ソーシャルワークから見た「障害者差別解消法」

08障害者に対する支援と障害者自立支援制度
今回のポイント
障害者権利条約の批准と「障害者差別解消法」成立の関係を知る
虐待差別の違いを整理する

問題57 「障害者差別解消法」に関する次の記述のうち、正しいものを2つ選びなさい。
(※国試問題を一部改訂)
1 国際障害者年(1981年(昭和56年))に向けて、国内法の整備の一環として制定された。
2 「不当な差別的取扱いの禁止」について、国・地方公共団体等には義務が、民間事業者には努力義務が課されている。
3 「合理的配慮の提供」について、国・地方公共団体等と民間事業者に、共に義務が課されている。
4 障害者の定義は、障害者基本法に規定されている障害者の定義より広い。
5 国や地方公共団体の関係機関は、地域における障害を理由とする差別に関する相談や差別解消の取組のネットワークとして、障害者差別解消支援地域協議会を設置できる。
(注) 「障害者差別解消法」とは、「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」のことである。

社会福祉士国家試験 第33回(2021年)より解説

「障害者差別解消法」について、単独問題としては、第28回問題56 以来の出題です。

第28回問題56 「障害者差別解消法」に関する次の記述のうち, 正しいものを1つ選びなさい。
1 障害者基本法には, 障害者差別の禁止についての基本的理念が定められていなかったためこの法律が制定された。
2 人種を理由とする差別の禁止も包含した規定とされている。
③ 障害者の権利に関する条約を締結するための国内法制度の整備の一環として制定された。
4 差別の解消の推進に関する政府の基本方針は, いまだ策定されていない。
5 差別を解消するための支援措置として, 新たに専門の紛争解決機関を設けることとされている。
(注) 「障害者差別解消法」とは, 「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」のことである。

ただ、単独問題ではないですが、「障害者差別解消法」関連は、選択肢として第27回問題56選択肢5や第32回問題57選択肢4などでも出題されています。

このように、「障害者差別解消法」と「障害者虐待防止法」は、単独問題だと出題は3年に1回ぐらいかもしれませんが、選択肢も入れると、だいたい毎年どっちかが出ています。だとしたら、やっぱり大枠はしっかり押さえておくべきです。

ただ、「大枠って言われてもどの程度覚えればいいの?」って思われることでしょう。参考書や教科書に載ってる程度とかじゃなく、やっぱり過去問から、国家試験が「どの程度」を求めているかを知ったうえで覚えるべきなんだと私は思います。

選択肢1 ×

問い方は違えど、第27回問題56選択肢5や第32回問題57選択肢4で問われていることといっしょですね。

第27回問題56 障害児者福祉制度の歴史的展開に関する次の記述のうち, 正しいものを1つ選びなさい。
5「障害者差別解消法」 (2013年 (平成25年) ) では, 「障害者」について, 障害者基本法と同様の定義がなされた。
第32回問題57 障害者福祉制度の発展過程に関する次の記述のうち、最も適切なものを1つ選びなさい。
4 2013年(平成25年)に成立した「障害者差別解消法」では、障害者を医学モデルに基づいて定義している。

2006年成立した国連の障害者権利条約批准のための、国内法整備の一環でできたのが「障害者虐待防止法」と「障害者差別解消法」です。この知識、つまり障害者権利条約批准関連の流れは、日本の障害者福祉の歴史として絶対に覚えておかなきゃいけません。

選択肢2 ×

法律における「虐待」と「虐待」の違いがわかっていない人が結構います。これがわからないと、これに対応する「障害者虐待防止法」と「障害者差別解消法」の違いもわからないことになってしまいます。ここで整理しましょう。

虐待と差別の違い
虐待定義がある =「身体的虐待、性的虐待、ネグレクト、心理的虐待、経済的虐待
→ゆえに見つけたら通報するように、市民に義務が課されている

差別定義できない(ゆえに時に「区別」とされ、時に「差別」とされてしまう)
※定義できないとしたら、どうやって差別を解消?
→定義できない「差別」を解消する目的で、差別に形を与えるプロセス=合理的配慮
<合理的配慮>
障害者やその当事者に、何が「差別」か、決めてもらう
②言われたら、それが過剰な負担なく、その「差別」をやめることができればやめる
→過剰な負担があるなら、代替案をその障害者や当事者とディスカッションし、いっしょに考える

「差別」はその概念上、そもそも定義ができない。だったら、「合理的配慮」というプロセスで差別に形を与え、差別を解消していこう、これが差別解消法の趣旨です。

ただ、そうは言っても、誰がどう見ても差別だろっていうものはあるだろうと。それを「不当な差別的取扱い」と呼んで、そういうものは国・地方公共団体だろうが、民間事業者だろうが「禁止」だ、ということにしています。この理屈が大事です。

「障害者差別解消法」における禁止事項など

不当な差別的取り扱い 障害者への合理的配慮
国の行政機関・地方公共団体 禁止 義務
民間事業者(個人事業者・NPO含む) 禁止 義務(2021年改正までは努力義務)

選択肢3 〇 (2021年5月以前は×)

選択肢2の解説で、「この理屈が大事」って書きましたが、理屈さえわかっていれば、この選択肢も×ってすぐわかるはずです。
「合理的配慮」とは、明確な定義ができない差別に対して、時間かけて、ディスカッションして差別を解消していくプロセスのことです。すると、営利目的である民間にまで、それを義務として課せるかというと、なかなかそこまでは(少なくとも今の段階では)難しいことでしょう。というのも、まだまだ障害者への差別をどこまで含めるかってことに関しては、市民の中でもズレが大きいでしょうから。ということで、法の成立当初(2013年)から8年ほどは、民間事業者には合理的配慮の提供は努力義務ってことにしていました。ですので、この国家試験が出題された2021年2月時点では、この選択肢は明確な×でした。
ところが、2021年5月の法改正によって、民間事業者には合理的配慮の義務が課されることになりました。したがって、2021年5月以降においては、この選択肢は〇ということになります。それに合わせ、この問題は二択に改変しました。ご了承ください。

選択肢4 ×

障害者基本法ってどういう法律ですか?

「基本」法なんだから、具体的な障害者施策を個別具体的に定めている法律に対して、障害者施策の大きな理念を指し示す、そういう法律ですよね。

障害者基本法って大きな理念を指し示す法律なのですから、そこで語られる障害者の定義よりも、障害者差別に特化した(=個別具体的な)「障害者差別解消法」における障害者の定義のほうが大きいなんておかしいじゃないですか。

とはいえ、障害者差別っていうのは明確には定義できないものであるわけです。それを減らしていく、そういう射程をもつ「障害者差別解消法」では、具体的に制度を使える資格所持者を限定するために障害者を明確に定義しようとする「身体障害者福祉法」や「知的障害者福祉法」「精神保健福祉法」(=以上は原則として手帳所持者を障害者とする)とは考え方は異なります。なぜなら、そんな厳密な定義をしては、障害者差別全体を減らすという方向性からズレてしまうからです。

それゆえ、「障害者差別解消法」の障害者の定義は、障害者基本法における障害者の定義に準じる、って形で、理念的なざっくりした障害者の定義(=言い方を変えると、解釈の余地のある障害者の定義)に落とし込んでいるのです。

これは障害者権利条約批准の話ともつながる大事な論理です。

選択肢5 〇に近い△

こんな協議会が「障害者差別解消法」にあることぐらいは、覚えてなくても何となく推測はつくと思います。なぜなら、そもそも差別が定義できない以上、障害者の差別について地域ごとに話し合う場って必要じゃないですか。

それでも、この選択肢でさらに考えこんでしまった人がいるとすると、「義務(しなければならない)」なのか「任意(できる)」なのか、そこでしょうねぇ。これ、法律で明確に定義されていないものを話し合う場っていう性格を考えても、義務ってことにはできないだろうなって思いませんか?措置的に決められた制度なりサービスなりを定義にもとづき処理する場みたいなものは設置義務にできますが。地域の創意工夫が期待されるものは任意設置ってことになりますよねぇ。

正解 3と5

【お勧め関連本】合理的配慮の背後には思想があります。その思想まで理解しなければ、合理的配慮はよくある道徳的なお題目に成り下がります。ただ、そんな思想的背景をわかりやすく伝えてる本はあまりありませんが、これはそんな背景を初心者にもわかりやすく伝えてくれる数少ない本です。

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