ソーシャルワークから見た「政府が行う社会調査の対象」

12社会調査の基礎
今回のポイント
政府が行う社会調査の目的を理解する
特定の市民が社会調査の対象外となる理由として考えらえることを検討する

問題84 政府が行う社会調査の対象に関する次の記述のうち、正しいものを1つ選びなさい。
1 国勢調査は、日本に常住する外国人を対象としない。
2 労働力調査は、調査時に求職中の人も対象とする。
3 社会保障生計調査は、被保護世帯を対象としない。
4 国民生活基礎調査は、20歳未満の国民を対象としない。
5 家計調査は、学生の単身世帯も対象とする。

社会福祉士国家試験 第33回(2021年)より解説

さて、この問題から、社会福祉士のみの専門科目に移ります。

社会福祉士専門科目の1科目は「社会調査の基礎」です。

「えー、ソーシャルワークで社会調査まで学ぶ必要あるのぉ~??」

その考え方、ひっくり返せばいいのです。

「ソーシャル」ワークである以上、あらゆる社会科学的な知見とつながるのです。
ただし、あらゆる社会科学的知見からソーシャルワークが成り立っているのではありませんよ。
ソーシャルワークに必要な知見をあらゆる社会科学からつまみ食いするんです。

大前提はソーシャルワークの見方・考え方
そこさえぶれなければ、社会科学の科目が増えようが、学ぶべきところは自ずと決まってきます
もちろん、国家試験で問われることだって、自ずと決まってくるのです。

ということで、問題を見ていきましょうか。

タイトルに「政府が行う社会調査の対象」とありますね。
社会調査で、まずソーシャルワークを学ぶ際に出てくるのは、1880年代にロンドンでおこなわれたブースによる貧困調査です。

この調査によって、貧困の原因として「個人の自堕落さ」などに向けられた眼差しが、労働環境などの「社会」へとむけられるようになっていくわけです。
「社会」に原因がある以上、慈善団体による私的活動だけでは、貧困に立ち向かえないことにになり、社会政策として国家による関与が必要不可欠だ、という結論が導かれることになります。

ただ、それによって日本では、特に昭和30年代以後から、社会政策のすべてを国家主導でやっていく、そんな体制が組まれてしまったために、高度経済成長以後、逆に多様な生きづらさを抱える個人を支えきれなくなりました。そこで、国家の関与は必要だけれども、中心は地域やそれを支える私的団体等にシフトしよう、というのが2000年代以後なわけですね。

とはいえ、「社会」に原因がある以上、今でも国家が関与しない限り、社会福祉は成り立ちえません。
そして、この問題のタイトルの「政府が行う社会調査の対象」の「政府」とは国家レベルの行政のことを言います。

政府国レベルの行政機関
例:内閣、中央省庁(厚生労働省などなど)
(※地方公共団体と対比する文脈では、敢えて「中央」政府とも言うことも。)
<対比>
地方公共団体=地方レベルの行政機関
例:市町村、都道府県
(※政府と対比する文脈では、あえて「地方」政府と言うことも。)

かつては、政府が社会政策のなんでも仕切る親分みたいなイメージがありましたが、今は、具体的な社会政策は地方公共団体がしきる、そういう仕組みになってきていますね。
すると、政府はいらないかというとそうではありません。全国規模の社会調査なんかは、政府の役割としてとても重要です。

「社会」っていうのは目には見えないですよね。
でも、それじゃあ社会政策の名の下に何をどうすればいいかわからないじゃないですか。そこで、「社会」に、見えるような形を与える必要があります。「社会」に形を与える方法としていろいろありますが、その一つとして社会調査があり、数字や言葉で、「社会」を見えるようにするんです。

ただし、テキトーな印象で社会に形を与えられては、印象で「個人の怠惰が貧困の原因だ」と言ってるのと同じことになってしまいます。「個人の怠惰」を貧困の原因とすること、それを否定するからには、印象ではなく、社会科学的な視点から社会に形を与え、それを踏まえて具体的な社会政策を通して貧困をなくしていく必要があるのです。

テキトーではなく社会科学を踏まえて社会調査をやるとなると、すげー金もかかるし人材も必要です。そうすると、国レベルじゃなきゃやれません

このような背景から、具体的な社会政策を地方公共団体がやるにしても、政府が社会調査をやる必要性があるのです。

具体的な社会政策を行うために、政府は社会調査をする

じゃあ、今日において社会政策を行うにあたって、社会調査の対象は誰に設定しますか。貧民街の労働者だけでいいですか?
ただ、今では、そもそも貧民街ってどこだよっていう疑問も生じますね。かつては典型的な貧民街ってあったんです。ドヤ街なんて言われたり。そんな典型的な街はなくなるとともに、誰がいつ何時でも貧困になる、もしくは誰もが生きづらくなり得る、それが1990年代以後の特徴ですよ。

また、国家は、日本国憲法から「すべて国民は健康で文化的な最低限の生活を維持する権利」を持ってるからそれを保障しろって、命じられているわけじゃないですか。国レベルの調査で、特段の目的がない限りは、特定の国民なんかにしぼって調査するなんてことはないんです。(特段の目的とは、例えば障害者施策のための調査は、そりゃ障害者に限定して調査するっていうことは当然ですね)

そんなことを踏まえて、選択肢1から5を眺めてみると、2つに分けられます。

選択肢1 × 選択肢3 × 選択肢4 ×

この3つの選択肢の共通するところは何ですか?
文末が「対象としない」で終わっているところです。

「国勢調査」をはじめ、「社会保障生計調査」や「国民生活基礎調査」は、社会政策の根拠となる重要な社会調査です。
すると、日本に常住する外国人だろうが、被保護世帯だろうが、20歳未満の国民だろうが、対象外にする理由がないんです。というか、これらの人を社会調査の対象外にしては、具体的な社会政策をやるために指標として社会調査は使えなくなるのですよ。

だから、この三つは即×になります。

選択肢2 〇

残った二つは「対象とする」で文末が終わっています

選択肢2の「労働力」調査だったら、児童は労働はできませんので、児童を対象外にするのは理由として正当です。
ただ、求職中の人を対象外にする理由はあり得ません求職者にこそ、社会政策としての具体的な「労働政策」が必要なのだから、対象にしないわけがないじゃないですか。

労働力調査は、働いている労働者の数を知ることが目的ではありません。
あくまで労働概念周辺での具体的な問題を解決する、そのために社会政策は何をどうやって行けばいいかを中央政府や地方政府が検討するために行うのです。

選択肢5 ×

一方で、選択肢5の「家計」ですが、家計問題を考えるにあたり、単身学生を除く発想はあり得ません。単身学生は家計的に厳しいだろうことが想像されるからです。

なのですが、家計調査の対象から外されています。理由は、社会調査に乗せにくいからです。

社会調査に乗せるためには、調査周辺の概念定義にあいまいさが残ってはダメなのです。

例えば、「家族」を調査したいとしても、社会調査で行われるのは「世帯」調査です。なぜなら、「家族」という概念は、概念としてはあり得ても、その定義はクリアカットで明確なものではないからです。すると解釈によって結果がブレてしまうわけです。

家族か否か、揺れる典型例として単独世帯の学生がいます。
単独世帯の学生は住む場が家族とは別れているものの、でもその家計は家族が支払っているなんてことはよくあります。一方で、単独学生が自分でバイトして家計を賄っている場合もあります。すると、すごく調査対象にするには難しい、というか、ややこしい。なので、「家計調査」の名目では対象から外しているんです。

正解 2

 

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