家庭裁判所の代わりのような役目を果たす監督人をつける場合があるわけです。

これらの前提として、後見周辺でトラブルになりやすいのは、その前提として、本人の判断能力が十分でなかったり(後見)、著しく不十分だったり(保佐)、不十分だったり(補助)するからです。だから、第三者としての家庭裁判所が、契約の段階から関わることになるわけです。

ところが、任意後見は、本人の判断能力が十分な段階での契約です。つまり、判断能力が十分ではなくなった場合に備えて、代理できる行為をあらかじめ定めて契約しておくわけです。だとするならば、契約行為について何ら第三者が関わる必要がない、もしくは下手に関わっては、市民の持つ自由権の根本でもある「契約の自由」に規制をかけることになります

だから、(契約を結んだこと自体で揉めないように)決まった書式で公正証書にする必要はありますが、家庭裁判所にチェックしてもらうような必要は全くないどころか、そんなことがあってはならないのです。

任意後見契約に関する法律 第3条
任意後見契約は、法務省令で定める様式の公正証書によってしなければならない。

選択肢2 ×

任意後見はあらかじめ判断能力がある段階で契約をしておくのですが、その後「トラブルになりかねない」、もしくは「任意後見人へのサポートが必要だ」と思ったら、監督人を立てます。

ただ、それを家庭裁判所に申請するのは本人でもできるか、というと可能です。

任意後見の契約そのものは、本人の自由意志に基づいて自由に契約しており、代理権等を任意後見人に行ってもらうのですから、本人の判断能力が不十分になったとしても、判断能力がある以上は本人の申請は有効にきまっています。

ときどき、「判断能力が不十分」という表現を「判断能力がない」と同等にみなす人がいますが、違いますよ。

「判断能力が不十分(=事理を弁識する能力が不十分)」とは、「判断能力があるんだ!」と見なしてくださいね。その判断能力」を生かすために、任意後見人や補助人や保佐人が必要な部分をあらかじめ定めて、その範囲でサポート(=代理)する、そんなイメージです。

一方で。

成年被後見人になると「判断能力に欠く」という表現になります。この状態だと、「判断能力」を生かす、という発想ではなく、足りない部分を補えるような制度設計にする、ということになるのです。だから、成年後見人には成年被後見人に対する代理権や取消権が初めから与えられているのです。

任意後見に関する法律 第4条
任意後見契約が登記されている場合において、精神上の障害により本人の事理を弁識する能力が不十分な状況にあるときは家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族又は任意後見受任者の請求により、任意後見監督人を選任する。

選択肢3 〇

選択肢2で説明したように、任意後見や補助、保佐の場合には、まだ判断能力があることを前提にします。すると、その「判断能力」を生かすために、任意後見人や補助人や保佐人が必要な部分をあらかじめ定めて、その範囲でサポート(=代理)なわけです。

ですから、任意後見契約では、あらかじめ代理するものを定めて、それを代理権目録に記載して、その範囲内での代理権が家裁から付与される、という発想になるのです。

第3条

選択肢4 ×

任意後見監督人が選任される前ということは、まだ本人に判断能力が十分にある状態です。すると、その段階での契約やその解除に関して、家庭裁判所が入らないとできない、ということは「契約の自由」の否定になります。

ですから、そんなことはあってはならないのです。

任意後見に関する法律 第9条
第四条第一項の規定により任意後見監督人が選任される前においては本人又は任意後見受任者は、いつでも、公証人の認証を受けた書面によって、任意後見契約を解除することができる

選択肢5 ×

選択肢2や選択肢3で説明した通り、「任意後見/補助/保佐」と「後見」では、ある基準ではっきり分かれるんです。
それは「判断能力のあり/なし」であり、それは「判断能力をサポートする」という発想と、「大枠をサポートしていく」という発想の違いになります。
つまり、考え方が大きく異なるのです。

ですから、任意後見契約は保佐や補助の段階まではその有効性は言えても、後見段階では有効とは言えず、別の発想で、新たな仕組みで支えていく必要があるのです。

だから、任意後見契約は本人が家庭裁判所から後見開始の審判を受けた段階で終了になります。

任意後見に関する法律 第10条第3項
第四条第一項の規定により任意後見監督人が選任された後において本人が後見開始の審判等を受けたときは、任意後見契約は終了する。

正解 3

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