ソーシャルワークから見た「民法における賃貸借契約の規定」

11権利擁護と成年後見制度
今回のポイント
・五肢択一を解くテクニックとして、仲間はずれを一つ見つけるというやり方を学ぶ
連帯保証人は書面じゃなきゃダメということを理屈も含め覚える

問題78 事例を読んで、次の記述のうち、最も適切なものを1つ選びなさい。
〔事例〕
Dさんは、アパートの1室をEさんから月額賃料10万円で賃借し、一人暮らしをしている。Dさんには、唯一の親族として、遠方に住む子のFさんがいる。また、賃借をする際、Dさんの知人であるGさんは、Eさんとの間で、この賃貸借においてDさんがEさんに対して負担する債務を保証する旨の契約をしている。
1 Dさんが賃料の支払を1回でも怠れば、Eさんは催告をすることなく直ちに賃貸借契約を解除することができる。
2 Fさんは、Dさんが死亡した場合に、このアパートの賃借権を相続することができる。
3 Gさんは、保証が口頭での約束にすぎなかった場合でも、契約に従った保証をしなければならない。
4 Fさんは、Dさんが賃料を支払わないときに、賃借人として賃料を支払う責任を負う。
5 Gさんは、この賃貸借とは別にDさんがEさんから金銭を借り入れていた場合に、この金銭についても保証をしなければならない。

社会福祉士国家試験 第33回(2021年)より解説

この問題も参考書や解説集の類では、先の問題77同様に難問とされているようです。
ただ、この問題は問題77よりも簡単に正解を導けます。

そこで大事になるのは、(何度も言いますが)「ソーシャルワーク」という観点です。
この科目が、新カリキュラムでは「権利擁護を支える法制度」になることを、問題77の解説で書いたように、権利を擁護するという観点から、救わなければならない人を法は救うのです。この発想こそが、この科目を下支えする「法制度の見方」なのです。

選択肢の5つを見ると、選択肢1だけが本人であるDさんの過失責任をDさんに負わせる、その負わせ方について聞いていますが、他の4つの選択肢はDさん以外の人(Fさん、Gさん)に対して、Dさんの件での責任を負わせているのです。

ということで、一つだけ例外になる選択肢1からまずつぶしましょうか。

選択肢1 ×

さすがにいくら支払いが滞っているとはいえ、1回の過失で、即契約を解除できるというのはあまりにも貸主の権限が強すぎます。1回でも支払いを忘れただけで契約解除されるなんてことがまかり通っては、私たちは安心して部屋を借りれませんし、借りたところでびくびくしながら住むことになります。

法制度は「健康で文化的な最低限度の生活ができる」権利を擁護してくれるのです。いや、そー者ワークの観点から言えば、逆ですかね。私たちの「健康で文化的な最低限度の生活ができる権利」を擁護するために、法制度はあるのです。

このケースはもちろん、EさんがDさんに「払うの忘れてませんか、払ってくださいね」という催促をしたうえで、それでも継続してDさんから支払いがなされないならば、Eさんは契約解除ができるのです。この発想は、ソーシャルワーカーから考えても、そう無理はないでしょう。

ということで、例外的な選択肢1をつぶしました。

すると、あと残り4つの選択肢です。残りの選択肢4つは、どのケースもDさんの以外の人がDさんの責任を負うのでした。
その中で、1つだけが正解があるのです。ということは、この4つのなかで「Dさん以外が責任を負ってもしようがない」と思えるものはどれか、ということが問われているのです。
逆に言えば、正解以外のあとの3つは、法はDさん以外の人に責任を負わせない(=救済する)、ということです。

そのようにこの問題を見てみると(つまり、法の知識問題としてみるのではなく、「誰を救済すべきか」という見方に変えてみると)、明らかに1つだけ仲間はずれが見えてくるんです。

それは、選択肢2です。

なぜかわかりますか?
他の選択肢(=選択肢3,選択肢4,選択肢5)は、Dさんに過失があるのです。それをほかの人に穴埋めをさせるのです。
それに対して、選択肢2だけは、Dさんに過失はない(亡くなることは過失ではない)のです。

過失=不注意による過ち

すると、ソーシャルワークの観点からすれば、Dさんに過失があるケースは救済し、Dさんに過失がないケースはその責任を他人にも負ってもらうのは、妥当な判断じゃないですか。

なので、ざっと選択肢を見た時点で、選択肢2が正解かなと当たりをつけておけるのです。

そして、実際、選択肢2が正解なわけです。
この問題は、そういう見方(=救済すべき人は法が救済する)で事例を眺められるかどうか、そこが試されているのです。

ということで、残りの選択肢を1つ1つ確認してみましょうか。

選択肢2 〇

「Dさんが死亡」することそのものは、Dさんの過失ではありません。誰もが亡くなりますから。なくなることを回避するなんてことは誰にもできません。じゃあ、亡くなった人のアパートの賃借ってどうなりますか?
もちろん、アパートの賃借権だって相続物ですから、Dさんの子どもであるFさんが相続することはできますよ。できますが、誰もすまないなら、FさんはEさんの契約を終了させればいいわけです。
この選択肢の最後が「できる」になっているのが引っかかる人いるのかもしれませんが、相続は放棄もできます。だから、相続については、相続することも相続放棄することもできます。だから、「できる」と書いているだけです。

選択肢3 ×

連帯保証人なんて聞いたことあるでしょう。本来は本人Dさんが払うべきものを、Dさんが払えなくなったら、自分がそこに住んでいない保証人Gさんに払わせるわけですよね。これって、けっこう酷い制度だと思いません?

でも、アパートを経営する側からすると、お金払わず夜逃げされてはたまったもんじゃないでよ。ですから、こういう連帯保証人の制度がないと、アパート経営なんておちおちやれませんし、アパート経営する人がいなくなると、ハウジングファースト(=今日のソーシャルワークのキーワード)どころじゃなくなります。

そこで、保証人という制度があるわけですが、さすがにこれは書面でない限りは契約として効力もたせられないよ!としているのです。

自由経済だから、口約束でもいいのですけど、やっぱり保証人はしっかり守ってあげないと、ということで、例外的な規定を設けているのだと思ってください。

選択肢4 ×

賃貸借契約で、親が払えないから子が払う義務なんてないですよ。
あるのは、選択肢3でやった連帯保証人制度です。つまり、Dさんが払えなくなったら、払えといわれるのは連帯保証人。そこでおしまい。連帯保証人が払えないから、家族とかそういうのもないですよ。ただ、往々にして連帯保証人は家族だったりするわけですが。

選択肢5 ×

さらに連帯保証人の問題。
連帯保証人は、1つの契約に限定したものです。だから、DさんとEさんとの賃貸借契約について、Gさんが連帯保証人だったら、この賃貸借とは別で保証をしなければならない、なんて発想はありえませんよ。

正解 2

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