ソーシャルワークから見た「近年のリハビリテーション」

01人体の構造と機能及び疾病
今回のポイント
リハビリテーション概念の射程を知る
リハビリテーションの歴史を整理する

問題7 近年のリハビリテーションに関する次の記述のうち,適切なものを1 つ選びなさい。
1 がんは,リハビリテーションの対象とはならない。
2 内部障害は,リハビリテーションの対象とはならない。
3 脳卒中のリハビリテーションは,急性期,回復期,生活期(維持期)に分けられる。
4 リハビリテーションは,機能回復訓練に限定される。
5 リハビリテーションを担う職種には,言語聴覚士は含まれない。

社会福祉士国家試験 第33回(2021年)より

問題文のタイトルとして「『近年の』リハビリテーション」と書いてあります。つまり、国家試験問題作成者は「『近年の』リハビリテーション」と「『それ以前の』リハビリテーション」を分けたうえで、今回の問題では「『近年の』リハビリテーション」のことだよ、と伝えています。
だとすれば、この問題作成者は「『近年の』リハビリテーション」と「『それ以外の』リハビリテーション」の違いを知っていることを前提にしていて、「それぐらいはソーシャルワーカーとして知っておいてね」とこの問題を通して伝えているわけです。
じゃあ、この二つの違いは何でしょうか?これを考えるためには、「『近年』の」の「近年」っていうのがどれぐらいのことを言っているかについても限定しなければなりません。その限定はこの問題には書いてありません。ただ、この問題は社会福祉士の国家試験だということはわかっています。だから、どんな問題文でも、その文章の前に「今の日本のソーシャルワークにおける」って頭文がついていると理解した方がいいのです。すると、今の日本のソーシャルワークにおいて、時代を「近年」と「それ以前」で分けるとすると、措置制度中心から契約制度中心になった2000年前後で分けるのが一般的です。
さらに、選択肢を見ると、「がん」だの、「内部障害」だの、「急性期」だの「機能回復期」だのといった具体的な言葉が並んでいて、これらが「リハビリテーション」に含まれるかどうかが問われています。だとすると、ここで問われているのは「近年の『制度上の』リハビリテーション」とも言えるでしょう。
さて、2000年前後あたりから今に至る制度上のリハビリテーションっていうのは、それ以前と何がどう違うのでしょうか。
その転換を強く促すような象徴的なフレーズが、リハビリテーションの訳語として、理念的に使われるようになったのが1980年代であり、それが上田敏(1932年-)による「全人間的復権」という言葉です。このへんの思想や歴史を知りたければ、上田さんと三井さよさんとの対談集『「生きるを支える」リハビリテーション』というブックレットが最近出版されましたが、たいへんに読みやすくてよいと思います。

それ以前において、リハビリテーションは「更生」という行政用語で、「一般就労への職業訓練」や「医療訓練」などに限定していて使われていました。それに対して、1960年代の社会運動の時代を経て、リハビリテーションの原語や原点に遡って、その方向性を「全人間的復権」と上田敏は名づけたのです。このあたりは今日のソーシャルワークの前提となる知識です。

これら踏まえて、これらの時代を経た「近年のリハビリテーション」とはどのようなものなのか、国家試験そのものから教えてもらえいましょう。

ソーシャルワーカーを目指すわれわれは「近年の『制度としての』リハビリテーション」について細かくは知らない人がほとんどです。ですが、上田敏の「『全人間的』復権」という言葉などをヒントにすると、この5つの選択肢のなかで1つだけ仲間はずれが見えてくるはずです。選択肢3以外の選択肢の文章は、疾患や障害の中に例外を設けたり、内容を1つに限定をするような発想に基づいています。その発想は少なくとも「全人間的」という形容詞からずれている印象を受けるはずです。ですから、確信を持って×にできないとしても、×に近い△ぐらいにしておきましょう。
じゃあ、残った選択肢3は「全人間的復権」にどう繋がるでしょうか。ここでは上田敏より先んじて、1950年代後半から1960年代に、今日のソーシャルワークの方向づけをしてくれたパールマン(1906~2004)に登場してもらいましょう。
パールマンは社会には弱者と強者がいるのではなく、共通の人間がいるのだといいます。それは、問題を常に抱えながらそのつど問題を解決していく人間であり、それは誰にでも共通するものなのだ(=「問題解決アプローチ」)と彼女は言います。そして、そこにあるのが「4つのP」、つまり、人間(people)、場所(place)、問題(place)、そして過程(process)です。選択肢3は、リハビリテーションを過程としてとらえようとする見方を指し示しており、それは全『人間』的復権としてのリハビリテーションといえるでしょう。これも確信もって〇にはできないとしても、〇に近い△ぐらいにしておきましょう。

参考 リハビリテーション概念変遷の背景

戦後すぐ:福祉三法体制下
リハビリテーションの訳語としての「更生」=「職業更生」等に限定
例 身体障害者福祉法(1949年)

↓抵抗

転換期:社会運動の時代
〇1960年代
<アメリカ>
パールマン「問題解決アプローチ」
〇1980年代
<日本>
上田敏「全人間的復権」

↓影響

2000年代以後:社会福祉基礎構造改革以後
近年のリハビリテーション

ということで、選択肢1~5をふまえて、選択肢3を〇にしたら正解、といったところでしょうか。これで第33回の「人体」の問題が終わりますが、「人体」という科目に共通する人間の見方をふまえた、方法論を指し示すような、そんな問題が最終問題になっているあたり、やはり国家試験は構成含めよく練られているな、と感心します。

正解 3

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