ソーシャルワークから見た「福祉サービスの基本的理念」

04現代社会と福祉

問題22 社会福祉法で規定された福祉サービスの基本的理念に関する次の記述のうち、正しいものを1つ選びなさい。
1 個人の尊厳の保持を旨とし、その内容は、福祉サービスの利用者が心身ともに健やかに育成され、又はその有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるように支援するものとして、良質かつ適切なものでなければならない。
2 全ての国民が、障害の有無にかかわらず、等しく基本的人権を享有するかけがえのない個人として尊重される。
3 国が生活に困窮するすべての国民に対し、その困窮の程度に応じ、必要な保護を行い、その最低限度の生活を保障するとともに、その自立を助長する。
4 地域の実情に応じて、高齢者が、可能な限り、住み慣れた地域でその有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう、医療、介護、介護予防、住まい及び自立した日常生活の支援が包括的に確保される。
5 老齢、障害又は死亡によって国民生活の安定がそこなわれることを国民の共同連帯によって防止し、もって健全な国民生活の維持及び向上に寄与する。

社会福祉士国家試験 第33回(2021年)より解説

問題22から10問は「現代社会と福祉」です。
この科目は対策が難しいと言われます。ただ、国家試験対策を「暗記」でやろうとする発想ゆえに難しいという結論になるのだろうと私は思います。この科目は範囲が大きいのですから、そういう結論になりがちです。ただ、実際に難しいのかどうか、この科目で国家試験は何を求めているのか、過去問から学んで、対策を練ればいいのです。過去問が暗記を求めているならば、そうぜざるを得ません。ただ私にはそう思えません。
ということで、実際第33回の10問を解いてから、対策を考えてみましょう。

まず、暗記ではなく論理で問題を解こうとすればするほど、問題のタイトルを重視すべきです。なぜなら、論理的に解ける問題であればあるほど、問題のタイトルに国家試験問題作成者の意図が示されていて、それの意図を論理的に読み解けさえすれば、正解が導けるようになっているからです。

この問題のタイトルは「社会福祉法で規定された福祉サービスの基本的理念」です。

まず、冒頭の「社会福祉法」です。実は、ここには略されているものがあるって、わかりますか?それは、「『今の』社会福祉士法」の「今の」です。法律の前に何もつかずに「社会福祉士法」のようにあれば、必ずその前に「今の」をつけます。これは日本語に限らず、あらゆる言語の共通ルールと言ってもいいですかね。私たちは「今」という時間を生きているので、「今の」であれば、今であることを示す形容は略されることになっています。「今」以外の場合だけ、それを指し示す形容として「1951年成立当時の」とかをつけなければならないのです。

次に、「福祉サービス」です。これ、「福祉」とは異なることは大丈夫ですか。「福祉」と「福祉サービス」を別のモノと見られなければ、社会福祉士にはなれませんよ。なぜなら、社会福祉士及び介護福祉士法における社会福祉士の定義で、この二つをはっきりと分けているからです。

参照 社会福祉士及び介護福祉士法 第二条 

この法律において「社会福祉士」とは、第二十八条の登録を受け、社会福祉士の名称を用いて、専門的知識及び技術をもつて、身体上若しくは精神上の障害があること又は環境上の理由により日常生活を営むのに支障がある者の福祉に関する相談に応じ、助言、指導、福祉サービスを提供する者又は医師その他の保健医療サービスを提供する者その他の関係者(第四十七条において「福祉サービス関係者等」という。)との連絡及び調整その他の援助を行うこと(第七条及び第四十七条の二において「相談援助」という。)を業とする者をいう。

前者の「福祉」とは、日本国憲法第25条(生存権保障)に基づいて行われる「社会福祉」の名のもとに国家が行うものの総称としての「福祉」です。それは、福祉六法によって、措置の名のもとに公によって行われてきました。

一方で、「措置」という形式一辺倒での福祉のあり方が限界を迎え、その転換が1980年代ごろから図られるようになります。その流れのなかに、1987年の「社会福祉士及び介護福祉士法」、1990年の「福祉関係八法改正」、1990年代後半の「社会福祉基礎構造改革」、それらを経ての、2000年の「社会福祉法」です。

これらで法などで語られるようになった「福祉サービス」とは、少なくとも措置としての「福祉」とは異なることはわかるはずです。そして、それらが「契約」などという概念とセットになって語られることもわかるでしょう。

そんな「福祉サービス」って何なのか?

それを2000年の社会福祉法で、「福祉サービスの基本的理念」と称して、この「福祉サービス」の名のもとに、日本では何をなそうとしているのか、その基本的な方向性を指し示しているわけです。

そんなことを踏まえて、選択肢を見ていきましょう。まず絶対×とすぐ言える選択肢からあげていきましょうか。

選択肢3 ×

「保護」という用語が出てきますが、これは「措置」という枠組みで使われる行政用語です。それゆえ、「保護」の二文字を見て、即×をつけたいところです。

ただ、それ以前に、この文章を見て、福祉六法の1つである「生活保護法」とすぐわからないとダメです。「低所得~」の科目で、生活保護法について丁寧にやりましょうか。

選択肢2 × 選択肢4 ×

社会福祉法は、その前の1951年の社会福祉事業法から、福祉三法や福祉六法と呼ばれる、個別具体的な措置に関する法律を越境し、それら法律によってなされる具体的施策をいかにして行っていくかについて方向付ける法律です。したがって、そこでの基本的理念が、「障害」(選択肢2)や「高齢」(選択肢4)といったことに焦点化して語られるわけがないのです。

選択肢2は2011年改正の障害者基本法、選択肢4は2013年に成立した「持続可能な社会保障制度の確立を図るための改革の推進に関する法律」において「地域包括ケアシステム」の理念を指し示したところになります。

選択肢5 ×

「老齢、障害又は死亡」と見て、領域を越境していると見えたら厳しいですかね。これが「老齢」「障害」「死亡」の3つに限定している、と見えれば、しめたもの。そう、これは「年金制度」のことを指し示しているように思えるはずです。それがわかると「国民の共同連帯」が社会保険の考え方を示した用語に見えて、確信をもって「年金制度」と判断でき、この選択肢を×にすることができます。

「社会保険」は、措置による「福祉」とも、契約による「福祉サービス」とも異なり、相互扶助という発想によって成り立っています。

国民年金法は1959年に成立し、1961年に「国民皆年金」となったことは必須の知識です。

選択肢1 〇

今日の「契約」中心の時代に、社会福祉をめざそうとする人にとっては、この選択肢1の文章は昨今の社会福祉の下に語られるワードが散りばめられているため、逆に当たり前すぎて、「社会福祉法の福祉サービスの基本的理念」として根拠もって〇をつけるのをためらってしまうかもしれません。ただ、今の社会福祉法の理念は、他の選択肢つまり他の法律の理念と対比することで、その特長がよく見えてくるのです。ですから、契約制度だけを覚えても社会福祉を知ったことにはなりません。しっかり措置に基づく法律も押さえることが社会福祉士に求められます。

正解 1

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