・「障害者虐待防止法」の前提となる発想を知る
・社会調査の結果が現実そのものではないことを知る
問題62 「障害者虐待防止法」及び「平成30年度障害者虐待対応状況調査」(厚生労働省)に関する次の記述のうち、正しいものを1つ選びなさい。
1 養護者による虐待を受けたと思われる障害者を発見した者は、速やかに、これを都道府県に通報する義務がある。
2 障害者虐待とは、養護者による障害者虐待と障害者福祉施設従事者等による障害者虐待の2類型をいうと定義されている。
3 養護者による障害者虐待は、身体的虐待、性的虐待、心理的虐待、放置など養護を怠ること、の4種類であると定義されている。
4 障害者福祉施設従事者等により虐待を受けた者の障害種別は、知的障害が最も多い。
5 障害者福祉施設従事者等による虐待行為の類型は、性的虐待が最も多い。
(注)1 「障害者虐待防止法」とは、「障害者虐待の防止、障害者の養護者に対する支援等に関する法律」のことである。
2 「平成30年度障害者虐待対応状況調査」とは、「平成30年度『障害者虐待の防止、障害者の養護者に対する支援等に関する法律』に基づく対応状況等に関する調査結果報告書」のことである。社会福祉士国家試験 第33回(2021年)より
障害者虐待対応状況調査は、第27回問題62に平成24年度調査結果が出されています。当時としては、障害者虐待防止法が施行されてすぐの調査結果を踏まえた問題でした。
一方で、そこから6年経った今回は、「障害者虐待防止法」の知識と絡めて内容的にかなり基本的なものになっていますね。
選択肢1 ×
第29回問題62選択肢1とかぶる選択肢ですね。
第29回問題62 事例を読んで,この時点におけるP市障害者虐待防止センターの対応として,最も適切なものを1つ選びなさい。
〔事例〕略
1 Gさんへの父親からの虐待に関する通報があったことを,都道府県に報告する。
障害者虐待防止法が対象とする虐待3種類と、それぞれの担当を整理してみましょう。
①養護者(親や兄弟など)
→市町村(最も身近な基礎自治体だから)
②施設従事者(障害者が利用する施設職員)
→都道府県(施設の指定権限があるから)
③使用者(障害者が一般就労する企業の雇用主や上司など)
→労働局(労働名目で企業に指導できる権限があるから)
担当にはそれ相応の理由があります。理屈さえ分かれば覚えやすいと思います。
選択肢にある養護者による虐待は市町村が担当ゆえ、都道府県への通報義務はありません。
選択肢2 ×
選択肢1の解説にも書きましたが、この法律上でいう障害者虐待とは、①養護者による虐待、②障害者施設従事者による虐待、③使用者による虐待、以上3類型のみです。
そうではありません。そもそもの「障害者虐待防止法」の射程がわかっていないと、そういう疑問が生じます。
まずもって、虐待によって、傷害等が生じたのであれば、その加害者が誰であろうが刑法によって罰が与えられますし、その傷害等に見合うだけの賠償が民法等で民事的に請求されます。ペナルティが課されたり、保障を求めたり、という点では、この3つに限定されるなんてことはないのです。
障害者虐待を3つだけに限定をかけているのは、これが障害者虐待「防止」法であり、障害者虐待「全般」をいかに「防止」し「減らしていく」か、そこに焦点化している法律だからです。そもそも加害者にペナルティを与える法律じゃないんです。
それが証拠に、この法律の正式名称を見てください?
え?知らない?
いや、知らなくても、わかってるはずなんですよ。だって、この問題の(注)に書いてあるじゃないですか。
そうなんです、国家試験は(注)もヒントになることが多いんです。
「障害者虐待の防止、障害者の養護者に対する支援等に関する法律」というこの正式名称に、
障害者の虐待防止のためには、養護者への支援という観点も含めて考えていかないといけないんだ、
って発想(=この法律の射程)がしっかり書いてあるじゃないですか。
ですので、加害者にペナルティを課すような発想はそもそもないんです。
選択肢3 ×
法律上の虐待の定義は覚えていますか。問題57で解説しましたよ。
①身体的虐待②心理的虐待③性的虐待④ネグレクト⑤経済的虐待
この定義は、障害者虐待防止法や高齢者虐待防止法にも当てはまる、
「虐待」の法的な定義です。
ですから、それが養護者による障害者虐待であろうが、虐待の定義はこの5つで変わりはないんです。
ただし、例外が1つあります。
児童虐待です。
なぜなら、法律上の「児童」は、その定義上、経済的に独立していないのです。
そのため、そもそも経済的虐待が法的には成立しません。
したがって、児童虐待からは経済的虐待が除かれます。
選択肢4 〇に近い△
「知的障害者」以外の障害種別として何が調査上提示されているかまで、この問題文には示されていません。
だから、それ以外は想像するしかありません。
推測するに、「身体障害者」「知的障害者」「精神障害者」そこにせいぜい「発達障害者」が加わるぐらいですかね。
これら障害種別で、どの障害種別が虐待されやすいか、ってことになります。
ただ、その前に限定もついてますね。
「障害福祉施設従事者等による虐待」に限定されています。
すると、これら障害種別で障害福祉「施設」を利用する者が多いのは圧倒的に知的障害者です。
医療とか服薬とかそういうサービスを入れると精神障害者も多いですが、
障害福祉「施設」となると圧倒的に知的障害者ですね。
じゃあ、身体障害者は?というと、身体障害者の8割弱が65歳以上の高齢者だっていうのは、問題56で確認しました。すると、身体障害者が使ってる施設って、統計上は介護保険の施設が多くなっちゃうんです。
それら障害福祉施設に通うであろう人数の多さ、ならびに障害特性ゆえに、施設内虐待は知的障害者が一番多くなりそうだなと容易に想像がつきますね。
受験した人で、この調査結果を知ってる人なんてほんとんどいません。じゃあ、問題作成者はこの調査を覚えろと言っているのかというとそうではありません。
障害福祉施設や障害特性を考えると、容易に論理から推定できるよね、と国家試験は言っているのです。
ということで、調査結果を覚えているわけではないので△にしておきますが、〇に近い△で落としこめればそれで十分です。
選択肢5 ×
障害者福祉施設の利用者は知的障害者が多いです。それは選択肢4で確認しました。
では、虐待の類型5つのうち、どれが最も多くなりますか?
そのように、この選択肢は聞いているように思っちゃうのでしょうね。
でも、ここで問われるのは「『実際に』どの虐待が多いか」ではありません。
「どの虐待が『調査に報告として』あがりやすいか」を聞いているのです。
調査結果は現実そのものではない!!
身体的虐待は5つの虐待のなかでも、怪我といった形で、具体的に見えやすいです。
その結果、発覚しやすい。それゆえ報告に上がりやすいのです。だから、調査上は身体的虐待が最も多くなります。
一方、心の傷は見えにくく、性的な傷は隠されやすく、ネグレクトはその性質上本人からのクレームがあがりにくい。そのため、今の社会ではこれらの虐待は発覚しづらいものです。そして、経済的な虐待にいたっては、その発想すらまだまだ市民に認知されていません。実際、「経済的虐待なんて初めて知ったよ」という人もいるのではないでしょうか?
ですから、この調査結果をもって、実際にこれら虐待が身体的虐待よりも多いだの少ないだのなんて言えないのです。
正解 4