ソーシャルワークから見た「労災保険」

07社会保障
今回のポイント
・「労災保険」の主な対象を覚える
・他の社会保険と共通する「労災保険」の考え方を改めて確認する。

問題52 事例を読んで、労働者災害補償保険(以下「労災保険」という。)に関する次の記述のうち、最も適切なものを1つ選びなさい。
〔事例〕
運送会社で正社員として働いているFさんは、合理的な経路及び方法により通勤中、駅の階段で転倒し、負傷した。
1 Fさんの負傷は業務災害ではないので、労災保険の給付は行われない。
2 Fさんの雇用期間が6か月未満である場合、労災保険の給付は行われない。
3 Fさんが療養に係る労災保険の給付を受けられる場合、自己負担は原則1割である。
4 Fさんが療養に係る労災保険の給付を受ける場合、同一の負傷について、健康保険の療養の給付は行われない。
5 Fさんの勤務先が労災保険の保険料を滞納していた場合、労災保険の給付は行われない。

社会福祉士国家試験 第33回(2021年)より解説

問題51でも書きましたが、「社会保障」という科目では、社会保障という分野について何でもかんでも出題されるわけではありません。

社会保障の定義、覚えていますか?
社会保障」は、社会保険、公的扶助、公衆衛生、社会福祉の4つと、「50年勧告」では定義されています。とても範囲が広いのです。しかし、だからといって、これら全部が「社会保障」という科目で出題されるのではありません。

公的扶助」には、「低所得者に対する支援と生活保護制度」が主たる科目としてあります。

公衆衛生」ですが、今日の日本では、社会保障や社会福祉よりも、保健医療政策の中で行われています。

社会福祉」は、もちろん、社会福祉士の他の多くの科目が主たる科目です。

すると、4つの中で、「社会保険」という科目で出題されやすいものは、ほぼ「社会保険」に絞られます。その中でも、「医療保険制度」と「介護保険」は、他に主たる科目(「保健医療~」「高齢者~」)がある関係で、「年金制度」と「労災保険」と「雇用保険」、この三つぐらいに絞られてきます。さらに、「労災保険」と「雇用保険」については、年金、医療、介護の3つの保険に比べると、ソーシャルワークの観点からそこまで重要とは言えないので、年度ごとどちらかが出題される、といった傾向があります。

こんな傾向を踏まえて、「社会保障」も焦点を絞って勉強しさえすれば、効率よく6点ぐらいは取れる科目なのです。

ということで、今回の問題は労災保険ですね。さらに、事例問題です。「社会保障」はこのような形で、社会保険の条件を満たすかどうか、事例で問われることはよくあります。
ただ、これら条件もそこまで細かいものが出題されているわけではなく、最低限覚えるべき条件さえ分かっていれば解けるようになっています。

選択肢1 ×

労災保険も、制度として細かく見ていくといくらでも細かい知識はありますが、ソーシャルワーカーとして、問題文にある「合理的な経路及び方法により通勤中」は労災保険の対象になることぐらいは知っておくように、と国家試験は言っています。

「労災保険」の対象
①業務災害 ②通勤災害

この通期災害に「合理的な経路及び方法」での通勤中の災害であれば当てはまる、というわけです。

選択肢2 ×

これは「労災保険」における労働者の定義と適用基準が聞かれています。
社会保険のなかで、問題51では医療保険制度を見ましたが、どの組合に適用されるかなど、こまごました条件がありました。医療保険のみならず、年金保険や介護保険、雇用保険でも細かい適用基準はあります。
それらの例外が「労災保険」です。労働者として賃金を支払われる者は皆が「労災保険」の対象になります。したがって、「労災保険」は全く関係ありません。

選択肢3 ×にちかい△

選択肢1で、「労災保険」には主に①業務災害と②通勤災害の二つがあるとしていますが、この二つを全く同じ考え方で運用していいかどうか、ということを考えると皆さんでも多少考えるところがあるのではないでしょうか。通勤中の災害は、多少は本人責任もあるだろう、と考える人が多いでしょう。

制度上もそのような発想で、200円という軽い金額ではありますが、一部負担金が本人に課されます。ただ、選択肢の一割負担という考え方まで行くと、責任を負わせすぎ、というか、行き過ぎという感じがありますかね。

この選択肢は△でもいいです。もし×に近い△ぐらいで落とし込めればいいかな、ぐらいでいいと思います。

選択肢4 〇

これは一発で〇をつけたいところです。理屈としても、この選択肢に×をする論理はちょっとありえません。社会保険では論理が大事なんです。なぜなら、社会保険は一律平等にお金を市民からとっている以上、税金(=払う人によってお金の負担が異なる)政策以上に、一律平等や一貫した論理にこだわるのが社会保険という制度上の縛りだからです。

選択肢3と4に、「療養に係る労災保険の給付」という表現が出てきますが、「療養」という用語はわかりますか?

<療養の給付は何のため?>
療養=病気やケガの治療・手当のために休むこと
↓結果
休んだ分、労働ができない
→その分、生活するお金が足りなくなる
労働を休んだ分のお金を社会保険で負担する

ところが、労災保険と健康保険、両方で療養の給付をもらったとしたら、休んだ分×2になって、病気やけがで休んだほうが有利になってしまいます。
労働保障の穴をうめるための社会保険にもかかわらず、その穴以上を埋めてしまっては、制度の趣旨に反します。
そこで、当然ですが、社会保険の考え方を踏まえると、二重取りのようなありかたはあり得ません
よって、この選択肢は〇ということになります。

選択肢5 ×

選択肢2でも確認したように、「労災保険」はあらゆる労働者が対象になるわけです。であるにもかかわらず、使用者のミスによって、労働者が権利を奪われる、という発想はあり得ません。使用者に対して、別途ペナルティを課すなり、費用分の保険料を別途徴収するなり、それは制度上できるでしょう。ということで、これも社会保険の考え方から考えても×としか考えられないですね。

正解 4

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