・「健康」という概念を一度疑ってみる。
・「健康」という概念が必要とされた背景を押さえる
問題3 健康の概念と健康増進に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 WHOは,健康を身体的,精神的,社会的,スピリチュアルに良好な状態と定義した。
2 「健康日本21」は,一次予防を重視している。
3 健康増進法は,生活習慣病対策を含まない。
4 健康増進は,一次予防には該当しない。
5 健康寿命とは,平均寿命を超えて生存している期間をいう。
社会福祉士国家試験第33回(2021年)より解説
第33回問題2の解説で、ソーシャルワークにおける〈健康〉という概念の指し示す意味について言及したところですが、すかさず問題3のタイトルは「健康」についてです。このように論理的に問題を解いていくと、国家試験にはそれぞれの五肢択一の問題の中のみならず、問題の順番にさえも論理的な構成が読み取れることが多々あります。それぐらい、国家試験の問題構成はかなり丁寧に練られているのです。だから、その論理に乗っかりさえすれば正解は勝手に導かれるのです。ですから、試験勉強だって、過去問を丁寧に読み込み、その論理を国家試験に教えてさえもらえば、覚えるべきことも減るのです。
選択肢1 ×
問題2でも述べたように、ソーシャルワークにおいて〈健康〉という概念はとても重要です。なぜなら、「医療」や「保健」という制度が目指す「健康」という概念から外れる人をもソーシャルワークは射程にするのだから、「医療」や「保健」がどのように「健康」を定義しているかを知っておかなければ、それらの領域との連携ができないことになるからです。今日の社会福祉は、制度上も施設ではなく地域での生を支えようとするため、「医療」と「保健」との差異が小さくなっています。だからこそ、これらの領域の見方・考え方はしっかり押さえておかないといけません。なかでも「健康」概念は「医療」「保健」にとって中核となる概念です。
では、「健康」とは何か?
ということで、WHO(世界保健機関=は、国際連合の専門機関)の定義は知っておかないといけません。
これは、1947年に採択されたWHO憲章による健康の定義です。ただ、戦後すぐの定義ゆえ、定義の改正の機運も過去にはありました。それが、選択肢にある「スピリチュアル」という概念の追加で、1999年の総会で提案されたのですが、採用されませんでした。
ということで、〈健康〉という概念がソーシャルワークという見方・考え方からとても重要であること、そして、WHOという国連機関に「健康」の定義があることぐらいは踏まえ、上述したことぐらいまでは押さえておきたいところです。
選択肢2 〇 選択肢3 ×
「健康日本21」は、カギカッコに入れているにもかかわらず、注がありません。ということは、「これは覚えなければならないよ」と国家試験が教えてくれているのです。
さらに言えば、選択肢1でWHOを出しておいての、選択肢2で「健康日本21」ですから、国連の「健康」概念を踏まえたノリと、日本の「健康」概念を使ったノリをつなげておきなさいよ、とも国家試験は言っています。ということで。
<「健康」概念の政策への影響>
1947年 WHO憲章、1948年(国連)世界人権宣言
※ここでの人権は、第2次世界大戦踏まえ、最低限度の人権や健康の強調
1960年代 社会運動の時代(全世界):正しい人権、正しい健康といった「正しさ」の否定
↓影響
1978年(WHO)アルマアタ宣言→影響:1978年(日本)第一次国民健康づくり対策
スローガンは「プライマリー・ヘルスケア」「2000年までに世界中全ての人に健康を」
※世界中の人に「健康」を目標にすることから、「予防」という発想が強調されだす
↓展開(12年後)
1986年(WHO)オタワ憲章→影響:1988年(日本)第2次国民健康づくり対策
スローガンは「ヘルスプロモーション」※健康を自らコントロールし達成するプロセスの強調
↓12年後
2000年(日本)健康日本21→影響:2002年(日本)健康増進法
↓12年後
2012年(日本)健康日本21(第二次)
「健康日本21」は一次であれ二次であれ、「予防」を強調していることは当然です。ただ、その「予防」という概念には、一次/二次/三次予防まであること、これも国家試験は覚えなさいと言っています。
ということで
<予防の類型>
一次予防:健康増進、発病予防
二次予防:疾病の早期発見・早期治療
三次予防:再発予防、疾病の悪化、リハビリテーション
一次予防は、世界中の人が健康になるための大前提となる考え方です。アルマアタ宣言あたりから、強調される「予防」に一次予防が含まれるのは当然ですね。だから、「健康日本21 」でも一次予防は強調されていますし、その二年後の健康増進法には、一次予防としての生活習慣病対策が入ってくるのは当たり前のことです。
選択肢4 × 選択肢5 ×
選択肢1、2 、3を踏まえ、選択肢4と選択肢5は、それら背景のなかで政策上使われている、「予防」という概念を支える下位概念としての用語(=「健康増進」、「健康寿命」)に関する選択肢です。ということさえわかれば、健康増進は,一次予防に該当しないわけがないし、健康寿命が「平均寿命を超えて生存」することを強調するような概念であるはずがありません。
正解 2