ソーシャルワークから見た「地域における公益的な取組」

05地域福祉の理論と方法

問題38 事例を読んで、V社会福祉法人のD生活相談員(社会福祉士)の対応に関する次の記述のうち、最も適切なものを1つ選びなさい。
〔事例〕
特別養護老人ホームを中心に社会福祉事業を経営するV社会福祉法人では、2016年(平成28年)の社会福祉法改正を受け、「地域における公益的な取組」(以下「取組」という。)の実施について協議する委員会が設置され、D生活相談員が責任者となった。委員会では、地域の中で孤立する子どもたちに対して1回100円程度で利用できる子ども食堂を実施してはどうかという提案がなされた。
1 子ども食堂は「取組」に当たらないため、法人は関わらず、施設に関わっているボランティアが中心となって実施する計画を立てる。
2 日常生活上又は社会生活上の支援を必要とする者が対象でなければ「取組」に当たらないため、地域住民や関係機関に働き掛けて、地域の子どもたちのニーズを明らかにするための話合いを実施する計画を立てる。
3 高齢者を対象とした事業でなければ法人の「取組」に当たらないため、孤立した高齢者を主たる対象とした取組として実施する計画を立てる。
4 低額であっても費用が徴収される活動は「取組」に当たらないため、無償の活動として実施する計画を立てる。
5 一つの社会福祉法人のみでは「取組」に当たらないため、近隣の他の社会福祉法人に呼び掛けて、賛同が得られた後に実施する計画を立てる。

社会福祉士国家試験 第33回(2021年)より

事例問題に一見すると見えますが、事例問題ではなく、ほぼ社会福祉法の改正について聞いている問題ですね。
問題36で社会福祉法で「地域住民等は、支援関係機関と連携して地域生活課題の解決を図る」ような方向付けを行っていること、そして、問題37で2015年に施行された「生活困窮者自立支援法は、生活困窮者における経済的困窮だけでなく、地域社会からの孤立についても支援の対象」にしていることを私たちは知りました。
それを踏まえたうえでの、問題37であることはわかるでしょうか。
ただし、問題36が「地域福祉」という概念を採用した2000年の社会福祉法改正に焦点化しているのに対して、この問題38では2016年の「地域における公益的な取り組み」という新たな概念を追加した社会福祉法改正に焦点化しています。とはいえ、あくまで2000年改正から取り入れられた「地域福祉」の推進を前提としたうえでの、2016年改正の「地域における公益的な取組」であることを意識すれば、そう難しくはありません。

この周辺のことについては、この厚労省のHPに載っていること程度は知っていてよいと思います。

すべての社会福祉法人は、その高い公益性にかんがみ、「社会福祉事業及び第26条第1項に規定する公益事業を行うに当たっては、日常生活又は社会生活上の支援を必要とする者に対して、無料又は低額な料金で、福祉サービスを積極的に提供するよう努めなければならない」という責務が課されており、地域の福祉ニーズ等を踏まえつつ、法人の自主性、創意工夫による多様な地域貢献活動が行われています。(社会福祉法第24条第2項)

この改正が行われた2016年前後においては、高齢者業界では「地域包括ケアシステム」、障害者業界では「我が事・丸ごと」といった用語が、行政による社会福祉の方向付けとして積極的に語られ出します。これら用語の背景として、社会福祉関連法が対象とする者に限定せず、地域で生きづらさを抱えた人を支えていきながら、地域福祉というあり方そのものを模索していこう、という発想が共通に前提されています。その背景があれば、選択肢2「日常生活又は社会生活上の支援を必要とする者」に対して「無料または低額な料金で」対象化していこうとする在り方そのものは、理解しやすいことだろうと思います。

その他の選択肢で、何が「取組」に当たらないと言及しているか、眺めてみましょうか。

選択肢1 子ども食堂
選択肢3 高齢者を対象とした事業
選択肢4 低額であっても費用が徴収される活動
選択肢5 1つの社会福祉法人

これらはどれも、社会福祉関係法の対象になりにくいものををカバーするという発想を前提とした「地域における公益的な取組」から外れる要素が全くあり得ません。あえて引っ掛かりそうなものといえば、選択肢4ぐらいかもしれませんが、すべてを無償でやることにしては必要経費すら法人が持たなければならず、それでは、予算に余裕のある法人以外はこれら取組ができないことになってしまいます。長い目でみていかなければならない地域福祉において、予算に余裕のある法人にプレーヤーを限定することにメリットはありません。

正解 2

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