ソーシャルワークから見た「生活保護受給者の動向」

09低所得者に対する支援と生活保護制度
今回のポイント
生活保護の受給者の人数に関する近年の傾向その背景を知る
・保護理由や種別等の人数について、それぞれの特徴から推測ができるようにする

問題63 「生活保護の被保護者調査(平成30年度確定値)」(厚生労働省)に示された、2018年度(平成30年度)における生活保護受給者の動向に関する次の記述のうち、正しいものを1つ選びなさい。
1 被保護実人員(保護停止中を含む)は、1995年度(平成7年度)の時点よりも増加している。
2 保護率(人口百人当)は、16.6%である。
3 保護開始の主な理由は、「傷病による」の割合が最も多い。
4 保護廃止の主な理由は、「働きによる収入の増加・取得・働き手の転入」の割合が最も多い。
5 保護の種類別にみた扶助人員は、住宅扶助よりも教育扶助の方が多い。

社会福祉士国家試験 第33回(2021年)より解説

今回から7問が「低所得者に対する支援と生活保護制度」になります。

この科目の最初の問題だからこそ、この科目の中核となる「生活保護」の現在の受給者動向を確認したうえで、その現状と課題から始めよう、というわけです。

ここで提示される現状と課題がすんなりわかれば、その後の問題で問われるであろう「それにどう対応するか、それにあたって何が制度として必要と考えられるか」に応えやすくなるわけです。

だから、科目ごとの第1問目は丁寧に解きたいところです。

さて、そんな現状を把握する上で、厚生労働省が公開している「生活保護の被保護者調査(平成30年度確定値)」の概要は読み易いものになっています。これを機会にざっと見てみてもいいかもしれません。

ただ、それらを見ていないとしても、この問題は、ソーシャルワークで知っておくべき基本的事項のみで解けるものしか出題されていませんのでご安心を。

選択肢1 〇に近い△

「被保護実人員」とは生活保護の受給者の人数ですね。「被保護」という言葉がわからない人がいるかと思います。

社会福祉で出てくる「被保護」
=(低所得の文脈であれば)生活保護を受けていること

つまり、この選択肢では、生活保護の受給者の人数の変遷を聞いているわけです。

このような社会福祉の制度を使う人の人数の変遷が聞く場合、ここ3,4年ぐらいは、ある大前提とされる傾向があるんです。

どういう傾向かというと
市民一人一人の生活実感上はより課題が増しているが、一方で、アベノミクス効果により経済的には日本全体はアゲアゲである
という傾向です。

生活実感は変わらないどころかどんどんひどくなっているそんな実感があるにもかかわらず、経済席な指標でみると、ここ3,4年は軒並みアゲアゲなんです。

これが社会福祉にどう関わるかというと、社会福祉の数字的な指標となるものも、ここ3,4年で好転しているんです。その典型が、生活保護の受給者数です。この数字は、経済の景気に大きく左右されるからです。

そのことを具体的に示す数値として。
日本で生活保護受給者数が過去最低だったのは1995年で、約90万人まで減少しました。

もちろん、高度経済成長→バブル景気等々がありましたし、バブルは90年前後に終わったとされますが、その残り香的なものがありましたし、「また好景気がくるだろう」なんて雰囲気が90年代前半ぐらいまではありました。その結果として、95年ごろまで生活保護受給者は減っています。

ところが、1990年代後半からがずーっと上がっていきます。なぜなら長期不況に入り、もうどうにもならないな、と市民みんなが実感し始めたからです。

2000年代以前は、何でもかんでも社会福祉の制度を使おうと言う発想は、市民にはかなり希薄でした。特に生活保護は。そんななかで、未来に展望が見出せなくなると、もう社会福祉に頼るしかないかな、という気分になっていきます。

ただ、生活保護を希望するのと、実際に生活保護が通るかは話が別です。ただし、90年代後半ごろから、高齢化も一気に進みだすわけです。

生活保護の通りやすさ
非高齢者よりも高齢者のほうが申請は通り易い
理由 「働く」(「働くための訓練をしてもらう」こと含め)という発想が生じないから

生活保護関連では、その申請理由によって、①高齢者世帯、②障害者・傷病者世帯、③母子世帯、④その他世帯で分けて(=類型化して)、継続して統計をとっています。その割合を見てみましょう。

生活保護世帯の類型
高齢者世帯 約55%(※半分以上!)→うち単身世帯が50%
障害者・傷病者世帯 約25%
その他世帯 15%
母子世帯 約5%

もともと、生活保護受給者は高齢者、特に単身高齢者が多くて、その割合も高齢化に伴いぐいぐい上がってるんです。

ところがです。

アベノミクスうんぬんで、実態上はその成果をあまり感じない市民がほとんどですが、日本全体の統計上は、いろんなところに数字で出ていて。生活保護についても、ずーっと増加し続けていたのが、2015年度以降は減少に転じたのです。

ということで、現状は全体で約210万人(2018年度)ぐらいは覚えておきましょうか。

ただし、この傾向は、コロナ騒動によって、大きく転換するはずです。なので、今後は提示された統計上の数字が、コロナ騒動以前か以下か、問題文でしっかり確認する必要があります。

選択肢2 ×

「保護率」という言葉も、社会福祉になじみがない人にとっては全くわらないと思います。

保護率
全人口あたりの生活保護受給者の割合

どれぐらいいると思いますか?もちろん、これも時代によって変遷がありますが、選択肢にある10パーセントということは、小学校のクラスで10人に1人は生活保護というイメージです。(小学校のクラスで例えたのは、会社とかの組織にすると、会社で働いている時点で生活保護受給者ではないでしょうし、小学校というのがわれわれの生活感覚で、収入に係らず雑多に子どもが集まる場だからです。)ちょっと多すぎるなってイメージないですか。そう、10人に1人だと多すぎなんです。だいたい、100人に1人~2人ぐらいの間ですね。

実際はどうかというと、2018年度の保護率は1.66%です。厚労省のHPにもこんな表が載っています。この10年は1.3%~1.7%ぐらいで推移してますね。そんなもんです。

選択肢3 ×

選択肢1で見たように、高齢者世帯約55%ということを確認しました。
じゃあ、そんな高齢者含め、生活保護を申請する契機ってどんなものが多いと思いますか

選択肢に「傷病による」とありますが、こういう問題、つまり他の選択肢が提示されていない場合には、他の選択肢を推測する力が必要になります。
ただし、ここで考えなければならないのは、前回の問題62でもやったように、調査等の数字で上がってくるものが現実そのものではない、ということです。

保護開始の主な理由、つまり最初の時点でどういう理由で生活保護が認められるか、ということと実際に生活保護受給者が何に困って申請するか、は異なります
さらにいえば、生活保護のワーカーも、本人の困り感をそのまま上げるのではなく、生活保護という制度に沿った理由付けをすることで、本人が生活保護を受給できるようにするわけです。

傷病であれば、社会福祉には障害関係や医療関係の制度があります。だから、傷病そのものが直接的に生活保護の申請になることは、そこまで多くはないはずなのです。それよりも、生活保護を通す際の第一の要因は、やっぱりお金です。お金がない。そこに尽きるのです。すると、「お金がなくなった」とか、「会社が倒産した」とか「急に給料が減った」とか、そういうお金に直結することを理由にすることがほとんどだろうと推測がつくわけです。

では、2018年度はどうなっているか見てみると。

保護開始の主な理由(2018年度)
「貯金等の減少・喪失」38.8%
「傷病による」23.4%
「働きによる収入の減少・喪失」19.3%

案の定、お金に関する理由が1位と3位で、あわせて6割ぐらいになってますね。

選択肢4 ×

選択肢1で、生活保護世帯の類型では高齢者世帯が約55%と確認しました。大半が高齢者ということです。だとすれば、保護が終了する理由も「収入の増加」以外に推測がつくはずです。

そう、死亡ですよ。

保護廃止の主な理由(2018年度)
死亡」41.5%
「収入の増加」17.7%
「失踪」6.2%

選択肢5 ×

生活保護の扶助の種類は8つあります。これはソーシャルワーカーたるもの全部言えなきゃダメですよ。厚労省のHPのこのページに簡単な解説が書いてあります。

生活保護の扶助の種類
①生活扶助
②住宅扶助
③教育扶助
④医療扶助
⑤介護扶助
⑥出産扶助
⑦生業扶助
⑧葬祭扶助

この中で、どれが多いと思いますか?高齢者が半数以上ということは、それも単身の高齢者ほとんどということは、単身の高齢者が使いやすいものから上げていけばいいわけです。
すると、生活扶助、住宅扶助、医療扶助、この3つは鉄板ですね。

それ以外には、介護扶助も多いと思う人がいるかもしれませんが、実際に介護保険の制度をつかって介護を受ける割合って、実際上でもそう多くはないのです。実際に買い保護権の介護を使う期間なんて2年とかそんなもんですし、介護使わずに急に亡くなる人だっていますし。すると、生活扶助、住宅扶助、医療扶助ほどは多くはないだろうな、と想像がつきます。

じゃあ、選択肢にある教育扶助はどうですか?教育扶助ってそもそもどういう場合に使えるのですか?厚労省のページに「義務教育を受けるために必要な学用品費」って書いてますね。

つまり小中学校がいる世帯限定なんです。
選択肢1を見てもわかるように、母子家庭の子とか、あとは障害児や障害者の子とか、そういう世帯で、その子が小中学校のとき限定で使われます

すると、生活保護受給者は、高齢者(単身がほとんど)が半分以上なのですから、これらの限定がつくと、当然、他の生活扶助や住宅扶助、医療扶助といった高齢者単身世帯が使うであろう扶助に比べると一気に少なくなるわけです。

だから、教育扶助の人員が最も多いなんてことはありえないんですよ。

生活保護の主な種別ごとの人員(2018年度)
生活扶助 約185万人、住宅扶助 約180万人、医療扶助 約175万人
(3トップだいたい同じぐらい:単身高齢者のほとんどが使うから)
↓ そこからぐっと下がって
介護扶助 約40万人
↓ そこからさらに下がって
教育扶助 約10万人

正解 1

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