ソーシャルワークから見た「福祉事務所ワーカーの支援」

09低所得者に対する支援と生活保護制度
今回のポイント
被保護者と生活困窮者の違いを、根拠法に基づき、しっかり整理する。
被保護者への就労支援のルートを整理して押さえる。

問題67 事例を読んで、S市福祉事務所のM生活保護現業員の支援に関する次の記述のうち、最も適切なものを1つ選びなさい。
〔事例〕
Aさん(30歳、女性)は、会社員として働いていた3年前に乳がんと診断された。仕事をしながら治療を受けることが困難であったため会社を退職し、現在、生活保護を受給し、S市福祉事務所のM生活保護現業員による支援を受けている。約1年間の治療を経て、現在はパートタイムの仕事ができる程度に体調が回復しており、検診の結果、「軽労働」が可能と診断された。そこでAさんは、体調に合わせて働ける職場での再就職を希望している。
1 日常生活自立を図るため、Aさんに被保護者就労準備支援事業の利用を促す。
2 Aさんの同意を得て、公共職業安定所(ハローワーク)と福祉事務所が連携した就労支援チームによる支援を行う。
3 Aさんの同意を得て、公共職業安定所(ハローワーク)に配置される就職支援コーディネーターに職業相談・職業紹介を依頼する。
4 Aさんの同意を得て、福祉事務所に配置される就職支援ナビゲーターに公共職業安定所(ハローワーク)と連携した支援を依頼する。
5 Aさんの同意を得て、S市において生活困窮者自立相談支援事業を受託している社会福祉協議会に、被保護者就労支援を依頼する。

社会福祉士国家試験 第33回(2021年)より解説

生活保護制度について、
この科目の最初の問題である問題63では、生活保護制度の現状を確認し、
次の問題64では、制度のそのものの根底にある原理・原則を確認し、
次の問題65では、その制度を具体的に使うにあたっての申請について事例で確認し、
次の問題66では、その申請による判断に不服があった場合の審査請求について確認し、
そしてこの問題67なわけです。
問題64~67を踏まえ、今の福祉事務所所属の行政のワーカーは、どんな支援が具体的に求められますか?とこの問題はあなたに問うています。
もちろん、制度としては問題64~67で確認しましたが、具体的な支援の大前提は、ソーシャルワークの見方・考え方です。

さぁ、事例問題のように見えますが、選択肢を見ると、全ての選択肢ごとに異なる制度名が並んでいます。ですから、私なりの言い方になりますが、これは「事例問題に見せかけた、知識問題」です。

これらに挙げられた制度を、しっかり整理して覚えているかどうか、そこが問われています。

事例を読み出す前に、「現業員」といういい方を知らない人もいるかもしれないので確認しておきましょう。
福祉事務所の特有の物言い
現業員」=所属する正規のワーカーのこと
ということで、事例問題なので事例問題の解き方でやってみましょうか。
事例問題の解き方は問題35と問題60でやりました。復習すると、
<確実に正解に導ける事例問題の解き方>
大前提:〇はつけない。選択肢につけるのは×か△のみ。
①まず、100%まちがいといえるものだけに×をつける。
※1%でも可能性があれば残す!
残った△の選択肢から、優先順位1位の選択肢に〇をつける。
※優先順位は問題文から読み取る=原則は、早くやる順!

では、

①100%×の選択肢をみつける⇒1%でも可能性がある選択肢は必ず残す

100%×は? 選択肢5ですね。

選択肢5 ×

「S市において生活困窮者自立相談支援事業を受託している社会福祉協議会に、被保護者就労支援を依頼」とありますが、被保護者就労支援」の「被保護者」とは「生活保護受給者」なのですから、当然ながら、生活保護法が根拠法になります。
一方で、生活困窮者自立支援相談事業は、生活困窮者を対象とした相談の事業です。根拠法は、もちろん、生活困窮者自立支援法です。

被保護者生活保護法に規定のある扶助の受給者
生活困窮者生活保護受給者以外の者で、生活困窮者自立支援法の対象となる者。

よって、被保護者の就労支援を、生活困窮者枠での相談を請け負う民間団体に依頼するということはありえません。もう少し精確に言うなら「被保護者就労支援」とは、生活保護法に基づき、福祉事務所がやるか、もしくは委託を受けた団体がやるからです。(詳しくは、下記で説明します。)

それ以外の4つは全部残します。事例問題のポイントは、可能性が1パーセントでもあるものは残せるかどうかです。適したものを選ぶ以上は、選択肢の中により適切なものがある可能性がある以上、可能性ゼロ以外は残さなければ外れる可能性があるからです。

そのうえで、②に進みます。

②残った選択肢から優先順位で最も優先度が高いものを選ぶ

⇒優先順位の条件の基本「事例の、今この時点で、一番早くやるべきこと

選択肢1~4のどれも、選択肢としては可能性ゼロではないのです。だから残しました。

「可能性あるならどれも正解になるだろ!」と聞かれることがありますが、違います。事例問題で「適切なものを選べ」と言われた時の、五肢択一のゲームのルールは、「今、一番早くやること選べ!」なのです。全部可能だとしても、やるのは1つ1つ優先順位つけてやるわけでしょう。人生1回、同時になんてできないんですから。でしょ?

だから、一番早くやるものは1つしかないんです。そして、その一番早くやるものを、ソーシャルワークという社会科学的な視点で判断して選んでください、というのが「事例問題の適切なもの選べ」問題(=以後、私は「事例・適切」問題と呼びます)なのです。

ということで整理しましょう。

生活保護受給に対する就労支援 編 ※根拠法として生活保護法
○入り口として
ケースワーカー(福祉事務所現業員)による就労支援
=生活保護受給者には必ず担当のケースワーカーがいる→就労困難度が軽ければ
(1)生活保護受給者等就労自立促進事業 ※根拠法なし(厚労省の「通知」による)
・生活保護受給者を含め生活困窮者を広く対象する。
ハローワーク(=国)と福祉事務所(=地方自治体)の協定等による連携を基盤とした
チーム支援方式により、支援対象者の就労による自立を促進。→就労困難度が中程度であれば
(2)「被保護者」就労支援事業 ※生活保護法第55条の6
生活保護法に基づく必須事業。2015年(平成27年)から開始。
→つまり、対象は被保護者(=生活保護受給者)に限定
福祉事務所(=地方自治体)に配置された就労支援員[=就労支援コーディネーター、就労支援ナビゲーター]が、必要な情報提供や助言、支援を行う。
例 ハローワークへの同行訪問、履歴書の書き方指導、個別の求人開拓

就労の訓練が必要な場合
(3)「被保護者」就労準備支援事業 ※根拠法なし(厚労省の「通知」による)
・2015年(平成27年)より実施。
・就労意欲の喚起や一般就労に従事する準備としての日常生活習慣の改善を、計画的かつ一貫して実施
背景 生活困窮者自立支援法(2015年施行)の「就労支援準備事業」(任意事業)に相当する、生活保護受給者向けの事業として創設
※つまり、現場では、生活保護受給者向けと生活困窮者向け、両方が一体でなされている場合が多い。

選択肢1 △

選択肢1の「被保護者就労準備支援事業」は上記表の(3)ですね。

選択肢2 △

選択肢2の「公共職業安定所(ハローワーク)と福祉事務所が連携した就労支援チームによる支援を行う」とは、上記表の(1)の「生活保護受給者等就労自立促進事業」のことですね。

選択肢3 △

選択肢3の「公共職業安定所(ハローワーク)に配置される就職支援コーディネーターに職業相談・職業紹介を依頼する」とは、上記表の(2)ですね。

選択肢4 △

選択肢4の「福祉事務所に配置される就職支援ナビゲーターに公共職業安定所(ハローワーク)と連携した支援を依頼」とは、上記表の(2)ですね。

ということで、再就職を希望する今の段階(=上述のものはまだ何もやっていない段階)で、まず最初にするとなれば、(1)ということになります。ですから、選択肢2に〇をつけて、それが正解ということになります。

(1)の「生活保護受給者等就労自立促進事業」は国家試験ではよく狙われます。というのも、ハローワークは国が仕切る、福祉事務所は市(もしくは都道府県)が仕切る、この二つが越境するという発想は、縦割りで行政施策が行われてきた措置中心の時代にはありえないことなのです。今のように就職になかなか結び付かない人が多数いて、その理由も多様化している中で、具体的な就労支援の有効性という観点から、入り口段階で、国と市が対等にタッグを組む=チームを組む、この発想ってすごい画期的なんです。だから、国家試験では聞きたくなるし狙いたくもなるのです。

正解 2

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