ソーシャルワークから見た「遺言」

11権利擁護と成年後見制度
今回のポイント
公正証書の仕組みや、その考え方を知る
被後見人だけが遺言の作成は条件付きである、その理由を理解する

問題79 遺言に関する次の記述のうち、正しいものを1つ選びなさい。
1 公正証書遺言は、家庭裁判所の検認を必要とする。
2 聴覚・言語機能障害により遺言の趣旨を公証人に口授することができない場合は、公正証書遺言を作成することができない。
3 法定相続人の遺留分を侵害する内容の遺言は、その全部について無効となる。
4 前の遺言が後の遺言と抵触している場合、その抵触する部分について、後の遺言で前の遺言を撤回したものとはみなされない。
5 被保佐人が遺言を作成するには、保佐人の同意は不要である。

社会福祉士国家試験 第33回(2021年)より解説

この問題79を見て、私は大変関心してしまいまいた。
「あーなるほどねー、そうやって成年後見制度へつなげるのかぁ」と。

ん、何言ってんの?

確かに。問題解説の冒頭で、んー関心関心なんてつぶやけば、そう思われちゃいますよね。笑

第33回の問題を1問目から順に解いて解説しているわけですが、そこで一貫して伝えているのは、問題ごとに切れているのではなく、論理的につながっているのだ、ということです。

第33回の「権利擁護と成年後見制度」は難問ぞろいで、第33回はこの科目で国家試験を落としたという人の話もよく聞きます。
ただ、私は半信半疑でした。
というのも、私はこれまた一貫して伝えてますが、国家試験は全部良問、そういう発想を私はしているからです。

私が思うに、この問題は、問題78から続いている、と見ないとダメです。
問題78は民法の賃貸借契約の問題ですね。
問題78を最初見たとき、
「なんで社会福祉士の国家試験で賃貸借契約の問題なんか国家試験で出してんだろ?」と私も思ったんです。
そして、実際に問題78を解くと、選択肢2の「親が死んだとき子どもが賃貸借契約も相続するんだ」以外は明らかに×で。ただ、この選択肢に〇をつけさせる国家試験の意図ってなんだろなぁ~、「社会福祉において相続を知っておくことは大事だよー」ぐらいのことかなぁ~ってしか私には思えなかったんですよね。

ところが。
この問題79を解いて、なるほどって思えたんです。
ここで遺言が出てくるのですよ。なるほどです。
選択肢3には「相続」ってワードも見えますね。

つまり、相続に被後見人や被保佐人、被補助人が関わってきたときにどうなるかってことです。

そして、遺言もそう。
相続関係では遺言もつきもので。
遺言も含め、被後見人、被保佐人、被補助人が関わる場合について、民法上はどう規定してるか。これは社会福祉士として知ってなきゃいけないわけです。

これぐらい問題が見えるとですね、もう選択肢をざっと見ただけで、選択肢5が正解だなってわかっちゃうんです。
知識で、ではなく、論理で、わかるんです。国家試験は選択肢5に〇をつけさせたがってるなって、わかっちゃう。見えてきちゃう。

なぜって、選択肢5に「被保佐人だって保佐人の同意なく遺言を書けるんだ」って書いてるでしょ。
この考え方は、ソーシャルワークの考え方と親和的じゃないですか。ソーシャルワーカーなんかいなくても、その人ができるならその人がやればいいし、それが強みなんだって。そういうことですよ。

これが、被後見人だと被後見人の遺言は限定つきになるから、敢えて被保佐人で「遺言を同意なく書いても有効だ!」って言い切って、それに〇をつけさせようとしているわけです。
支援を受けている人だって、権利があるし、法も最大限その権利を認めるんだっていうこの考え方。

ほら、新カリキュラム「権利擁護を支える法制度」って科目タイトルからも想像できるでしょう。
(えっ?まだ科目名は「権利擁護と成年後見制度」なの?まぁ~いいじゃないっすか。)

選択肢1 ×

この選択肢の〇×の判断をするには、公正証書が何か、知っておかないといけません。

公正証書=公証人が法律に従って作成する公文書
→公証人(=プロ)が法的に厳密に作る
→裁判等にも耐えうる強い証明力がある

つまり、契約等がのちのちトラブルになって揉めてしまっても、公正証書にしておけば、その有効性が裁判で否定されることはほぼありえない、それが公正証書のメリットです。だいたい、全国に約300ヶ所ある公証役場作成されます。

この説明で分かるように、その証明力の根拠は家庭裁判所が認めたからじゃないんです。そもそもにおいて、公証人が法に厳密に基づいて作成しているからこその力なのです。

だから、公正証書による遺言は家庭裁判所による検認は必要ありません。

※法的な根拠としては民法1004条2項に書いてあります。

選択肢2 ×

公証人とは、公正証書という公的文書を法に厳密に作るプロなんです。すると、障害者であろうがなかろうが、口述によって公正証書を作成してもらうことなんてフツーにありえます。だって、公正証書を作るのに、市民が公正証書と同じような法的文書を作らないといけないなんておかしいでしょ。それに遺言であれば、作成依頼するのは高齢者であることが多く、口述以外は難しいなんてことは多々ありえます。それら高齢者の口述による公正証書の作成を認めないと遺言制度そのものが成り立ちません。

すると、高齢者の口述での公正証書作成は認めて、障害者の場合だけはそれが認められないなんてことになったら、障害者差別に他なりません。

ということで、聴覚・言語機能障害による遺言の趣旨を公証人に口授する公正証書の作成が認められないはずがないのです。

※ちなみに遺言が公正証書として認められる前提条件は、民法969条2に書いてあります。

選択肢3 ×に近い△

遺留分とは何ですか。

遺留分=一定範囲の相続人に認められる最低限度の遺産取得割合

親が亡くなったとしましょう。
もし、親の遺言で不公平な遺産分割が示されていたとしたら?
「そんなのおかしいよぉ~」と思ってしまうでしょうねぇ。
それに対して、法は、遺言によって多く財産を譲り受けた人に対し「遺留分」を請求できる可能性を担保してくれています。

つまり、遺留分は、遺言の内容よりも強い権利なのです!

ただ、この考え方は、遺言を否定しているのではありません。遺言は有効と認めつつ、遺留分については権利がある、という考え方をしているのです。

※これは民法1046条1項にあります。

選択肢4 ×

遺言は別に公正証書でなくてもかまいせん。
公正証書はトラブルになって裁判になったとき厚生省章だと認められやすいというだけで、別に割り箸の袋に書いたとしても遺言です。ただ、それが残された親族や裁判で認められるかどうかというと、難しいだろうな、というだけで遺言は遺言です。

さて、そんな遺言。
公正証書としての遺言が2つ出てくることもあれば、公正証書の遺言とは別に遺言が出てきて、それを裁判所が認める場合もあります。このように公的に認められた遺言が複数ということはいくらでもありうるのです。

すると、複数の遺言で矛盾する(=「抵触する」)箇所があった場合、どれを取るのか、ルールにしておかないとさらに揉めてしまいます。そこで以下のようにルールが定めてあるわけです。

複数の遺言で抵触する部分について
最も新しい遺言が、それ以前の遺言の抵触する部分について撤回したものとみなす

※民法1023条1項にあります。

選択肢5 〇

これは社会福祉士、精神保健福祉士になるなら絶対に知っておきたい知識であり、この問題は、この選択肢を見た瞬間に、他の選択肢なんか問答無用で、この選択肢に〇をしなければなりません。そういう選択肢です。

まず、遺言は15歳以上であれば可能とされています。※民法961条にあります。
それ以外の条件はありません。

え、公証人が書かなきゃいけないんじゃないの?

違いますよ。選択肢4の解説にも書いた通り、遺言は15歳以上なら誰だってどんな形式で書いたっていいんです。ただ、トラブルになったときに、裁判で争ったときに認められやすい形式はあるわけです。認められやすい形式の1つが公正証書だよ、ってそれだけであって、遺言は公正証書じゃなきゃダメだってことじゃないんです。

だから、被後見人だろうが、被保佐人だろうが、被補助人だろうが、誰だって遺言は書いていい。

のですが・・・、唯一、被後見人だけ条件が付いています

そんなの差別じゃないか!

そうなんです。差別なんです。ただし、被補助人を「事理を弁識する能力(判断能力)が不十分」被保佐人を「事理を弁識する能力(判断能力)が著しく不十分」と定義しており、両者とも「判断能力がない」わけではないのに対して、被後見人は「事理を弁識する能力(判断能力)判断能力を欠く」と定義し、「判断能力がない」という体にしてしまっているので、遺言を無条件で認めるわけには法の立てつけ上できないのです。

それゆえ、被後見人だけは、事理を弁識する能力が一時的に回復したときに限定し、かつ医師二人以上の立ち合いの下で、という条件付きで遺言を認めています民法973条1項

正解 5

 

タイトルとURLをコピーしました