ソーシャルワークから見た「成年後見人等に付与される権限」

11権利擁護と成年後見制度
今回のポイント
成人であれば誰にでも自由権を最大限に認める民法の立ち位置を改めて確認する
・成人の自由権を制限する、成年後見制度の条件を整理する

問題81 次のうち、成年後見制度において成年後見人等に対して付与し得る権限として、正しいものを1つ選びなさい。
1 成年後見人に対する本人の居所指定権
2 成年後見監督人に対する本人への懲戒権
3 保佐人に対する本人の営業許可権
4 補助人に対する本人の代理権
5 任意後見監督人に対する本人の行為の取消権

社会福祉士国家試験 第33回(2021年)より解説

この科目の問題構成の流れをもう一度確認してみましょう。

問題77で、財産権という考え方を通して、市民には財産に関する自由が権利として認められているが、「公共の福祉」による合理的裁量の下で制限されることもあることを確認しました。もちろん、「公共の福祉」と社会福祉が密接につながっていることはソーシャルワーカーを目指すものにとっては大前提です。

それを踏まえ。

問題78で、賃貸借契約でも、連帯保証人含め合理的な観点によって、民法は市民の権利をできるかぎり守ろうとしていることを知りました。

それを踏まえ。

問題79で、そんな民法だから、遺言についても、15歳以上であれば権利として遺言が残せるようにしたうえで、被後見人だけは本人の意思が確認できる条件をつけて守ろうとしていることが確認できました。

それを踏まえ。

問題80では、社会福祉サービス利用者はその利用において他の利用者から損害を負わされたとしても、サービス事業者に損害を賠償させる権利を民法が認めていることを、具体的な事例を通して、確認できました。

そのうえで。
これら社会福祉の制度やサービスを利用する人を守るものとして、成年後見制度があるわけです。そして、この成年後見制度は科目名に入っているほどに重要です。ですから、単独問題としても例年7問中3問~4問は出題されます。

今回の第33回ではこの問題81から問題83までの3問が成年後見制度の単独問題になります。ただ、問題79でも被保佐人について聞かれ、かつそれが正解になっていますので、第33回は成年後見制度から4題出題されたということもできるでしょう。

ということで、成年後見制度を制する者が「権利擁護と成年後見制度」というこの科目を制すと言ってもいいぐらいです。

問題81は、成年後見制度に関わる名づけが多々出てきますが、どれも必須のものばかりです。この問題がスラスラっと解ける程度には、成年後見制度をしっかり学んで国家試験に臨みたいところです。

選択肢1 ×

ここでいう「本人」とは成年被後見人のことです。つまり、この制度の対象者です。
その対象者に、成年後見人が民法で定められた範囲で、本人の行為を代替・サポートする、これが成年後見制度の骨格です。

ここでは、民法で定められた範囲の、その具体的な内容が聞かれているわけです。

さて、この選択肢で出てくる「居所指定権」ですが、成年後見制度を学んでも、そんな権利は聞いたことがないはずです。
それはそうなのです。
なぜなら、そんな権利を成年後見人は持っていないからです。

こういう論理で、問題に攻めてこられると途端に頭を抱える人がいます。

「あれっ?たまたま私が学んでいないだけかな?抜け落ちがあったかな?」

なんて思って頭を抱えてしまうのです。

ただ、そのあたりは国家試験も意地悪ではないので、字面で成年後見人が持つわけない権利と分かるように示しているはずなのです。
裏を返せば、このあたりの国家試験の誘導に気づくことができれば、そこまで勉強しなくても国家試験に合格できるのです。

「居所」とは、住むところですよ。
ですから、「居所指定権」とは「住むところを指定する権利」ということです。

それが成年後見人にありますか?
そんなもんを成年後見人がもっていては、成年被後見人にとっては、住むところが成年後見人に指定「される」ことを民法が許していることになりますよ。

どう思いますか?

成年被後見人は判断能力に欠くのだから、居住するところを指定されることによって、国家権力が民法という法律を通して守ってあげるようにすること、それが「合理的」と言えますか?

この問いへの答えを導くのが、問題77~問題80までです。実際、問題77~80まで、全部「民法」の話じゃないですか。
そして、この4題を使って、国家試験は「民法が積極的に市民の自由を認めている」ことを示しているのです。

他人の自由を侵す最低限を「公共の福祉」の名のもとに制限することはあっても、社会的に生きづらさを抱える人だとしても、その自由を最大限に認めるのだ、というのが民法の立ち位置なのです。
その典型として、問題79で、被保佐人の遺言は保佐人の同意なく作成することを権利として民法は認めているのだ、と国家試験は具体的に例示しているのです。

ただし、被後見人となった場合、遺言の作成は条件付きで認めていることを先に確認しましたが、「どこに住むかを決める権利」についてはどうですか?というのが問題81です。

「遺言」は本人が死んだ後の話です。
一方で、「居所」は本人が生きるうえでの生活を支える土台です。
どこで誰と住むか、これは未成年であれば親権者に指定されるのはやむを得ないとしても、成人したものであれば、どんな人に対しても認められなければならない権利です。
※未成年に対して親権者が居住指定権を持つことは民法第821条で規定されています。

どこで誰と住むかを自由に決める権利、これは日本だけでなく、「人権」を認める民主主義国家ならば、成人に誰にも認められるべき権利です。

「本人が選ぶ」ことと「本人に指示する」こと

この手の問題を解くと、こんな質問をされることがあります。

成年被後見人の定義を「判断能力に欠ける」という定義をしている以上、実際には居住は誰かが決めてあげなきゃダメなんじゃないですか?

よくある質問です。
ただ、法的には「誰かが代理して決める」ことと「指定する」こと、この二つは分けます。
実際の場面では、この二つが同じに見えることがあるかもしれません。しかし、それはそう「見える」のであり、そう見えるからといって、この二つが「同じ」というのは違います。
本人の「判断能力が欠ける」と法的に定義されたとしても、その本人の意思を尊重し居住先をいっしょに決める(=本人が選ぶ)、そのような鋭意を否定することはあってはなりません。

選択肢2 ×

「懲戒権」なんてものも、これまた選択肢1と同様に、成年後見制度で見たことがないと思います。なぜなら、これもまたそんな権利は成年後見制度と関係がないからです。

懲戒権は、組織の上では、その組織内の制度において認めている場合もあるでしょう。たとえば会社の定款などで、遅刻等に対してペナルティ(=懲戒)を与えることなどはあります。

ただし、民法は、そのような組織内の懲戒などを規定するものではありません。

民法は、社会の中での私人間の争いに対して、私人間では解決できない場合に、社会の安寧安定のために、国家権力が強制力を持って解決を図るためにある法です。

すると、私人間で懲戒なんてことが認められているのは、選択肢1同様に、親子間(=正確な言い方をすれば親権者もしくは未成年後見人が未成年に対して)だけです。
ただし、その親子間でも、懲戒についての考え方は、子どもの人権という考え方から、ここ20年ぐらいはいろんな議論がなされていることぐらいは知っておかないとダメですよ。※民法822条

ちなみに「成年後見監督人」とは、「後見人の後見事務の監督」ですから、成年被後見人に対しての権利を持つわけではありません。この観点からこの選択肢に×をつけることもできるでしょうね。

選択肢3 ×

これも選択肢1,2と同様で、成年後見制度の勉強をしていて、「営業許可権」なんてものは出てこないはずです。そりゃそうなのです。被保佐人も含め、成人には自由に「営業許可権は」認められているんですから。

これは、問題77の財産権や問題79の遺言を書く権利といったものから、この科目の問題で一貫して国家試験が伝えていることですが、成人であれば、どの自由権も認められるのです。これが民主主義国家の、大原則なのです。

だから、規制をかけられる例外だけしっかり覚えればいいのです。すると、成年後見制度で覚えるのは、規制をかける例外であり、それ以外は、被後見人だろうが被保佐人だろうが被補助人だろうが、すべて権利として民法は認めている、そういう覚え方をすればいいのです。

選択肢4 〇

これは絶対に覚えておかなければなりません。
この選択肢を見て即〇をつけられるぐらいに、成年後見制度については知っていないと、この科目はきついです。
(逆に、この選択肢に即〇をつけられるぐらいに成年後見周辺をやれさえすれば、この科目では確実に3点は取れます。)

代理権とは、選択肢1の居所指定権や選択肢3の営業許可権といった、個別具体的な権利とは異なり、「決められた法律行為について代理することができる権利」という意味での包括的な権利と言えます。

問題文のタイトルに「付与し得る権限」という表現になっているのがわかりますか?
この一見するとまどろっこしい表現のタイトルの意味するところは、代理権が、補助人であれば被補助人に対して最初から持っている権限ではないからです。

民法第876条の9による代理権付与の申し立てがあって、家庭裁判所によって、特定の法律行為に対して代理権が認められて、初めて、その特定の法律行為限定で、補助人に被補助人に対する代理権が認められるのです。

このあたりは、成年後見制度の最低限の知識です。このあたりがよくわかっていない場合は教科書等でしっかり整理しておきましょう。

成年後見制度における代理権
代理権=本人に代わって契約などの法律行為を行う権限
→後見人/保佐人/補助人が行った行為に関して、本人が行った行為として扱われる<違い>
後見人:広範囲な代理権が初めから付与されている
保佐人と補助人:家裁に申し立て、認められた範囲での代理権が付与される

もしくは、この選択肢4に即〇ができなくても、民法の考え方さえしてていれば、他の選択肢に確実に×にでき、結果として、選択肢4を〇にすることもできるように、この問題は作られています。

選択肢5 ×

これも選択肢4同様に、絶対に覚えておかなければなりません。この選択肢を見て即×をつけられるぐらいに、成年後見制度については知っていないと、この科目はきついです。

任意後見人は、本人がまだ判断能力がある段階で、判断能力が不十分になった場合に、ある特定の行為に限り、代理権を付与することを契約をしておくのです。ですから、任意後見という段階で、取消権なんてものが出てくるはずがないのです。

成年後見制度における取消権
取消権
法律行為の取消しをすることができる権利
→ただし取消権は自由権に反するため原則認めない。
それ以外の選択がない場合のみに限定して認めるという発想が前提。
→後見人と保佐人にのみ認められている<違い>
補助人:原則として認められない
保佐人:民法13条1項で定められた法律行為のみ取消権を認める
(※その他の法律行為で、必要があれば、家裁に申請し認められることも)
後見人:広範囲な取消権を認める

※よって任意後見制度で取消権なんて話は出てこない

正解 4

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