ソーシャルワークから見た「社会的ジレンマ」

03社会理論と社会システム

今回のポイント
・素朴な役割理論が疑われる契機として、社会的ジレンマを理解する。
・社会的ジレンマへの向き合い方を理解する。

問題20 次のうち、社会的ジレンマの定義として、最も適切なものを1つ選びなさい。
1 目標を効率的かつ公正に達成するための手段として制定されたルールが、それ自体目的と化してしまうことで、非効率な結果が生み出されている状況
2 文化を介して不平等や序列を含んだものとしての社会秩序が維持・再生産されている状況
3 信頼関係、互酬性の規範、人的ネットワークなどが整えられることによって人々に広く便益をもたらしている状況
4 協力的な行動には報酬を与え、非協力的な行動には罰を与えることで、協力的行動が合理的であるようにする状況
5 各個人が自らの利益を考えて合理的に行動した結果、集団あるいは社会全体として不利益な結果を招いてしまう状況

社会福祉士国家試験第33回(2021年)より解説

私たちは、問題18で、「標準的な段階設定をすることなく」個人の生(LIFE)に焦点を当てるあり方として、「ライフコース」という見方があることを知りました。そんな個人の生のあり方は、問題19で、社会に与えられた「役割=期待」に適切に応え、そのような「役割」を適切に取得することで適切に規範化された大人になるわけではなく、その「役割=期待」を理解しつつも、敢えて意図的にその「役割=期待」からズレた行動をとることによって、自分らしさを表現することもあることを知りました。そして、それもまた人間らしさなのだとゴフマンは言い、そのような行為に「役割距離」という名付けを行ったうえで、そんな有り様を肯定的にとらえようとしました。

1950年代ごろまでのパーソンズらによる社会システム論では、「社会に与えられた『役割=期待』に適切に応え、そのような「役割」を適切に取得することで適切に規範化された大人になる」ことが肯定され、それこそが社会の秩序の根源かのように語られました。

そのような見方に対して疑いのまなざしが向けられた時代、それが1960年代であり、それ以後、ゴフマンのドラマトゥルギー論含め、「標準的な段階設定をすることなく」、一人一人の個別の生を描こうとする理論が社会学でも次々と登場してきます。同じころ、ソーシャルワークでも、パールマン、ホリス、バートレットらによって、それまでのソーシャルワークとは異なり、一人一人の生そのものに焦点化しようとする方法論が模索されだすのです。

さて、社会システム論的な見方や、標準的な段階設定をするような社会理論に疑いの目が向けられる契機にはどのようなものがあるでしょうか。

もちろんいろんなことがありえますが、その中のひとつとして、この問題のタイトルである「社会的ジレンマ」があげられるでしょう。

なんて観点から考えれば、社会システム論の説明する「社会の秩序維持」に対して逆に働いてしまうことを「社会的ジレンマ」と言うのだろうということは、社会的ジレンマの意味がわからなくても何となく推測されるわけです。

さて、これぐらいの整理をした上で、選択肢を見ていきましょう。

 選択肢3× 選択肢4×

この二つの選択肢は、どちらも何らかの不安定な状況を解決させるような方策が書かれてることがわかるでしょうか。だとすれば、「社会的ジレンマ」にはならないですね。

実は、この二つは「社会的ジレンマ」を解決する方策なのです。

選択肢3はパットナムがいうところの「社会関係資本」、選択肢4はオルソンのいうところの「選択的誘因」になります。

さて、3つの選択肢が残りましたね。どれが「社会的ジレンマ」になるでしょうか。残ったこの3つは、どれも社会秩序に対して否定的に働く理論として大事なものばかりです。この3つはしっかり押さえたいところです。

選択肢1 ×

これはマートンのいうところの「官僚制の逆機能」にあたります。

選択肢2 ×

これはブルデューのいうところの「文化資本」にあたります。

選択肢5 〇

これが「社会的ジレンマ」の定義です。

つまり、社会が与える「役割=期待」に応えることが、結果として個人の利益につながる、そう思えれば思えるほど、社会は秩序化していきます。ところが、個人が合理的な判断の下、敢えて社会の与える「役割=期待」に応えないあり方をする人が増えだすと、社会の秩序は乱れます。

そんな社会的ジレンマの例として、ここ5年の国家試験の過去問では「フリーライダー」「共有地の悲劇」「囚人のジレンマ」が直接上げられています。※であれば、この3つはしっかり押さえなければなりません。過去問で覚えてしまいましょう。

第28回問題20 社会的ジレンマに関する次の記述のうち, 正しいものを1つ選びなさい。
➃  ある財やサービスの対価を払うことなく, 利益のみを享受する人のことを「フリーライダー」という。

第30回問題20 次の記述のうち、「共有地の悲劇」に関する説明として、最も適切なものを1つ選びなさい。
➃ それぞれの個人が合理的な判断の下で自己利益を追求した結果、全体としては不利益な状況を招いてしまうことを指す。

第32回問題20 次のうち、「囚人のジレンマ」に関する記述として、最も適切なものを1つ選びなさい。
➂ 協力し合うことが互いの利益になるにもかかわらず、非協力への個人的誘因が存在する状況を指す。

さて、1960年代に生じたこれら「社会的ジレンマ」にどんなものがあるでしょうか。例えば、公害問題などはその典型と言えるでしょう。そんな具体的な問題を前に、社会が与える「役割=期待」に応えるというあり方とは違うあり方、個別でありつつも社会の秩序だつような有り様が社会学の中で模索されだすのが1970年代以後と言えるでしょう。

正解 5

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