ソーシャルワークから見た「各国の社会福祉や社会保障の現状」

04現代社会と福祉

問題27 各国の社会福祉や社会保障の現状に関する次の記述のうち、最も適切なものを1つ選びなさい。
1 アメリカの公的医療保障制度には、低所得者向けのメディケアがある。
2 スウェーデンの社会サービス法では、住民が必要な援助を受けられるよう、コミューンが最終責任を負うこととなっている。
3 ドイツの社会福祉制度は、公的サービスが民間サービスに優先する補完性の原則に基づいている。
4 中国の計画出産政策は、一組の夫婦につき子は一人までとする原則が維持されている。
5 韓国の高齢者の介護保障(長期療養保障)制度は、原則として税方式で運用されている。

社会福祉士国家試験 第33回(2021年)より解説

このような海外の制度比較の問題は、社会福祉士国家試験ではよく出題されています。ところが、このような問題を苦手とする人も多いです。海外まで広げるとどこまで覚えていいのかと、迷われる人が多いからしょうね。

理屈としては、教科書以外からは基本的には出題されないので、アドバイスとしては「社会福祉士の教科書で書いてあるところまでは押さえてください」なんて言い方になるのでしょうね。

ただ、ここではちょっと違う形で応えてみましょうか。

それは「過去問3年分」は前提を踏まえた応え方です。そんなことを踏まえて、選択肢2の解説をしてみましょう。

選択肢2 〇

第33回の国家試験を受けるにあたって、第30回から第32回の国家試験過去問は試験センターのHPに無料公開されていました。つまり、この過去3回分は第33回の国家試験の前提なのです。(この考え方は、こちらのページで説明しました。)

第30回問題27 各国の福祉改革に関する次の記述のうち、最も適切なものを1つ選びなさい。
1 スウェーデンのエーデル改革は、高齢者の保健医療は広域自治体、介護サービスはコミューンが実施責任を負うとする改革であった。
2 イギリスのブレア内閣の社会的排除対策は、財政の効率化、市場化、家族責任など「大きな社会」の理念に基づくものであった。
3 日本の介護保険制度は、給付に要する費用の全額を保険料の負担として、財源の安定を目指した。
4 ドイツの介護保険制度は、障害者の介護サービスを除外して創設された。
5 アメリカのTANF(貧困家族一時扶助)は、「就労から福祉へ」の政策転換であった。

この第30回問題27は選択肢1が正解なのですが、これと今回の第33回の選択肢2をつなげて読むと、1980年代から90年代に生じたスウェーデンにおける社会福祉制度の転換の歴史の整理になっていると気づいてほしいんです。というか、その程度までに、過去問を読み込んでほしいのです。誰がそう言ってるんですか?私がじゃないでよ。国家試験が受験者にそう伝えているんです。

じゃあ、つなげてみましょうか。

1980年代:スウェーデンの社会サービス法(1982年)では、住民が必要な援助を受けられるよう、コミューンが最終責任を負うこととなっている。(第33回選択肢2)

↓ しかし、それではうまくいかなくて・・・

1990年代:スウェーデンのエーデル改革(1992年代)は、高齢者の保健医療は広域自治体、介護サービスはコミューンが実施責任を負うとする改革であった。(第30回選択肢1)

しかもどちらも〇の選択肢です。つまり、これぐらいは知っておいてほしい、と国家試験は言っているのです。ということで、ちょっと解説しましょう。

北欧から1960年代にノーマライゼーションという発想が出てきたこと、これは誰もが知っているでしょう。(知らなかった人、今覚えればいいだけです。)つまり、それ以前の北欧には、施設があちこちにあって、施設中心の社会福祉がそこにあったのです。その反省からのノーマライゼーションなのです。そんな時代を経て、北欧の多くの国々では施設中心の社会福祉のあり方への反省とともに、制度変更が10年ぐらいかけてなされていきました。そこで1980年代に社会サービス法がまず出てきて、日本でいう市町村であるコミューン中心で全部やろうとしましたが、うまくいかないことも多く、日本でいう都道府県に当たるランスティング(=広域自治体)と、コミューンの役割分担をするようになった、ということなわけです。

そして、北欧スウェーデンのこれら改革が狙われるのは、2000年前後に生じた日本の新たな社会福祉制度は、これら北欧の知見も踏まえ、都道府県と市町村の役割分担を前提にしてできているからです。

ということで。正解は選択肢2ですが、他の選択肢もざっと見てみましょう。

選択肢1 ×

アメリカの歴史で、国家として社会福祉の制度改正を行った、そんな形で問われる時代は2つぐらいですかね。それぐらいに、アメリカという国は、いわゆる社会福祉は民間(もしくは宗教)に任せるという意識が強い国です。逆に言えば、そんなアメリカが国家として社会福祉制度について改正をするような在り方は、国家的危機状態でもなければなされないのです。それが世界恐慌後の、1930年代のニューディール政策、そして、社会運動の影響による1960年代の貧困戦争です。

そして、メディケア、メディケイドは、後者の時代である、1965年に成立した制度です。

メディケア:65歳以上の高齢者、身体障がいを持つ人、および透析や移植を必要とする重度の腎臓障害を持つ人を対象とした連邦政府が運営する制度
メディケイド:低所得者を対象に、州政府と連邦政府によって運営されている制度

ただし、これらの制度の対象外となる人は民間の保険への加入をせざるを得ませんが、貧困にあえぐ人々は民間保険すら入らないでいるわけです。これがアメリカの社会福祉上の問題です。

ということで、メディケア、メディケイドぐらいは知っておかなければ、アメリカの社会福祉の制度設計がわからないので、覚えておいてほしい、と国家試験は言っているわけです。

選択肢3 ×

まちがって「補足性の原理」と読み間違えていませんか?それは、日本の「生活保護法」の原理原則の1つです。

「補完性の原則」とは、決定や自治などをできるかぎり小さい単位でおこない、できないことのみをより大きな単位の団体で補完していくという考え方のことです。これが社会福祉においてトピックになったきっかけは、ヨーロッパで1990年代に国境を超えた共同体としてのEC(現在のEU)が構想されたときに、共同体と各国の関係性を示す考え方として採用されたことです。

この考え方は、今日の日本の地域福祉にも採用されているとも言えます。つまり、住民主体のまちづくりとして市町村レベルでの実践を優先させ、できないことを都道府県に、ということです。

選択肢の説明は、公と民の関係の説明をしていますが、補完性の原則では公/民を前提にしてはいません。

選択肢4 ×

中国では一人っ子政策を1979年から2014年まで実施してきました。急激な人口を抑制させるための政策で、マルサスの人口論の影響もあったようです。(マルサスの人口論は、先の問題26で出た、新救貧法の採用にも影響を与えた理屈です。これは知っておきたいですね。)ところが、その結果として、中国は高齢化への備えが不十分なまま少子・高齢化社会へ移行してしまいました。そこで、2016年からは一組の夫婦につき子ども二人までの二人っ子政策を採用していますが、その成果は20年スパンぐらいで見ていかないとわからないでしょうね。

選択肢5 ×

韓国は日本同様に少子高齢化が急速に進んでいます。そこで、日本の介護保険制度を参考に、韓国も社会保険方式で、高齢者の介護保障制度を作りました。それが、長期療養保障と呼ばれるもので、当然、原則として税方式ではなく、社会保険方式を採用しています。

この辺の背景ぐらいは知っておきたいところです。

正解 2

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