問題47 事例を読んで、介護保険事業計画に関する次の記述のうち、最も適切なものを1つ選びなさい。
〔事例〕
P県Q市の介護保険課に勤めるEさんは、次期Q市介護保険事業計画を策定するための担当者に任命されたので、法令上遵守すべき点を確認した。
1 介護保険事業計画を通して算定される介護保険料の伸び率を3%以内に抑えるため、介護サービス全体の見込量を勘案して、Q市の計画を策定するよう努めなければならない。
2 被保険者全体の意向を踏まえる必要があるので、20代の若者の意見を反映させるために必要な措置を講じなければならない。
3 Q市の計画に盛り込む各年度における地域支援事業の量の見込みについては、P県に計画策定前に意見を聴かなければならない。
4 Q市の計画には、介護予防・日常生活支援総合事業に関する市町村相互間の連絡調整を行う事業に関する事項を盛り込まなければならない。
5 計画期間が終了後、Q市では市町村介護保険事業計画の実績に関する評価を実施するよう努めなければならない。社会福祉士国家試験 第33回(2021年)より解説
さて、第33回の「福祉行財政と福祉計画」は、最初の3問が「行政の福祉施策」にまつわるもので、次に1問だけ「行政の福祉財政」にまつわるもの、そして最後の3問が「行政の福祉計画」って分け方になってますね。
ということで、問題47は「行政の福祉計画」にまつわる問題です。
問題46でみたように、この科目では、行政による施策・財政・計画の三点から、国/都道府県/市町村の違い(=役割分担)について学んでいくわけです。だから、この問題47では、一見すると事例を通して市町村介護保険事業計画について聞いているように見えますが、実は、福祉計画における都道府県と市町村の役割分担について聞いているわけです。
選択肢の文章は、すべて「〇〇なければならない」で終わっていますね。ただ、この表現は、法律上では二つの意味に分けられて理解されています。
→必ずやるんだぞ。やらないとペナルティもあり得るかんなー!というニュアンス
努力義務:「〇〇に努めなければならない」
→できるんであれば、頑張ってやってねー。やったらやったでご褒美上げるかもしれないよー!というニュアンス
同じ義務でもニュアンスが全然違うでしょ。だったら、ソーシャルワーカーたるもの、行政と頻繁にかかわるのですから、義務と努力義務は分けて覚えておかないといけませんよ。と、国家試験が言っているのです。
ということで、しっかり理解し整理して覚えておきたいところです。
選択肢1 ×
介護保険という制度の発想の根本ってなんですか?
「どんな高齢者でも、契約制度を使って地域で生きられるようにします!」
このことを、介護保険料を払ってる市民に伝えたうえで、介護保険の利用料を払ってもらってるわけじゃないですか。だとするならば、「予算」が先ではなくて、「(すべての高齢者が地域で生きるための)必要度」が先でなきゃダメじゃないですか。なぜなら、予算が先だと「予算が足りないもので、すいません、すべての高齢者は地域で生きられません」なんてことになりかねないからです。
ですから、「介護保険料の伸び率を3パーセントに抑える」なんて、いかにものことを言ってますけど、これ、結局は予算上の都合じゃないですか。それを先に持ってきて、見込み量(=必要と見込まれる量)を算出するなんて、介護保険という制度趣旨からして考えられないことですよ。
もちろん、実際には予算削減を前提に何か制度が組まれることなんかはざらにありますよ。介護保険でも予算が先で必要度が後になってるじゃないかな、なんて思われる改正はありますよ。でも、だからといって、制度上の仕組みにおいて、それを平気でこのような見方を前提にした言い方をし始めたら、介護保険制度なんて誰も信じなくなり、「介護保険代なんて払いたくない」なんて市民が増えます。
介護保険は社会保険である以上、実質的に強制ではありますが、市民からの信頼があっての制度です。だから、その辺の表現の仕方や、制度の仕組みをどういう立て付けにするか、そこはとても大事なところなんです。
選択肢2 ×
これは即×ですね。
=介護保険によるサービスの提供を受けられる人のこと
①65歳以上の第1号被保険者
②40歳〜64歳までの第2号被保険者
20歳以上の意見を聞くなんて発想は面白いですが、そもそもが被保険者ではないので、20代では「被保険者の意向」という選択肢の表現と矛盾します。
だから×ということになります。
選択肢4 ×
「市町村相互間の連絡調整」って表現を見て、私の中で、ぱっと思い浮かぶワードがあるんです。
「広域性」ってワードです。これ、都道府県の役割を語るときのキーワードです。このあたり、問題44でやりました。覚えてますか。
ということで、選択士4の内容は都道府県の計画の役割ですね。
選択肢5 ×
市町村の介護保険事業計画というのは、数値目標も入れ込んだ具体的な計画です。数値目標を入れるってことは、評価を前提に計画を作るってことですよ。
だとするならば、「実績に関する評価」の「実施」が努力義務なんてことはありえなくて、義務ですよ。
選択肢3 〇に近い△
介護保険が社会保険であるっていう発想から、介護給付・予防給付のサービスについては、全国一律にしようっていう考え方がけっこう強いです。というのも、40歳以上であれば、同じ額の介護保険代金を一律に社会保険と称して強制的に引っこ抜かれているわけですから、地域による差を持たせることは制度上は望ましくないのです。
それに対して、地域支援事業というのは、介護保険の枠内でありながら、介護給付・予防給付のサービスよりも、公費を多めに投入して、地域にとって必要なものを創意工夫でやっていこうっていうそういう発想によって成り立っています。この発想をスローガン的にいうと「地域包括ケアシステム」ってことになるわけです。
ただ、そうすると、要は地域支援事業をどれだけやるかどうかについて、市町村に強制できないってことになります。地域支援事業は、市町村判断の部分が大きいのです。すると、市町村の財政状況等々によって、地域支援事業を積極的にやる市町村とそうではない市町村にわかれます。国としては、できる限り全市町村に対して積極的に地域支援事業をやってほしい。とはいえ、国として強制しては、地域の創意工夫という発想になりません。
そこで都道府県の役割なんです。市町村に対して都道府県に指導させようっていう、そういう考え方にいたるんです。実際、2019年度からは「取り組みが不十分な市町村が管内に多い」都道府県を厳しく評価する仕組みも導入されています。厳しい評価を避けるために、都道府県には積極的に市町村支援を行っていくことが期待されているわけですが、さてどうでしょうかね。その成果はもう少し見ないといえないでしょうけれども。
ということで、このへんの背景や考え方を理解していれば、市町村の各年度における地域支援事業の量の見込みについて、県に計画策定前に意見を聴かなければならない、というのは当然ということになります。
正解 3
選択肢3 ×
「地域支援事業」というカテゴリーの予算上の特徴ってわかりますか?「介護給付・予防給付」というカテゴリーと対比して覚えるんでしたね。
<予算から見た地域支援事業の特徴>
介護給付・予防給付:義務的経費 ※個別給付
地域支援事業:裁量的経費 ※市町村が一括で予算化
地域生活支援事業の詳細は「高齢」の科目の解説に譲ることにしますが、この二つのカテゴリーの違いは大事です。
介護給付・予防給付によるサービスは、Aさんという高齢者が実際にサービスを使ったら、Aさんの介護にかかった具体的な費用について、本人負担分以外は、介護保険や公費で必ず義務としてまかなわれます。「義務として」というのは、Aさんがサービスを使ったサービス分のどれぐらいの割合を国/市町村/都道府県、どの割合で負担するか含め決まっていて、必ず国/都道府県/市町村はその割合で払わないといけないということです。もし予算が足りなくなったとしても、借金をしてでも払います。これが義務のニュアンスです。逆に言えば、Aさんが利用した事実がなければ何も支払われない、ということです。
こういう考え方を個別給付と呼び、行政が義務として払うことを負担金形式なんて言いますが、このあたりは問題43でやりました。忘れた人は問題43の解説で確認してみてください。
さて一方で、地域支援事業は、裁量的経費などと呼ばれます。
<包括的支援事業及び任意事業>
地域支援事業のうち包括的支援事業及び任意事業に要する費用は、23%を第1号被保険者の保険料、77%を公費で負担します。
(注)「包括的支援事業」は、いきいき支援センターにかかる運営経費や、在宅医療・介護連携推進事業などにかかる経費です。
「任意事業」は、認知症対応型共同生活介護家賃等助成事業、シルバーハウジング生活援助員派遣事業、成年後見制度利用支援事業、家族介護支援事業などにかかる経費です。