・不服申立てについて、苦情と対比して、理解する
・審査請求前置主義について、その理屈とセットで理解する
問題66 生活保護法に定める不服申立てに関する次の記述のうち、正しいものを1つ選びなさい。
1 不服申立てが権利として認められたのは、旧生活保護法(1946年(昭和21年))制定時においてである。
2 審査請求は、市町村長に対して行う。
3 審査請求に対する裁決が50日以内に行われないときは、請求は認容されたものとみなされる。
4 当該処分についての審査請求を行わなくても、処分の取消しを求める訴訟を提起することができる。
5 再審査請求は、厚生労働大臣に対して行う。社会福祉士国家試験 第33回(2021年)より解説
不服申立てについては、生活保護法の不服申立て含め「権利擁護と成年後見制度」という科目でも出題されます。「権利擁護と成年後見制度」という科目は、もともと旧カリキュラムでは「法学」という科目名でした。それを引き継いでいるので、この科目では、法律に基づいた制度全般を扱うために、そのようなことになっています。
では法律全般で共通する不服申立てとは何でしょうか?不服と苦情を対比して考えると分かりやすいので整理してみましょう。
共通性
納得がいかず不満なことについて、司法(裁判)の手前で解決を図る違い
〇苦情:相手が業者(主に民間)(構図:私人VS私人)
→ 原則は業者が苦情処理(社会福祉法による)
→ それでもうまくいかないとき運営適正化委員会(都道府県社協)が間に入る
→ それでもうまくいかないときは裁判
〇不服申立て:相手が行政(構図:行政VS私人)
→ 上級の行政に解決をお願いすること=「審査請求」
例
・市町村へ不服なら、都道府県へ審査請求
・都道不変毛不服なら、国へ審査請求
→それでもうまくいかないときは裁判
不服申立ての例として。
生活保護は福祉事務所(=行政)が判断するわけですが、「俺は生活保護もらえるはずなのに、もらえないのはおかしい!」と福祉事務所の判断に不満を持つ場合、相手は行政なわけです。そこで福祉事務所を市がやっているなら、都道府県が「至らないことが部下にありましたでしょうか?」と上司づらして出てくる、これが審査請求。それでも揉めてどうにもならなければ、司法(裁判所)が介入、ということになります。
一方で、苦情の場合は、利用者が「こんな支援の仕方がおかしい」とサービスの内容に不満を持つ場合、相手はそのサービス事業者(=主に民間)なわけです。だから、利用者(=私人)と民間(=私人)の争いです。私人と私人の争いに、行政権力が介入するのはおかしいのです。私人と私人の争いに権力をもって介入することが許されているのは司法権力(裁判所)のみです。ただ、日本の裁判制度は、まー、時間もかかるし金もかかる。そこで、裁判の手前で落としどころをつける仕組みとして、民間である都道府県社協が間に入るのです。で、たいてい都道府県社協に運営適正化委員会という部門があり、そこが仲直り?のあっせんをするということになります。ただ、あくまで「あっせん」止まりであり、命令的のことはできません。民間ですから。なので、どっちも譲らなければ、もうこれは司法(裁判所)に入ってもらうしかありません。
これぐらいの整理をしたうえで、さぁ選択肢を見ていきましょう。
選択肢1 ×
西欧でいうところの「救貧法」的な流れを汲んでいた戦前の日本の恤救規則や救護法は、国による恩恵といったニュアンスが強いものでした。ですから、不服申立てなんて仕組みは全くありません。戦後の混乱処理としてできた旧生活保護法ですが、その流れから不服申立てを認めていませんでしたが、GHQの指導等もあり、不服申立てを認めることなどを前提に新たに組みなおしたのが新生活保護法になるわけです。
このあたりの戦後の生活保護法関連の歴史は押さえておいたほうがいいので、私なりに整理してみました。参考まで。
選択肢2 ×
選択肢3 ×
じゃあ、50日たって何も連絡が来なかった場合、どう解釈するかということです。
返信が来ないことを、「その不満を受けいれます」という判断だったと受け取ることは常識的にもありえないでしょう。実際、50日以内に採決がなされなかった場合は、その請求が棄却された(=福祉事務所の判断が正しいと判断)とみなします。
選択肢4 ×
「処分」という用語で引っ掛かってしまう人がいます。これ、行政用語です。日常の意味とは異なります。
行政の判断について「おかしいなぁ」と思うことが不服で、それを申し立てるのが不服申立てで、上位の行政に不服申立てをするが審査請求。ここまでは大丈夫ですね。
不服申立てについて定めている法を「行政事件訴訟法」と言います。
行政事件訴訟法には、行政による処分について審査請求ができる場合でも、いきなり裁判に訴えることも「原則として」可能だと書いています。(行政事件訴訟法第8条)裁判に訴える権利もまた市民の自由権の1つだからです。なぜなら、裁判に訴えることに制限をかけることは市民の自由に制限をかけるのと同等だからです。これを「自由選択主義」と言います。
ただし、「原則」である以上、例外があります。審査請求前置主義(不服申立前置主義)と言って、「審査請求をしないで、いきなり裁判に訴える」ことが認められないものが一部あるのです。9つあるのですが、そのなかの1つが生活保護法に関する行政の処分です。
・労働者災害補償保険法(労災保険給付に関する決定)
・健康保険法(被保険者の資格、標準報酬又は保険給付に関する処分)
・厚生年金保険法(被保険者の資格、標準報酬又は保険給付に関する処分)
・生活保護法(生活保護の決定及び実施に関する処分)
裁判に訴える自由を市民は持っていますが、上述のものはすべて緊急性が高く早急に処置したほうがいいものばかりなわけです。日本の裁判は時間がかかりますし、これらの専門的な判断は行政のほうがもっているので、具体的な決定の適正について早急に判断するなら、裁判以前にまずは行政にやらせよう、という理屈です。